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ロイヤルHD、ロイホと真逆の新業態店を展開…火と油を使わない&現金使えない

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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「GATHERING TABLE PANTRY」二子玉川店の外観

 ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を展開するロイヤルホールディングス(HD)が2019年12月、現金を使えないキャッシュレスの新業態店を本格スタートさせた。

 同社はロイホ以外に「天丼てんや」、サラダバー&グリル・レストラン「シズラー」、ピザレストラン「シェーキーズ」なども子会社を通じて展開する。

 新業態は「GATHERING TABLE PANTRY(ギャザリング テーブル パントリー)」の店名で、「気軽な食事、家庭の食材庫」との意味だという。17年、東京・馬喰町(中央区)に開業した研究・開発店舗の進化版として、同・二子玉川(世田谷区)に開業した。

 今回、同社関係者の好意で、店を視察しながら食事をともにし、話を聞いた。新業態に込めた思いや取り組みを紹介しつつ、消費者心理の視点から考察したい。

火と油を使わないで料理を提供

 機能性を重視した新業態なので、ロイホが行う「料理人が腕をふるう」店ではない。調理での最大の特徴は「火と油を使わない」ことだ。

 料理のコンセプトは「フレッシュ&フローズン」を掲げ、メニューの約3割はセントラルキッチンで仕込んだ料理を用意し、ひと手間かけて提供する。キッチンには、マイクロウェーブコンベクションオーブン(パナソニックと共同開発した加熱調理機器)、IHヒーター、スービークッカー(真空調理用加熱器)などをそろえ、お客の注文に対応する。

 たとえば、ショートパスタとしては「リコッタのラヴィオリ」(780円/税抜き、以下同)、「ペンネアラビアータ」(650円)など。しめのカレーとしては「ひとくち欧風ビーフカリー」「ひとくちビーフジャワカリー」「ひとくちスリランカチキンカリー」(いずれも480円)がある。これ以外にハンバーグやピザなどもあり、しっかり食事はとれる。

 同社は別事業として機内食や病院食も幅広く手がけており、そうしたノウハウを展開したのだろう。味は一定のおいしさで、同行した会社員女性はこう話す。

「ミニサイズで手軽に食べられますし、一品ごとの単価はロイホより安い。飲み会には向くかもしれませんね」

 一方で、料理の特徴を話したところ、カフェの女性経営者(地方で個人店を経営)は、こんな感想を述べる。

「冷凍食品はスピーディーに提供できますから、忙しい方にはうれしいサービスですね。一方で、調理の雰囲気はどうなのかなと気になりました。火と油は使わないそうですが、ジューと焼いたり、炒めたりする音はワクワクしますから」

 キッチンは開放的で作業も“見える化”でき、消費者心理には一定の対応があった。

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同店の人気メニュー

注文から会計まで端末画面で完結

 あえて料理から紹介したが、ここからは注文や会計の仕方を説明しよう。

 お客は飲食を注文するときに、備え付けのタブレット端末を使い、希望商品を入力、確定したら送信する。最近は導入する店も増えており、戸惑う人は減ってきたようだ。

「単に料理を並べた画像ではなく、たとえば『プロシュット・ディ・パルマ』では木のプレートの上に盛り付け。イタリア・ガローニ社の生ハム、イタリア・ベルケル社のスライサー写真を横に置き、ストレスなく雑誌をめくるようなタブレットの操作性にもこだわりました」(ロイヤルHD広報担当)

 作業面ではさまざまな効率化を図った。お客が自ら注文内容を入力すれば、店員は注文を取りに来る業務から解放され、別の業務を行える。飲食は運んで来てくれるので、料理の説明やお客との対話には時間を割けるという。他店のように気軽に声もかけられる。

 飲食代金の支払いはクレジットカードか電子マネー、QRコード決済のいずれかで行う。二子玉川店では利用履歴が残るのを嫌がるお客のために、プリペイド型「楽天Edy」も用意。どうしても現金派は、ここでチャージして支払う。

