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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

大阪と京都、ホテル客室が3~5割増で稼働率&料金暴落…異業種参入で欠陥ホテルも

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
大阪と京都、ホテル客室が3~5割増で稼働率&料金暴落…異業種参入で欠陥ホテルもの画像1
「Getty Images」より

 ホテルをはじめとする宿泊業界が活況を呈している。一口に宿泊業といっても、その形態はさまざまだ。旅館業法においては宿泊施設として、旅館、ホテル、簡易宿所、下宿などが定められている。また18年6月には近年台頭してきた民泊について新たに「住宅宿泊事業法」を施行し、民泊を法的に位置付けた。

 それでは宿泊業におけるそれぞれのカテゴリーは現在どんな状況にあるのかを見てみよう。

 実は日本では、つい最近までは宿泊業においてはホテルよりも旅館が圧倒的に多かった。2005年には旅館は棟数で5万5567棟、客室数で85万室を数え、ホテル8990棟、69万8000室をはるかに凌駕していた。この数値が客室数において逆転するのが2009年。そして2017年現在では旅館は3万8622棟、68万8000室と棟数で約30%、客室数で約19%も減少している。一方、ホテルは同年で1万402棟、90万8000室と棟数で約16%増、客室数で約30%もの高い伸びを示している。

 ホテルに追い風となったのはインバウンド(外国人訪日観光客)の急増である。国内の人口減少や年齢構成の高齢化で今後国内のビジネスパーソンの宿泊需要が見込みにくい一方で、高齢者の増加やインバウンドの増加はビジネス需要とは異なる観光需要を喚起し、ホテルに対するニーズを増やしていったのだ。

 旅館と聞くと、温泉宿など観光地にある宿という概念が強いが、もともとは都会にも数多く存在し、ビジネス客や東京など都会に出てきて子供に会ったり観光をする地方からの客たちに利用されてきた。また、東京などの大都会に修学旅行にやってくる学生を泊める旅館なども数多くみられた。

 だがこうした旅館は比較的小規模な家族経営のところが多かったために、時代の進展とともに一部はビジネスホテルなどに看板を書き換えながら細々と生きてきた。そして今、多くの旅館は経営者の高齢化や相続の発生などで事業承継が叶わずに廃業の道を選ぶものが続出、旅館はその数を急激に減少させてきたのである。

 旅館経営を圧迫したのはホテルの隆盛ばかりではない。旅館業法上、簡易宿所と呼ばれる宿泊形態の存在の拡大だ。簡易宿所といえば以前は日雇い労働者などがその日の宿泊所として利用するものなどが大半だった。ところが最近ではビジネスパーソン人口の増加にともなって、通常のホテルよりも安く泊まれるカプセルホテルがその数を急激に伸ばしてきた。風呂場や洗面などの水回りを共同化できるために設備投資を抑えることができ、また役所の規制もホテルに比べれば緩いのが事業者側のメリットだ。

 また16年4月に宿泊客が10人未満の場合は客室面積の規定を宿泊者数×3.3平方メートルでよいとするなどの規制緩和を受け、特に東京や大阪の都心部や京都などの観光地で「ホステル」という名称で、外国人観光客や宿代を少しでも安くしようとする若者を中心に支持を集めるようになったのだ。

 こうした規制緩和や宿泊客の多様化などを背景に簡易宿所数は17年には3万2451棟となり、2005年比で約45%もの急増ぶりを示している。民泊も18年6月に住宅宿泊事業法の施行を受けて一時は「ヤミ民泊」といわれる無許可の民泊の多くが廃業してその数を減らしたが、その後は伸び続けていて19年10月時点で、新しい法律の下での届け出数は2万件を超えるに至っている。

“客室余り”

 こうしたホテル、簡易宿所や民泊などの急増は、一方で「つくりすぎ」との懸念や批判を生んでいる。実際にはどうだろうか。

 19年から21年において国内の主要な都市、観光地における新規開業予定のホテル客室数についてCBREから興味深いデータが発表されている。この調査によると京都では既存の客室数の約5割にあたる客室が新規供給されるとされ、21年には客室数は4万室に、大阪では既存客室数の約3割にあたる客室が新規供給されて、21年には8万室になるという。この2つの都市に行くと街中のあらゆるところで建設工事が行われている光景を目にすることができるが、その多くが新築ホテルの建設工事である。

