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三浦展「繁華街の昔を歩く」

埼玉&東京北側の逆襲…女性が本当に住みたい街調査で意外な結果、船橋や西東京市が人気

文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表
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足立区北千住の繁華街(Getty Imagesより)

 2月に『首都圏大予測〜これから伸びるのはクリエイティブ・サバーブだ!』(光文社新書)を上梓した。近年、東京都心の人口増加と反比例して郊外住宅地の人口減少が問題視されているが、そういうなかで果たしてどんな郊外が生き残るかを、私はこの数年考えてきた。その総決算が本書である。

 まず昨年、三菱総合研究所の3万人調査「生活者市場予測システム」に追加調査として、首都圏居住男女2400人を対象に「住みたい郊外調査」を行ない分析をした。また2014年から19年の住民基本台帳を基に直近の人口移動状況を分析。さらに2015年の国勢調査小地域集計を基に、市区町村ではなく、何町何丁目という町丁別に分析を行なった。

 ひとつの結論としては、埼玉と「東京北側」の逆襲という現象が起こっている。たしかに20〜40代を中心に23区への人口移動が起きているが、23区から郊外への人口移動はもっと多く、特に埼玉県への移動が多いことがわかったのだ。これは、もともと埼玉県で生まれ育った現在の40歳前後の世代が、神奈川、千葉で生まれ育った同世代よりも人口が多く、彼らが東京から埼玉へ戻ってきていることが重要な原因である。また、外国人が埼玉県に増えている。特に、新宿、大久保、池袋、上野などに多いアジア系の外国人が、川口、蕨などに転入していることが第2の原因である。

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『首都圏大予測〜これから伸びるのはクリエイティブ・サバーブだ!』(三浦展/光文社新書)

 23区内で見ても、近年は足立区、荒川区、豊島区といった「東京北側」の区が地価上昇ベストテンの9地区を占めている。これは中央区、江東区、港区など東京都心から南、東にかけての開発が一段落し、特に東京五輪後にほぼ終息すること、そしてそれらの地域のマンション価格が高騰しすぎて普通の人々には手が届かなくなったことが理由であろう。そのためこれまでは地価の安かった足立区、荒川区、豊島区などの北側の土地をデベロッパーが買いあさり、マンション用地として確保し始めたということが地価上昇の理由である。

 そうやって開発してみると、たしかに東京北側にはさまざまなメリットがある。たとえば荒川区東日暮里(日暮里駅東側)に住むと、上野、秋葉原、神田、東京、有楽町、新橋〜品川といった都心業務地に非常に近い。文化的にも上野の音楽、芸術、秋葉原のアニメなど充実している。日暮里から京成で成田空港には33分である。もちろん羽田空港も近い。つまりサラリーマンにとっては非常に便利。しかも家賃は中央線でいえば吉祥寺と同じ値段で、駅から近くほぼ新築の物件が借りられるのだ。特に共働きの多い現代の夫婦にとってこれらは非常に魅力的であろう。

 また現代の30〜40代は就職氷河期世代でもあり、ブランド志向が弱いといわれている。格好をつけて吉祥寺とか自由が丘とかに住もうと思わない人が多い。そういうシンプル指向の価値観も、東京北側や埼玉県の人気を押し上げる一因であろう。

「住みたい郊外調査」

 先述した「住みたい郊外調査」の結果を簡単に紹介する。まず単純集計でランキングを見ると、1位は横浜市西区・中区、2位は船橋市・鎌ヶ谷市・習志野市、3位藤沢市・平塚市・茅ヶ崎市、4位武蔵野市、5位鎌倉市・逗子市・葉山町、6位横浜市港北区・都筑区、7位横浜市青葉区などとなった。

 よくある住みたい街ランキングでは1位、2位を横浜、吉祥寺が争うが、船橋地域が2位になっている。船橋は近年住宅開発が進み、東武アーバンパークライン(野田線)沿線に新しいマンションが増え、大型ショッピングモールが増えるなど発展していることが要因だろう。

 ただし、こうしたランキングは、そもそも人口の多い地域の回答者数が多いために、人口が多い横浜市民の意見が強まり、結果、横浜の中心部が1位になるというバイアスがかかっている。そこで私は回答者数を実際の人口に比例して調整してみた。結果、1位は港北区・都筑区となり、武蔵野市も3位に浮上、三鷹市も4位につけ、8位には国立市が来るなど、中央線の強さが目立つ結果となった。東京駅から1本、多様な店があり、教育環境も良いという強みがあるためであろう。

 また、居住地別に住みたい郊外を集計すると、今住んでいる県内から出たいという人はほとんどいない。お金があれば23区内に住みたいが、そうでない人は現状維持であり、ほぼ自分が今住んでいる市区町村の中かその近くでしか引っ越すつもりはないことがわかった。

