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たかぎこういち「“イケてる大先輩”が一刀両断」

レナウンの親会社、中国“ファッション帝国”企業にデフォルト懸念…伊藤忠も共同出資

文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師
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「Getty Images」より

1.続く中国国有企業のデフォルトと山東如意科技集団の現状

 前回、アリババ創業者のジャック・マー氏の発言から推測した中国企業全体のキャッシュフローへの疑問を呈した。2019年はロイターの試算では、デフォルト(債務不履行)を起こしたのは国有企業6社と民間企業42社となっている。米中貿易摩擦の影響で、中国の経済成長率は約30年振りの低成長に減速している。

 米ウォールストリート・ジャーナルによれば、中国を代表する北京大学が過半数を所有する国策複合企業、北大方正集団も19年12月、人民元建て債の一部で支払いの遅延を起こした。北大方正は12月17日までに支払いを完了させなければ約30億ドルのドル建て債のデフォルトに陥る危機に直面していた。

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『アパレルは死んだのか』(たかぎこういち/総合法令出版)

 これまで中国政府は政府系企業の債務不履行が起こる前に対策を打ってきたため、問題が表面化しにくかった。しかし、ここにきてその方針が転換されつつあると理解しなくてはいけない。中国当局は、中央・地方政府を後ろ盾として政府系企業が暗黙の保証を受けているという市場投資家の思い込みを振り払おうとしているようにも映る。

 今回は、ファッション業界の注目事例として、中国の同産業を代表し「中国のLVMH」を自称する山東如意科技集団(SHANDONG RUYI GROUP/以下、山東如意)を取り上げ解説する。

 1998年には2億元(約30億円)であった売上を2016年には500億元(約7,500憶円)まで伸ばし、20年で売上260倍となる急成長を実現させた企業である。傘下には日本のレナウン、英国のアクアスキュータム、スイス創業のバリー、フランスのSMCPなどを保持している。

2.華々しい奇跡的成長とブランド買収歴

 山東如意は1972年に国営の毛紡績工場として設立され、1993年に民営化された中国繊維大手企業グループである。1995年に工員として17歳で働きだした現在の実質的オーナー、邱亜夫(Qiu Yafu)氏の指揮のもとに、積極的なM&A(合併・買収)を進めた。18年10月に米の繊維大手インビスタ(INVISTA)から「LYCRAライクラ」「COOLMAXクールマックス」などを約2,000億円規模で買収。これには19年2月には従来から資本・業務提携先である伊藤忠商事も推定200憶円程度を出資しているようだ。

“ファッション帝国”を築くことを明言し、19年6月には「Gieves&Hawkes(ギブス&ホークス)」「Cerruti1881(チェルッティ1881)」「D’URBAN(ダーバン)」「Aquascutum(アクアスキュータム)」をも子会社化し、川上から川下までのバリューチェーンの拡充が見えるに至った。巨額の買収を急ぎ、M&Aには40億ドル(約4,355億円7000万円)以上を費やしたともいわれている。

 筆者が調べた限り、17年3月に取得したアクアスキュータムはグローバルなラグジャリーブランド専門サイトで取り扱われている形跡はない。コレクションの発表も最近は耳にしない。日本では昨年春、神戸に路面店がオープンしたが、いまだ地方百貨店での取り扱いが続いている。バリーの買収後は、眉目を引く話題も発信されている様子はない。大型M&Aの成果は出ているのか、大きな疑問を感じる。

 ちなみに山東如意は13年に日本のレナウンを子会社化しているが、以下は昨年6月21日付けレナウンの「非上場の親会社等の決算に関するお知らせ」で発表された2018年12月末時点での財務諸表である。

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 19年10月に大手格付け会社ムーディーズは、山東如意をB3(投機的格付け)に格下げした。それを受け、山東如意が本社を置く山東省済寧市系の融資平台の済寧市城建投資が、26%の株式取得と20億元の債務保証を申し入れるなどし、デフォルトの懸念が浮上している。12月には英紙「The Sunday Times」が、ポルトガルのテキスタイルメーカーが山東如意を相手に、未払いの支払い請求裁判を香港で起こすと報道した。

 ブルームバーグによると、19年12月6日、山東如意のドル建て債が過去最低値を記録。充分な相乗効果に至っていないなかでの早急過ぎるブランド取得の結果がどうなるのか、今後も注視していきたい。

3.中国企業買収ブランドで起きた粉飾決算事件

 フランスの「LANVIN(ランバン)」も18年に中国の復星国際有限公司(Fosun International Ltd.)に買収された。復星国際もアメリカの「ST.JOHN(セント・ジョン)」、ジュエリーブランド「Folli Follie(フォリフォリ)」などを傘下に収める。11年に取得した「フォリフォリ」の決算について米ヘッジファンドのQCMが投資家から依頼を受け調査したところ、16年の財務報告書には販売店630店と書かれているが、実際には289店しかなかった(中国誌「国際金融報」より)。

 国際的な会計事務所PwC(プライスウオーターハウスクーパーズ)も、17年の実際の売上高は財務諸表上の数字より10億ユーロ(約1,250億円)も少ないと報じている(中国紙「新京報」より)。

 ギリシャ資本市場委員と検察当局は捜査に乗り出し、18年にフォリフォリグループを詐欺とマネーロンダリングで告訴、資産を凍結させた。フォリフォリは巨額の債務を抱えて極めて険しい状況に置かれている。ずさんな経営以前の大きな問題が、中国企業に存在する実例である。  

4.まとめ

 企業コンプライアンスの強化は世界的な流れにもかかわらず、日本では超一流企業とされてきた東芝、日産自動車などでも大きな問題が生じた。ましてや急成長を実現させたオーナーが指揮する企業では、なかなかコンプライアンスは遵守されにくい。中国は一党独裁の国家体制の企業に透明性を期待しにくいのも現実である。しかし、日本と中国の経済的関係は、今や両国にとってなくてはならないものとなっている。

 企業がカントリーリスクと成果を常に意識しながらビジネスを展開する必要があるのは、「海外取引の常」であることを再認識する必要があるといえよう。 

(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

カギ&アソシエイツ 代表/スタイルアドバイザー/コンサルタント(ファッション視点からの市場創造)/東京モード学園ファッションビジネス学科講師

1952年、大阪生まれ。奈良県立大学中退。大阪で服飾雑貨卸業を起業。22歳で単身渡欧後法人化代表取締役就任、1997年香港に渡り1998年、現フォリフォリジャパングループとの合併会社取締役に就任。オロビアンコ、マンハッタンポーテージ、リモワ、アニヤ・ハインドマーチなど海外ファッションブランドをプロデュースし、日本市場の成功に導く。また、第1回東京ガールズコレクションに参画。米国の有名ファッション展示会「d&a」の日本窓口なども務めた。時代に沿ったブランディング、MD手法には定評がある。2013年にファッションビジネスのコンサルティング会社「タカギ&アソシエイツ」を設立。著書に『オロビアンコの奇跡』『超入門 日・英・中 接客会話攻略ハンドブック(共著)』(共に繊研新聞社)、『一流に見える服装術』(日本実業出版社)、『アパレルは死んだのか』(総合法令出版)『アパレル業界のしくみとビジネスがしっかりわかる教科書』(技術評論社)などがある。
コンサルタントのタカギ&アソシエイツ

Instagram:@kohichi.takagi

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