中西貴之「化学に恋するアピシウス」

コーヒーに体脂肪減少や糖尿病改善の効果か…1日2杯で善玉腸内細菌が増加

「PIXTA」より

 コーヒーは健康に良いのか、悪いのか。この点に関する研究は古くから行われていますが、この数年の論文発表を見ると、適切な量であれば健康に良いという論調が圧倒的に多いように感じています。今回は、最近報告された2例を紹介します。

人間の健康に直結する腸内細菌とは

 腸内細菌はその名の通り、私たちの腸内に常に生息している細菌のことで、人間では約3万種類、数百兆個が棲みついています。糞便とともに排出されますが、腸内で次々に増殖するため、私たちの体重のうち2kg程度は腸内細菌の重さです。

 腸内細菌は実験室で培養することが困難な菌が多いため、その全体像はいまだ十分には解明されていませんが、細胞の数でいえば、人間自身の細胞数よりも腸内細菌の細胞数のほうがはるかに多く、私たちの体は腸内細菌の巣であるということもできます。

 もともと、腸内細菌は消化吸収やある種のビタミンの合成に関与しているとされていましたが、近年の研究で、そればかりではなく宿主(人間)のアレルギー反応の種類に関与したり、免疫機能を調節したり、中枢神経に作用したりすることもわかってきました。私たちの体は、腸内細菌によって操られているといっても過言ではないのかもしれません。

 一方で、人間の側も腸内細菌に対して影響を及ぼしていることがわかっています。たとえば、著しいストレスを受けると腸内細菌の中で悪玉菌が勢力を増し、それが原因で健康のバランスが崩れる負のスパイラルに陥ることや、食べ物・生活環境によって腸内細菌の善玉菌と悪玉菌の割合が変化することなどが知られています。

カフェインが腸内細菌のバランスを整える?

 そのような腸内細菌に影響を与える食品のひとつに、コーヒーがあります。米国ベイラー医科大学の研究によると、コーヒーには腸内細菌のバランスを改善し、善玉菌を増やす作用があることがわかりました。

 カフェインの摂取が2型糖尿病などある種の疾患の発症リスクを低減するという研究が多く発表されていますが、コーヒーは無数ともいえる化学物質の混合物ですので、なぜそのような作用があるのかはわかっていません。

 一方で、コーヒーにも含まれるカフェインが腸内細菌に影響を与えるという報告がされています。前述の腸内細菌の役目から判断すると、カフェインが腸内細菌に影響を与えるのであれば、コーヒーを飲むことによってなんらかの健康増進作用が期待できます。

カフェインの構造式

 今回の研究では、カフェインの摂取と腸内細菌の組成との関係を調べるために、実験協力ボランティアの大腸から内視鏡で組織の一部を採取し、腸内細菌の分析を行いました。

 その結果、過去1年間にコーヒーを1日2杯以上飲んでいた人は、それ未満の人と比べて善玉腸内細菌が多く、菌の種類のバランスもとれていることがわかりました。さらに、コーヒーの摂取量が多い人のほうが腸内細菌のバリエーションが豊富で、大腸全体にバランスよく分布していました。それによって、コーヒーを頻繁に摂取する人の腸内は炎症に対する抵抗性があり、肥満や代謝異常の原因となる悪玉腸内細菌が少ないことが明らかになりました。

 依然として、コーヒー腸内細菌に良い作用をするメカニズムについては解明できていませんが、カフェインが重要な役割を担っている可能性が高いと考えられます。

 これまで、脂っこいものや塩分が多すぎるものなど、一般に健康に悪い食品を摂取すると、その食品成分が体内に吸収されて健康を害すると考えられていました。しかし、実はそのような直接作用は限定的で、腸内細菌が介在することによって、たとえば悪玉菌が脂肪を分解して有害物質のエンドトキシンをつくり出すなど、不健康状態が生み出されているようです。

1日4杯のコーヒーに脂肪燃焼効果か

 2型糖尿病は不摂生な食生活や食べ過ぎにより発症する疾患で、慢性化すると心疾患やがん疾患を併発し、最悪の場合は失明や手足の切断に至る恐ろしい病気です。しかし、この2型糖尿病の改善にもコーヒーが役立つという報告が出てきました。

 シンガポール国立大学は、コーヒーが2型糖尿病の特徴であるインスリン抵抗性を改善するかどうかの実験を行いました。体重過多の実験協力ボランティアを2つの群に分け、片方の群には1日に4杯のカフェイン入りインスタントコーヒーを飲んでもらい、それ以外の人には、比較対象としてカフェインレスのコーヒーを4杯飲んでもらいました。ボランティアには、どちらのコーヒーを飲んだのかは知らせていません。

 そして、実験開始から24週間後の体脂肪量は、カフェイン入りコーヒーの摂取群が比較対象の人々に比べて4%近く低い値になりました。研究者らは、コーヒーに含まれるカフェインが代謝を亢進させ、脂肪がより燃焼したためであると考察しています。

 ここで気になるのは、毎日4杯もカフェイン入りコーヒーを飲んで健康に悪影響は出ないのか、という点ですが、1日4杯というのは米国人の平均的な量であり、今回の実験でも、カフェインレスを飲んだ人たちと比較して健康状態に悪影響は見られなかったということです。

 ただし、カフェインは睡眠を妨げたり、不安を誘発したり、頭痛や胃の不調などの原因になることも知られています。脂肪を燃焼させるために過剰なカフェインを摂取することは生活の質を低下させる可能性があるので、注意が必要です。

【参考資料】
The effect of coffee consumption on insulin sensitivity and other biological risk factors for type 2 diabetes: a randomized placebo-controlled trial.
『コーヒーの科学』(講談社/旦部幸博)

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

宇部興産品質保証部に勤務するかたわら、サイエンスコミュニケーターとしてさまざまな科学現象についてわかりやすく解説

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