 では23区内にすでに住んでいる人がどうかというと、首都圏以外に住みたいという人が多く、首都圏内では箱根の人気が高い。また、「週刊東洋経済」(東洋経済新報社)の「住みよさランキング」でいつも1位になる印西市に住みたいのは誰かと集計してみたら、茨城県民が多いということもわかった。

三多摩在住・既婚で子どもがいる女性は西東京市を選ぶ

 現在、人口を増やすために必要なのは女性が住みたくなるかどうかである。特に、子育て世代の支援が重要である。そこで女性を軸にしてさまざまな集計を行った。すると、三多摩居住の女性では既婚で子どもがいる場合、西東京市が1位となるという意外な結果が出た。しかし西東京市は武蔵野市の隣であり、バスで吉祥寺にも出られる。西武池袋線沿線なら副都心線乗り入れで、新宿、渋谷にも通勤しやすい。なのに地価は武蔵野市よりずっと安い。となれば子育てしながら働く女性が好むのはうなづける。

 千葉県居住の既婚子あり女性では船橋地域に住みたい人が27%と高い。埼玉県居住者の既婚子あり女性ではさいたま市内が人気だが、川口市、和光市も人気であり、これも通勤利便性のためであろう。既婚子あり女性と対照的な専業主婦では青葉区が大人気だったが、これからの時代は専業主婦はどんどん減るだろうから、青葉区人気がいつまで続くのかは注視したいところである。

 また青葉区は未婚で親元に暮らす正社員女性でも人気があった。だが未婚で1人暮らしの正社員の女性だと1位は横浜市西区・中区、以下、三鷹市、鶴見区・神奈川区、さいたま市西区、立川市、武蔵野市、調布市、川崎市各区など、便利でかつすこし猥雑な街が好まれている。1人暮らしだと女性でも、仕事帰りに一杯やってから帰宅するということが多いためであろう。横浜の歓楽街でホルモン焼屋の多い野毛が若い女性にも人気だが、それが調査結果でも裏付けられた。

 国勢調査小地域集計の分析だと、女性が働く割合が高い地域は都心部から目黒、世田谷などを経て、川崎・横浜臨海部方面に広がるが、一方で、武蔵野、三鷹、調布、川崎市中原区、高津区、川口、和光など、23区に隣接する郊外部に広がっている。

 つまり、1人暮らしであれ既婚であれ、働く女性は都心か、23区に隣接する、通勤に便利な地域に住むという傾向が明らかなのである。それらの地域は高度成長期には工場地帯があり、下町的な商工混在の地域だったところが多く含まれる。そこは近年再開発されてマンションが建ったところである。ニュータウンのようにきれいではないが、下町的なミックス感があり、居心地の良さがある。そういうところもこれらの地域の人気の一因であろう。

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図 15歳以上の女性の就業率が高い地域(町丁別。2015年国勢調査小地域集計)

 逆にいうと横浜ブランドにすがっている横浜は、中心部以外は今後苦しいかもしれないと私は考える。市の南部はすでに人口減少超高齢化に悩んでいるが、打開策はない。市の南部に住むくらいなら都心に近い川崎市に住みたいという人が多いからである。横浜市がカジノなど統合型リゾート開発を進めるのも、超高齢化した市の財政を健全化するための財源が欲しいという理由が大きいであろう。だが統合型リゾートは横浜市中心部にできるのであり、もしできたら、中心部の人気が維持されるかどうかも疑われる。

 大きなリスクをもたらす統合型リゾート開発よりも、自然が豊かでゆったり暮らせる郊外のメリットを活かしながら、これまでの郊外に足りなかった文化性やコミュニティ性、あるいはクリエイティブな要素を強めていくことが大事なのではないか。

 そういう思いから、私は本書で「クリエイティブ・サバーブの時代へ」という提案型の予測をしたのである。サラリーマンの男性と専業主婦と2人の子どもという従来の典型的な核家族が住む郊外ではなく、1人暮らしもシングルマザーもフリーランスも外国人も、多様な人々が住み、交流し、共生し、新しいライフスタイルをつくる。それが「クリエイティブ・サバーブ」である。

(文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表)

三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表

三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表

82年 一橋大学社会学部卒業。(株)パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。
86年 同誌編集長。
90年 三菱総合研究所入社。
99年 「カルチャースタディーズ研究所」設立。
消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案している。
著書に、80万部のベストセラー『下流社会』のほか、主著として『第四の消費』『家族と幸福の戦後史』『ファスト風土化する日本』がある。
その他、近著として『データでわかる2030年の日本』『日本人はこれから何を買うのか?』『東京は郊外から消えていく!』『富裕層の財布』『日本の地価が3分の1になる!』『東京郊外の生存競争が始まった』『中高年シングルが日本を動かす』など多数。
カルチャースタディーズ研究所

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