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『パラサイト 半地下の家族』は“世界最高水準の怪物映画”…日本映画界を凌駕

文=深笛義也/ライター
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『パラサイト』オフィシャルサイトより

 韓国のポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』は、第72回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞、第92回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門で受賞した。AACTA国際賞、ゴールデングローブ賞、全米映画批評家協会賞、シドニー映画祭、トロント国際映画祭など全世界で賞を獲得している。日本では1月10日に公開され、興行収入は15億円を突破した。

 この現象をどう見るか。韓国の芸能界での仕事の経験もある、クリエイティブプロデューサーから聞いた。

「高台に住んでいる金持ちの家族に、半地下に住んでいる貧しい家族が入り込んでいく。それがテンポよく展開されていくので、誰もが引き込まれていくと思います。同じポン・ジュノ監督の『グエムル-漢江の怪物-』『殺人の追憶』に出ていたソン・ガンホを始めとして、役者さんもとてもうまかったです。

 かなり緻密に組み上がった話で、セリフ1個が違っただけで破綻してしまうような緊張感のある物語を、自然に演じています。女優では、キム・デスン監督の『後宮の秘密』、キム・デウ監督の『情愛中毒』に主演したチョ・ヨジュンが、韓流映画の王道美人として金持ちの妻を演じていました。一方で、パク・ソダムはそうした王道美人ではないですが、一流大学出だと偽って美術教師として入って行く時、理学療法の専門用語を語るところなんか、とてもうまかった。彼女はチャン・ジェヒョン監督の『プリースト 悪魔を葬る者』に出演した際に役のために頭を丸刈りにしたことがあるんですけど、何をしてでも生きていくというタフさを演じていました」

 カンヌとアカデミーでのそれぞれ最高賞、パルム・ドールと作品賞の同時受賞はきわめて異例で64年ぶりだ。

「カンヌにはポン・ジュノ監督もよく行かれていたので、作品的にも合うし、賞を取っても全然おかしくないと思いました。一方アカデミーでは今回、『アイリッシュマン』『ジョジョ・ラビット』『1917 命をかけた伝令』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』とか、アカデミーに合うような作品が候補に挙がっていたので、『パラサイト』が作品賞を取ったというのはビックリしました。

 2011年にフランスの『アーティスト』が作品賞を取って、初の非英語圏の受賞だと騒がれましたが、これはサイレントでした。インドやメキシコなど外国出身の監督がいたとしても、それは多国籍なハリウッドに入り込んでいる方たちで、つくっているのは英語作品です。非英語作品の韓国映画が作品賞を取ったことは、アカデミーの異変といっていいんじゃないでしょうか。宮崎駿監督が『千と千尋の神隠し』でアカデミー長編アニメ映画賞を取った時は、『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『もののけ姫』など宮崎作品が世界中に広まっていたなかでの受賞でした。ポン・ジュノ監督がポーンと作品賞はじめ4部門で受賞したのは快挙です」

才能のある人にはお金が集まる韓国エンタメ界

 今回の『パラサイト』の世界的ヒット、映画賞の総なめ状態に対して、日本の映画人からは、「韓国は映画を国策として行っているから」という声が聞こえてくる。日本でも経産省と総務省の行う「クールジャパン政策」や、文化庁からも映画への支援がある。だが、そのすべてを合わせた額よりも、韓国政府が運営する韓国映画振興委員会の映画への支援は額にして一桁近くも大きいという。

「『少女時代』や『KARA』が日本を騒がせていた頃に、日韓のエンタテインメント事業で韓国に行って仕事をしてたんです。KBSをはじめいろいろなテレビ局を回ったんですけど、俳優、タレント、アーティスト、モデルもすごく勢いがありました。日本をはじめとしたアジア圏を攻めていくというマーケティング戦略で国が投資しているわけです。

 日本では東京藝術大学の大学院に映像研究科ができて話題になるくらいで、映画学科は日大芸術学部とか一部の大学にしかありませんよね。演劇学科のある大学も限られています。韓国では普通にいろいろな大学で演劇が推奨されていたり、子どもの頃からダンスのレッスンをみっちり受けていたりとか、日本とは本気度が違います。韓国も不況だったりして、大学受験は過熱しているのに卒業しても就職できない人も増えています。

 金持ちだったらそこから留学しちゃう道もありますけど、『パラサイト』で描かれているように貧しい人は半地下に住んだり、浮浪者になる人も増えて、格差が広がっています。エンタテインメントに関しては、プロダクションに所属しちゃえばお金のかけられ方が違うので、そこで夢を見て目指すみたいな流れはけっこうあると感じました。一部では金を稼いでも搾取されちゃうという負の側面もあったりしますけど、それよりは本気でやる人には投下する、才能のある人にはどんどんお金が集まるような流れはできているように見えました。

 エンタテインメントもトップはエリートしかいないですし、ソウル大学を出た女優もいたりしますけど、学歴よりは実力が重視されます。一流大学を出て財閥系の企業に就職するのが韓国での一般的な成功の道ですけど、エンタテインメントの世界ではそれとは違う進み方があるわけです」

 まさに『パラサイト』では、次々に事業に失敗した家長を持つ半地下に住む家族と、高台の豪邸に住む成功したIT企業社長の家族が描かれている。そのために、社会派の映画と捉えられることも多い。

「韓国で社会派というとキム・ ギドク監督、チェ・グクヒ監督、チャン・フン監督などが挙げられると思いますけど、ポン・ジュノ監督はどちらかというとマンガっぽいともいえるエンタテインメントの監督です。そこにヒッチコック好きの影響がすごく出ていて、優れたサスペンスの味わいに仕上がっています。

 だけど『パラサイト』で描かれているのは韓国の実相そのものです。たとえば半地下の家でトイレが高いところにあるのを意図した演出と受け取った人もいるようですけど、下水道との関係で実際にそうなっています。韓国の実相をコミカルに描いているんです」

 ちなみに『パラサイト』を観た映画業界関係者は、日本の映画界を取り巻く現状への危機感をこう口にする。

「ここまで社会派的要素とエンタメ的要素、さらにサスペンス的要素と人間ドラマ的要素を凝縮させた映画は、ちょっと観たことがない。その意味では現時点で世界最高水準の映画だと認めざるを得ません。今の日本でこのレベルの映画が生まれるのかと聞かれれば、正直難しいのではないでしょうか。そしてこのような怪物映画を生み出した、韓国の国を挙げての映画振興政策には恐怖すら感じます。このままだと、日本の映画界はどんどん韓国に後れを取っていってしまうという危機感を覚えます」

 映画史を塗り替えたといってもいい、『パラサイト』現象である。

(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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