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「翻訳なんて全部間違っている」翻訳家・柴田元幸が考える「理想の翻訳」とは

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※画像:『ぼくは翻訳についてこう考えています -柴田元幸の意見100-』(アルク刊)


 英米文学の様々な作品の翻訳をはじめ、文芸誌『MONKEY』の編集長や朗読フェスの開催、日本翻訳大賞の選考委員など、多彩な文学活動を展開する翻訳家・柴田元幸さん。

 そんな柴田さんが翻訳について過去30年話したり書いたりしてきたことを「100」の意見としてまとめた一冊が出版された。『ぼくは翻訳についてこう考えています -柴田元幸の意見100-』(アルク刊)だ。

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 エッセイや講演、対談、インタビュー、大学の講義などさまざまな文献や音声資料、ウェブサイトから選び抜かれた100の「意見」。そこからは、柴田さんの翻訳に対する考え方が見えてくる。

 そのトップバッターを飾るのは「理想の翻訳」について。「光村図書」ウェブサイトに掲載されたインタビューで、柴田さんは次のように話している。

合っているか間違っているかでいえば、翻訳なんて、全部、間違っているんですよ。何もかも全部を伝えるなんて、原理的に無理なんですから。ただ、「どう間違うのがいちばんいいのか」を細かく考えるしつこさがあるといい、とはいえるかもしれませんね。(p.16より引用)

翻訳で伝わっていないことというのは、いくらでも挙げることがでこます。その中で、「ここでは、何が伝わるのがいちばん望ましいのか」ということを見極める。(p.16,17より引用)

 「翻訳なんて全部間違っている」と言い切った上で、何を伝えるのが一番望ましいかを考えることを促す。

 また、他の「意見」では、いくら正確でも訳者が原文を読んだときの快感が伝わる訳文になっていなければ意味がないと述べており、小説の翻訳に対する一貫した姿勢を垣間見ることができるだろう。

 さらに、この本の面白さの一つは、それぞれの「意見」に対して今の柴田さんが自らツッコミのようなコメントを入れていることだ。それは柴田さんの言葉に対する私たちの理解をサポートしてくれるときもあれば、自身の言葉にちょっとした「修正」を施すときもある。

 「理想の翻訳」では、ボルヘスの「学問の厳密さについて」から、縮尺一分の一の地図が作られたものの、人々から無用の長物と判断された末路について引用しつつ、何もかも全部伝える翻訳も「縮尺一分の一の地図みたいなもの」とコメントを添えている。

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 自分で翻訳をしているけれど、行き詰っている人。これから翻訳をしたいと思っている人。海外文学が好きで翻訳家はどんな考え方をしているんだろうと気になっている人はもちろんのこと、翻訳に少しでも関心があれば、楽しめる一冊だ。ユーモアあふれる柴田さんの言葉が心に響くだろう。

 また、親交が深い村上春樹さんの翻訳に触れている章もあるので、村上春樹さんの翻訳本が好きという人も見逃せない一冊である。
(金井元貴/新刊JP編集部)

※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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