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枝久保達也「考える鉄道」

鉄道もドライバレス&自動運転へ…JR東日本・山手線が走行試験、JR九州と対照的な方策

文=枝久保達也/鉄道ライター
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山手線の車両(「Wikipedia」より/Nimakutetsu)

 2020年は鉄道と自動車の「自動運転元年」になりそうだ。自動車の分野では、昨年改正された道路運送車両法と道路交通法が5月に施行され、公道上で「自動運転レベル3」と呼ばれる条件付き自動運転が可能となる予定だ。

「レベル2」までの自動運転では、システムが加減速やハンドル操作を行っている最中も、常にドライバーが自身の責任で安全を確認しなければならなかった。しかし「レベル3」では、特定の場所、状況に限られるものの、緊急時に運転手が運転操作を引き継ぐことを条件に、システムの責任で運転操作が行われる。これは「レベル4」以降の運転手を必要としない完全な自動運転の実現に向けた画期的な第一歩となる。

 実はこうした自動運転の指標は鉄道にも存在する。それが「GoA(Grade of Automation)」である。「GoA 0」は路面電車などの、安全装置を使用せず、運転士の目視による安全確認の下で行われる運転。「GoA 1」がいわゆる普通の鉄道で、信号装置によって安全を確保して行われる運転。「GoA 2」は地下鉄丸ノ内線や南北線、つくばエクスプレスなど、運転士が乗務しながらも運転操作はATO(自動列車運転装置)が行う半自動運転だ。

「GoA 1」と「GoA 2」では、自動車の自動運転「レベル1」「レベル2」と同様、機械のバックアップ等を受けながら運転士の責任のもとで運転が行われる。つまり、国家資格である動力車操縦者免許を持った運転士が必ず列車の先頭に乗務している必要がある。

 これに対して「GoA 3」は添乗員付きのドライバレス運転、「GoA 4」は一切の乗務員が存在しない無人運転だ。これらはATOが運転の責任を負うため、運転士免許を持った乗務員がいなくても列車を運行することができる。鉄道においても「レベル3」以降が、本当の「自動運転」ということになるだろう。

省令が高いハードルに

 しかし現状、日本国内で「GoAレベル3」相当の添乗員付き無人運転を行っているのは「舞浜リゾートライン」のみ。「GoAレベル4」の無人自動運転を行っているのは「ゆりかもめ」「日暮里・舎人ライナー」「シーサイドライン」「ポートライナー」「六甲ライナー」など新交通システムと愛知高速交通東部丘陵線「リニモ」のみで、一般の鉄道には普及していないのが実情だ。というのは、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」が、自動運転導入に高いハードルを課しているからだ。

 同省令の解釈基準は、運転士が乗務しない自動運転を行うための条件としてATC(自動列車制御装置)の採用とともに、人などが容易に線路内に立ち入ることができない構造であることなどを定めている。これらの要件を後から適合させるのは非常に困難であるため、路線の計画・建設時から準備した路線でないと自動運転を実施できないのが実情だ。

 この高いハードルは無人運転を想定したものであるが、自動運転とはイコール無人運転ではない。駅間の長いローカル線も、利用者の多い都市部の通勤路線も、非常時の対応などを考慮すれば完全な無人運転は非現実的だ。そこで現実的な「解」として浮上しているのが、運転免許を持たない乗務員が列車の先頭に乗務する「ドライバレス運転」である(正式な呼称ではないが「GoA 2.5」とも呼ばれている)。

 国家資格である動力車操縦者免許を持つ運転士が必要なくなれば、労働人口が減少していくなかでの要員確保や、養成に関する費用削減など、メリットは大きい。バス業界における運転手不足ほどの喫緊の課題ではないとしても、できるだけ早めに手を打っておきたいというわけだ。

対照的なJR東日本とJR九州

 こうした流れをふまえて、既設路線への自動運転導入を目指した動きが始まっている。JR東日本は2018年12月から1月にかけて山手線でATOの走行試験を実施。またJR九州は2019年12月から香椎線でATOの走行試験を行っている。

 ただ、2つの試験は対照的だ。デジタルATCを導入済で、全駅へのホームドア設置を進めている山手線は、残る1カ所の踏切の撤去の検討も進めており、いわば地下鉄や新交通システムと同じ方向性での自動運転導入を目指している。

 一方の香椎線は、踏切もあり、駅にホームドアは設置されておらず、保安装置にATS(自動列車停止装置)を使用しているローカル路線であるが、JR九州はATSベースの安価なATOを開発することで、香椎線への自動運転導入を実現したいとしている。

 ATSベースのATOは機能上、問題がないか疑問に思う人もいるだろう。しかし、JR九州が導入するデジタル式のATS-DKは、列車の走行位置と、車上のデータベースが持つ走行区間ごとの制限速度と照合することで、連続的に速度のチェックを行う簡易ながら高度なシステムである。これをベースとしたATOはATS-DKの指示する制限速度以下の速度で運転指示を行う仕組みだ。

 走行試験は順調で、国土交通省から認可が得られ次第、2020年中に香椎線で営業列車を用いた実証運行を開始する予定だという。

 山手線と香椎線、どちらも課題となるのは人や車両が線路内に立ち入った場合など、異常時の取り扱いだが、この対処法も対照的だ。山手線の自動運転ではICTやセンシング技術などを併用した安全確保も想定しているのに対して、香椎線の自動運転は乗務員の前方監視によって安全確認を行う。異常を認めた場合は運転台の非常停止ボタンを操作することで列車が非常停止する極めてシンプルなシステムだが、最新のセンシング技術を用いるよりも安価で、確実だ。

 JR九州のチャレンジが成果を収めれば、自動運転のハードルは大きく下がり、都市鉄道以外でもドライバレス運転の導入が可能になる。これは地方の鉄道ネットワークを維持するうえで大きな一歩となる可能性がある。また「シンプルな回答」が示されることで、山手線やすでにATOを導入している地下鉄のドライバレス化に向けた議論も加速する可能性がある。

(文=枝久保達也/鉄道ライター)

枝久保達也/鉄道ライター

枝久保達也/鉄道ライター

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。

Twitter:@semakixxx

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