 すでに影響はこの2つの都市で実際に出始めている。一昨年頃までは客室稼働率が90%を超えるホテルが続出。平均宿泊単価もうなぎのぼりの状態であった京都、大阪だが、昨年後半あたりから、特にビジネスホテルを中心に稼働率が10%から15%も落ち込むところが出てきている。また稼働率の低下に伴って宿泊単価も下落に転じている。大阪市内のビジネスホテルも一時は東京並みに1泊1万円を下らないとされたが、最近では5000~6000円で宿泊できるようになった。例年であれば紅葉シーズンの11月にはホテルの予約はほとんど不可能だった京都でも、昨年はずいぶん部屋を余らせたようで、宿泊単価も一時よりは相当下落している。

異業種参入の弊害

 こうした状況は利用者側からみれば、けっして悪い話ではない。宿泊の選択肢が増え、自分のお財布や好みに応じていろいろな宿が体験できるからだ。

 だが一方でホテルの供給ラッシュがいろいろな歪みをもたらしていることには注意が必要だ。私はホテルをはじめとする不動産の事業プロデュース業を営んでいるが、最近新規のホテル計画として持ち込まれる案件を見ていて危惧されることが増えてきたのだ。

 供給ラッシュの背景には、急増する外国人需要などを見込んで、これまでホテルなどの宿泊業を行ってこなかった、いわゆる異業種からの参入が増えている。それはそれで結構なことなのだが、ホテルとしての基礎知識があまりに欠落した計画が多いのだ。

 たとえばマンション専業デベロッパーなどが、マンションが売れなくなってきたのでビジネスホテルに参入しようと計画した図面が持ち込まれることがあるが、ただワンルームマンションを小さくしてフロントだけを付けたような安易な計画が目に付く。最近のワンルームマンションは一部屋が20から25平方メートルだが、これを10から15平方メートルに縮めて台所を取っ払って一丁あがり、みたいな企画が多いのだ。

 だが、実際のホテルはリネン室というリネン類をストックする部屋が、できれば各階に必要であることがわかっていない。大きなスーツケースを引きずる客のために廊下幅は、1.6メートル以上は確保したいのだが、狭小な廊下。マンションの各住戸の玄関扉は通常は外開きだが、ホテルでは内開きが基本だ。ホテルは部屋に踏み込まれる危険性があるため、女性でも全力で中から扉が押せるように通常は内開きで設計する。

 また廊下を多くの客が通過するので外開きの扉は危険でもあるのだ。ホテルの共用廊下も「外廊下」は安全上の概念から基本的にNGだ。エレベーターの設置も客室を多く確保するために小さなホテルだと1基しか設けない計画が多いが、10階建て以上にもなると朝のチェックアウト時には大混雑となりクレームの対象となる。

 またリネン交換のワゴンを乗せると客がエレベーターに乗れないなどトラブルに陥ることがあまり考慮されていないのだ。最近はインバウンドの客が増え、彼らが大きなスーツケースを持ち運びする。こうした荷物を預かれるクロークを設置しない、あるいは狭すぎて収容できずにエントランスロビーに放置されてしまうような計画も目に付く。

 宿泊マーケットはひところのような、まったく予約がとれないような状況から脱し、いろいろ魅力的な宿泊施設も増えてきたが、利用する側としてぜひ気を付けたいのが、利便性や安全性の問題だ。新しいホテルなどはたしかに設備も新しくて気持ちが良いものだが、ホテルの基本を理解せずにつくられたホテルが多くなってきたことは気を付けたほうがよさそうだ。

 ホテル経営は10年、20年にわたる長丁場でそのブランド価値が発揮されるビジネスだ。これまでのマンション業界のような“売ってしまえば、はい、おしまい”のビジネスではない。粗製乱造の先には優勝劣敗が待っているのがビジネスの掟。今後のマーケットを見守りたい。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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