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ベビーシッター助成金を利用→知らない内に所得税が年35万円増額…制度制定時に指摘出ず

文・構成=編集部
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音喜多駿氏(撮影=編集部)

 もらえるお金が増えていないのに、知らないうちに払う所得税だけが増えている。一般市民にしてみれば恐怖でしかない状況が、各地で起こっているのかもしれない。

 地方自治体が子育て・保育関係で利用者個人に助成金を支給する場合、その助成金は「雑所得」として扱われ、課税されてしまうという問題が社会的にクローズアップされている。問題発覚の契機は、東京都が待機児童対策として2018年度から実施している「ベビーシッター利用支援事業(ベビーシッター事業者連携型)」の利用者から疑問の声が上がったことだった。どうやら問題の元凶は「所得税法」の不備にあるらしい。都議として同事業の制定に関わり、国会を通じた「所得税法改正」で同問題の解決を求めている日本維新の会参議院議員の音喜多駿氏(東京都選挙区)に話を聞いた。

利用者本人に助成金を支払う画期的な事業

 東京都のベビーシッター助成事業は「都がベビーシッター代を利用者に直接給付する仕組み」になっている。「子どもが保育所等に入所できるまでの間、保育所等の代わりとして、東京都の認定を受けた認可外のベビーシッター事業者を1時間250円(税込)で利用できる」というもので、「0歳児~2歳児の待機児童の保護者」「保育所等の0歳児クラスに入所申込みをせず、1年間の育児休業を満了した後、復職する人」が対象となる。事業を所管する東京都保育支援課によると2020年度には利用料は1時間150円(税込み)になる予定だという。

 本年度、事業を実施しているのは新宿区、台東区、目黒区、大田区、渋谷区、中野区、北区、板橋区、葛飾区、三鷹市、府中市、国立市、福生市、東大和市で順次、増加する予定だ。助成対象が保育事業者ではなく利用者本人に給付するので透明性があり、柔軟な対応が可能になることが期待されている。同課によると19年度は12月末までに約250人の利用があった。

自分の懐に入らず事業者に支払わる助成金が「雑所得に」

 だが問題は「利用料が安い」ことの裏側にあった。つまり単純に1時間250円でベビーシッターを使える制度ではなく、「事業者に払う250円以外の大半の費用を、利用者個人が受け取った助成金から支払っている」のだ。実際にお金をもらっていなくても、帳簿上は事業者に支払われた助成金分が個人の雑所得になってしまう仕組みだ。

 音喜多氏は自身のブログで、この状況を次のように説明する。

「例えば、このベビーシッター助成をフルに使うと年間300万円くらいの助成金が受けられるのですが、年収400万円の方が利用すると年収が700万円と見なされるということになります。実際はベビーシッター代に使っているだけで、所得が増えたわけでもなんでもないのに、この場合なんと所得税が35万円も増額されることになります(※世帯所得400万円、子ども2人の家庭を想定して試算)」

 学費や障害者給付などの助成金については所得税法9条で定める課税の例外規定にあたるので雑所得に計上されないが、同規定には保育費用に関する定めはない。確定申告をしなければ納税していないことになってしまう。

現状にそぐわない「所得税法」

 政府が強力に推し進める子育て支援の方針を受けて、全国の自治体でさまざまな助成が行われている。これは東京都の事例だけではない可能性もある。音喜多氏は以下のように国会で早急にこの問題を議論するべきだと語る。

【音喜多氏の解説】

 所得税法の例外規定では、学資(奨学金給付)や障害者給付は非課税となる定めがありますが、保育は一切ありません。どうしてこうなっているのか、財務省と議論しました。かなり古い法律なので、その制定当時まで正確に推し測ることはできないということでした。

 これは私の推察ですが、保育というものは「お金を出して国がサポートするもの」ではなかったということだと思っています。例えば改正前の児童福祉法でも、保育行政の対象者は「保育に欠ける子」という定義がありました。基本的に保育は家庭がやるもので、それが「欠損した子」を例外的に保育園に入れるというルールだったのです。財務省の担当者レベルの見解ですが、そうした昔の児童福祉法と所得税法には理論的な整合性があり、結論として現状とそぐわない設定になってしまっているのではないかということでした。

 日本は基本的にハコモノ行政で、施設とか事業者側に補助金を出すのが主流です。そもそも利用者側に給付するという発想がありませんでした。施設、事業者にお金を出して利用者に安く使ってもらうという仕組みです。これは行政や権力者にとって都合がよく、時には癒着につながります。一方の事業者も補助金でやっていけるので、市場努力をしなくなりがちです。効率は良いのかもしれませんが、弊害がすごくあると思います。

