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「バルサン」で有名だった中外製薬、なぜ売上2.9倍に急成長?時価総額は武田に肉薄

文=編集部
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「中外製薬 HP」より

 中外製薬の永山治会長が3月下旬開催の定時株主総会で取締役を退任し、名誉会長となる。小坂達朗社長が会長兼最高経営責任者(CEO)に就き、奥田修上席執行役員が社長に昇格する。

 永山氏は通商産業省(現経済産業省)初代大臣官房長、昭和シェル石油(現出光興産)会長を務めた故・永山時雄氏の長男。慶應義塾大学商学部卒業後、日本長期信用銀行(現新生銀行)に入行。中外製薬の創業者、上野十蔵氏の孫娘、真佐子さんと結婚し、1978年に中外製薬に入社。創業家の娘婿として92年に45歳で社長に就任。以来、およそ30年にわたり中外製薬の変革と成長を支えてきた。

 永山氏の最大の功績は、メガファーマ(巨大製薬会社)であるスイスのロシュの傘下に入ることを主導したことだ。2002年10月、中外製薬はロシュとの戦略的提携契約に基づき、日本ロシュと合併、ロシュは中外製薬の発行済み株式の59.9%を取得した。これにより、中外はロシュグループの一員となった。

 社名・代表者の変更はなく、経営の独立性を保つことで合意した。ロシュは中外製薬の東証一部の上場維持に協力した。外資系による買収なのに、中外製薬の経営の自主性や株式上場は担保された。ロシュと交渉した永山会長は「当時は社内外で懐疑的な意見が支配的だった」と語っている。

 中堅にすぎなかった中外製薬は、ロシュ傘下に入ったことから画期的な新薬を開発することに特化できた。当時のロシュのフランツ・フーマー会長と永山氏の経営者としての波長が合ったことが大きかった。中外は殺虫剤「バルサン」、栄養ドリンク「グロンサン」「新グロモント」、中外胃腸薬などで知られていたが、大衆薬は新薬開発に集中するため売却した。

「ヘムライブラ」効果

 ロシュグループの一員になるという賭けは吉と出た。傘下入り後の17年間で売上は2.9倍、純利益は5.9倍(19年12月期)となった。ロシュの傘下に入る直前の決算は赤字だった。19年12月期の連結決算(国際会計基準)は、自社開発の血友病治療薬「ヘムライブラ」の販売拡大が寄与した。競合薬に比べて投与回数が少ないうえ、静脈ではなく皮下への注射で済むためシェアを急速に高めた。ロシュの在庫不足に備えるため輸出を増やした。

 売上高にあたる売上収益は18年12月期比18%増の6861億円、本業の儲けを示すコア営業利益は73%増の2248億円、コア純利益は72%増の1676億円だった。未定としていた年間配当は1株当たり140円。54円の増配となる。20年12月期の売上収益は前期比8%増の7400億円、コア営業利益は22%増の2750億円、コア純利益は20%増の2010億円を見込む。4期連続で最高益となる。

ヘムライブラ」の販売が好調で、海外での販売を担うロシュから受け取るロイヤルティーなどの収入が伸びる。ロイヤルティーなどの収入は64%増の1600億円の見通しだ。ロイヤルティーなどの収入はそのまま利益に直結するから、国内の売上が薬価改定や後発薬の影響で減るのを十分に補える。

 好決算で、株価は5桁に跳ね上がった。中外製薬の1月31日の株価は1万1365円(900円高)と上場来の最高値を更新した。終値(1万1265円、800円高)を基準とした株式時価総額は6兆3048億円。第一三共の5兆2757億円を上回る。首位の武田薬品工業の6兆6632億円に迫る。

 中外株はヘムライブラ効果で大化けした。20年7月に1株を3株に分割する。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は投資判断を最上位の「オーバーウエイト」とし、目標株価を7300円から12500円に引き上げた。

 好業績を花道に永山会長が経営から退く。永山会長の盟友であるロシュのフランツ・フーマー会長もすでに経営から退いている。トップ同士の個人的つながりは途切れることになる。現在、ロシュ(ロシュ・ホールディング・リミテッド名義)は、議決権ベースで61.24%の中外株を保有している(19年12月末時点)。

 14年8月、「ロシュが約1兆円を投じて中外を完全子会社にする」と米通信社が報じたことがある。この“スクープ”は幻で終わったが、火のないところに煙はたたない。市場関係者には「ありそうな話」として記憶されている。

 親子上場の解消は時代の流れである。ロシュが中外製薬を完全子会社化に踏み切っても不思議はない。その場合、高騰を続ける中外製薬の株価がネックとなる。14年当時の1兆円の比ではない。残り4割の株式を市場から取得するのに2兆円以上が必要となる。

(文=編集部)

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