 従業員に対しては「生産性向上と働き方改革をめざした」。キャッシュレスにより、時間的負担が大きかった閉店後の売上代金確認や夜間金庫への入金などがゼロになった。

 こうした一連の取り組みは興味深い。ロイヤルHDは、外食業界のなかでも早くから働き方改革に取り組み、ブラック労働にならない工夫もしてきた。

 ただし、あくまでも従業員への対応だ。興味を持つ人は多いだろうが、飲食店の来店客には関係ない“社内事情”だ。飲食の味、接客、店内の雰囲気とは別の話になる。

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タブレット端末に表示された料理メニューの例

「ロイヤルデリ」として中食にも対応

 この店の特徴はまだある。19年9月に立ち上げた新ブランド「ロイヤルデリ」という一般向け冷凍食品も販売する。二子玉川店店内には陳列ケースがあり、持ち帰りできる。

 たとえば「シーフードドリア」(650円)、「マハラジャチキンカレー」(530円)、「ドミグラスハンバーグ」(630円)などから、「フレンチトースト」(250円)もある。半世紀以上前から業務用冷凍料理を提供して培ったノウハウを生かしたという。

「帰宅途中に立ち寄り、これだけ買って帰られるお客さまもいます」(ロイヤルHD広報)

 女性の就業率が7割を超え、男女ともに忙しい現代社会。外食でも内食(家庭での料理・食事)でもない「中食」(外で買い自宅で食べる)市場は伸びている。日本惣菜協会の「2019年版惣菜白書」によれば、18年で市場規模は約10兆2518億円に達した。09年(同8兆540億円)に比べて、10年で27%も拡大した成長市場を見据えたものだ。

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「ロイヤルデリ」の商品ケース

今後の課題は「脱・楽天」

 二子玉川は、15年に楽天グループが本社機能を移転させた。それ以降、街の雰囲気が一段と変わり、巨大IT企業のおひざ元にもなった。

 今回の店も同社と組んだ、さまざまな取り組みを行う。たとえば、店で用いるオーガニック野菜は「Rakuten Ragri」(楽天の農業サービス)の収穫物を使用する。

 まだ一般のお客には関係ないが、楽天グループの従業員には、期間限定で実施中の「顔認証決済」もある。これは事前にスマートフォンに顔写真を登録すれば、iPadに顔をかざすだけで会計が済む。楽天技術研究所の顔認証技術の応用だという。

 だが、新業態店が「楽天の社員食堂」的なイメージがつくのは避けたいところだ。

 楽天が「楽天市場」の配送料一律無料化を打ち出した問題は、中小出店者からの反発を招き、独占禁止法違反の疑いがあるとして、公正取引委員会が立ち入り検査を行った。この件の可否は横に置くが、さまざまな企業現場を取材すると、同社の傲慢な対応を批判する声は耳にする。特定の企業色がつくのは、新業態としてどうかと思うのだ。

 引いた視点で見ると、二子玉川店には「BtoC」(企業対消費者)の一面もあれば、「BtoB」(企業対企業)の一面もある。今後は整理して次の出店を進めないと、店の性格がわかりにくい――と取材者目線では感じた。

飲食店の「基本性能」と「付加価値」

 普段、カフェを分析する記事も多く書く筆者は、飲食店の特徴を「基本性能」と「付加価値」に分けて説明している。飲食店の基本性能とは「場所と飲食の提供」だ。

 二子玉川店の付加価値を消費者視点で考えると、たとえば以下のようになる。

(1)カフェのような空間で気軽に飲食ができる
(2)アルコールメニューが揃い、フードメニューも多い
(3)座席のイスにはクッションが置かれ、長時間座っても疲れにくい
(4)飲食の価格は割と手頃で、持ち帰りもできる
(5)キャッシュレスなので現金を持たなくても使える

 捉え方によってはほかの要素もあるが、まずはこんなところか。こう考えると、現在はキャッシュレスばかりが目立つが、その前に飲食店としての評価が先になる。

 以前も紹介したが、マーケティングの視点では、商品の訴求には「機能的価値」と「情緒的価値」がある。今回紹介した二子玉川店は、機能的価値を訴求した店だ。

 飲食店を利用する消費者には、両方の価値を求める意識がある。ただし、その時の気分で変わる。無意識のうちに「今日の自分にピンと来た店」を選ぶのだ。

 冒頭で紹介した女性たちのコメントを思い出していただきたい。「ミニサイズで手軽に食べられる」「飲み会には向く」「忙しい人にはうれしいサービス」などで、筆者も同感だ。現時点では、そういうシーンに向く店といえよう。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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