 少なくとも利用者側に給付すると、権力者と事業者の恣意的な癒着はなくなり、一定の市場原理が働くので、合理的だし画期的だと思っていました。しかし、税法上の壁にぶつかってしまいました。

所得税法という完全な盲点

 私が同僚とともに都議時代にこの事業を推進し制定した時は、完全に盲点でした。おそらく東京都はどこかのタイミングで気が付いていたのかもしれませんが、事業を予算化する際、こういう議論はまったく出てきませんでした。「このままでは所得税が跳ね上がる」という反対もありませんでした。

 政治家として当時気が付いていた人は誰もいなかったと思います。運用が始まって、利用者から疑問の声が上がった時に、そこで初めて気が付いたというのが事実です。東京都が気付いていたとしても、国法である「所得税法」の問題なので、都議会でなんとかなる話ではありません。問題があるのは基本的に国の法律で、東京都に落ち度はないと思います。国の制度に欠陥があるのだから、それを直すのは国会の役割だと思っています。

 都はパンフレットなどでこうした事実を周知していますが、都のベビーシッター助成制度を利用されている方のうち、何人が納税の義務が生じていることをわかっているか、疑わしいです。特に利用が予想される月給制のビジネスパーソンは確定申告する必要性があまりないので、気が付かない可能性が高いからです。そして、納税の義務に気が付いていない人を税務署はどう取り締まるのか。実際にとても難しいと思います。現状では誰も得しません。つまりルール自体の運用に無理があり、形骸化しているのです。

 だからこそ、「どのように対象者から税金をとるか」を考えるより、「この法律をなくしていくこと(所得税法の例外規定に保育を入れて非課税とすること)」を進めることでウィンウィンになるのではないかと思います。

政府はなぜ所得税法改正に及び腰なのか

 3月から参議院でも所得税法に関する議論が始まります。そこで積極的に取り上げていきたいです。麻生太郎財務相は「東京都はお金があるからこういう事業ができる」「例外的な一部の方々が困っているだけ、(法律を改正するほどの)立法事実がないのではないか」といったニュアンスの主張をされています。つまり「立法を変えるほど、困っている人がたくさんいるのか」疑問で、まずは調査をするべきというのが今の政府のスタンスです。

 私も調査をしてみましたが、杉並区の「子育て応援券」(編注:一時保育、子育て相談、子育て講座など有料の子育て支援サービスに利用できるチケットを、就学前の子どもがいる家庭に発行)も同じような仕組みです。区も納税義務があることに気が付いていませんでしたし、区議も知りませんでした。私がこの件などに関して国税庁に問い合わせてみたら、それは「課税対象です」と指摘されました。その後、区は調査中です。

 都道府県レベルではなく区や市といった基礎自治体で同様の事業を行っている事例は他にもあると思います。例えば、マタニティーパスといった形の交通費助成制度やタクシー代助成などを利用者側に給付している自治体はかなりあります。他の事例がより多く出てくれば、東京都だけの問題ではなくなり、法改正の要件となる立法事実が増えます。そうすれば、政府も改正に踏み出すしかなくなると思います。

 この問題に政府が及び腰なのは、現状がよくわからないということがまずあります。都だけでなく、他でもあるかもしれない。国の財政のテクニカルな話になるのですが、現行法制下で同様の事例でどれくらい納税されているのかもわかっていません。仮に、例外規定をつくって税収インパクトがどれくらいあるのかの想定ができないのではないでしょうか。まずあり得ませんが、仮に「税収が1兆円減少する」となれば安易な改正はできないということです。

 また、この国は基本的に事業者にお金を出すというマインドでやってきて、その制度設計を変えたくないのだと思います。国が事業者側にお金を出すことがスタンダードになっていて、いろいろな「利権」が生じています。その制度が変わってしまえば、保育所や幼稚園の業界団体などが困ってしまい、反発するでしょう。そして、そこから票をもらっている族議員も今の仕組みを壊したくはないはずです。だから、安易に「例外規定をつくってしまえばいい」とは言いません。

 そんな中、東京都がベビーシッター事業を通じて新しい助成の仕組みを踏み出したことは意義が深いと思っています。事業者やハコモノにお金をあげてよろしくやっていた慣行を脱して、本当に困っている方にお金をあげる仕組みに転換するきっかけになると思っています。反論も予想されますが、今後、抜本的な議論をしていきたいです。今回の事例を、「困っている人に直接お金をあげるほうが合理的だ」ということを考える奇貨にすべきだと思います。

(文・構成=編集部)

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