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中国・習近平の政治生命が風前の灯…習批判が渦巻き権力構造に異変、共産党崩壊の序曲か

文=宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト
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北京を視察する中国の習近平国家主席(写真:新華社/アフロ)

 中国に「黒い白鳥」が舞い降りた。

 ブラックスワンは「あり得ない」とされるシナリオを意味する。それが、とうとう現実となった。「COVIT-19」と名づけられた武漢発の新型肺炎は瞬く間に中国全土に拡大し、2月18日に死者は2000名を超え、なお被害が拡大している。

 中国の、およそ4億人が住む地域が封鎖されている。すなわち隔離状態にある。その上、およそ3億人の出稼ぎ労働者たちが交通遮断のために職場に戻れない。かくして、「世界の工場」と言われた中国の生産基地の空洞化は予想より迅速である。

 新型コロナウイルスの急激な広がりのスピードと同様に、ゴーストタウン化が進んでいる。都市が荒廃し、人心がすさみ、巷には終末論が蔓延する。

「習近平よ、武漢へ行け」の大合唱

 致命的なのは、サプライチェーンの寸断である。トヨタ自動車の中国工場はエンジンの輸入が止まり、生産ラインは1本だけ、日産自動車は逆に中国で生産している部品が止まり、九州の2つの工場がストップした。自動車部品の3割は中国で、中国に進出した日本企業が製造しているため、1カ所の部品が止まれば全体のシステムが動かなくなる。中国だけに依存したシステムのリスクがいかに大きいかを物語る。

 アップルは部品調達がうまくいかず、売り上げの大幅な下方修正をした。中国経済の沈没状況はすさまじいことになった。特に対米輸出の激減ぶりが顕著だが、新型コロナウイルス災禍の以前から、製造業の多くが中国から逃げ出し、「世界の工場」は烈風吹きすさぶ荒野になりつつあった。

 パニックに襲われ、北京の王府井、上海の南京路などに人がめったに通らなくなった映像が世界に流れた。日本でいうと、銀座から人通りがなくなった惨状を連想するといい。

 習近平は2月5日に「中国はいかなる対応も取れるし、ウイルス退治には自信を持っている」と虚言を吐いた上、2月10日になってマスク姿で北京の住宅地を視察して同じセリフを発した。ネット上には「習近平よ、武漢へ行け」の大合唱が起きた。

 重大な懸念はむしろ諸外国から発せられており、2月10日に英国政府は「コロナウイルスは公衆衛生への重大かつ差し迫った脅威だ」と宣言するに至る。英保健省は「こうした規制において打ち出される措置はウイルスのさらなる伝染を遅らせたり、防いだりするのに効果的な手段とみなされる」とした。

 ロシアでは新任の中国総領事を2週間、領事館に留まるよう要請し、外務官僚との面会はその後で、と釘を刺した。その上、ロシアは中国との国境を封鎖し、航空機の乗り入れを禁止し、まだ死者が出ていないのに中国籍の旅行者の入国も禁止した。

 不手際が目立ったのはWHO(世界保健機関)である。WHOは中国の政治圧力に屈して1月30日まで「非常事態」の宣告を延ばし、2月初旬に西側諸国の多くが旅行制限を実施したときにも「旅行制限するほどではない」と言ってのけた。

 WHOは2月11日にようやく「新型コロナウイルス」を「COVIT-19」と名づけ、「感染拡大が世界に及ぼす影響はテロリズムを超える恐れがある」などとして、一段の警戒を呼びかけた。WHOが中国のカネに浸食され、いいように操られている実態を示唆した。

中国共産党、崩壊の序曲

 さて、全人代(全国人民代表大会)が延期され、5中全会(中央委員会第5回全体会議)の開催も見通しが立たず、北京自動車ショーも中止に追い込まれている中国で、次なる問題は習近平の政治生命がいつまでもつのか、ということであり、権力構造の激変が予測される。

 権力の頂点は政治局常務委員会で、その「トップセブン」は中国共産党という独裁システムのヒエラルキーの頂点にある。政治局常務委員会の下に政治局委員が控え、25人のメンバー(トップセブンもあわせて)がいる。その下が200人前後の中央委員。そして、同数ほどの中央委員候補。このメンバーが集うのが中央委員会だが、現在、開催の目処が立っていない。

 習近平、李克強、汪洋、栗戦書、王滬寧、趙楽際、そして韓正がトップセブンだが、派閥的にいえば習派は栗戦書だけだ。王滬寧はゴーストライターの学者にすぎず、習派には入らない。趙楽際は習近平の子飼いと言われたが、汚職事件の不始末から習とは距離を置いている。

 となると、反習近平の李克強、汪洋はもとより共青団(共産主義青年団)であり、ここに江沢民派の韓正が合流した格好だから、とどのつまり習近平はトップセブンのなかに身内がいないことになる。孤軍奮闘、部下は面従腹背。その上、習のために死んでもかまわないという捨て身のメンバーは見当たらず、足下がふらついている。

 もともと習にはカリスマ性がなく、存在感が希薄な政治家だった。福建省で17年間もくすぶり続け、運命の女神が微笑まなければ、今頃は隠居生活のはずだった。

 ところが、最大のライバルだった薄熙来が夫人の英国人殺人事件によって失脚するという僥倖に恵まれた。また、統御できないとされた人民解放軍については、反腐敗キャンペーンを展開した王岐山の豪腕によって、徐才厚、郭伯雄を失脚させた。さらに、公安を牛耳った周永康もついでに葬ったことにより、軍幹部に忠誠を誓わせ、江沢民派の影響力を弱めてきた。そして、それまで利用した共青団にも平然と冷や飯を食わせる。

 その上で、国家主席の任期を撤廃し、習独裁は恒久的に続くかに見られた。ところが、党内はささくれだって習批判が渦巻き、2018年秋に予定された4中全会(中央委員会第4回全体会議)の開催は1年も遅れる事態となった。19年には北戴河会議で長老たちからつるし上げを食らい、失脚寸前にまで追い込まれていたのに、香港大乱の発生によって共産党が団結して危機に当たることが優先され、かろうじて政治生命を保ち得た。

 その衰えきった習近平の政治生命は、新型コロナウイルス災禍によって暴風雨に見舞われ、実は風前の灯であり、そのため全人代も5中全会も開催できない状況に追い込まれたのだ。

 1986年に起きたチェルノブイリ原発事故はソ連共産党を弱体化させ、ミハイル・ゴルバチョフがグラスノスチを掲げて登場した。そして、91年にソ連共産党は崩壊した。

 中国は2019年からチェルノブイリ原発事故を超える災禍にまみえ、5年後には中国共産党が崩壊する序曲を奏で始めたように見えるのは、筆者ばかりではないだろう。「さようなら、習近平」と唱える日が近いのかもしれない。

(文=宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト)

宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト

宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト

 「日本学生新聞」編集長、雑誌「浪曼」企画室長を経て、貿易会社を経営。1983年、『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。30年以上に亘る緻密な取材で、日本を代表する中国ウォッチャーであり、海外からも注目されている。『中国分裂 七つの理由』(阪急コミュニケーションズ)、『人民元がドルを駆逐する』(ベストセラーズ)、『中国財閥の正体』(扶桑社)、『本当は中国で何が起きているのか』(徳間書店)など著書多数。数冊は中国語にも訳された。また作家として『拉致』『謀略投機』(共に徳間書店)などの国際ミステリーも執筆。。

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