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小林敦志「自動車大激変!」

ホンダの新型フィット、真のライバル車はトヨタ・ヤリスではなくN-BOXに?

文=小林敦志/フリー編集記者
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ホンダの「フィット」(「フィット|Honda公式サイト」より)

 2019年秋に開催された第46回東京モーターショーで公開されたホンダの新型「フィット」が、2月14日に正式発売となった。折しも、トヨタ自動車が2月10日に「ヤリス」を正式発売したばかりであった。

 こうなると、どちらが仕掛けたかは別としても、トヨタとホンダのガチンコ勝負の様相を呈しているようにも見える。フィットは本来ならば19年中に市販デビューする予定が延びていたとのことなので、はじめからガチンコ勝負を想定していたとは思えないが、結果的には発売日が近くなってしまった。こうなれば、自動車メディアを中心に“ヤリスvs.フィット”のような対決企画が誌面やウェブサイト上をにぎわすことになるだろう。

 ただ、両車の月販目標台数を見ると、ヤリスが7800台に対し、フィットは1万台となっており、月販目標台数では“ガチンコ”というわけではなさそうな様子が伝わってくる。ある事情通は、こう語ってくれた。

「ヤリスは見た目ではかなりエッジがきいており、趣味性の高さが目立っています。そのため、後席やラゲッジスペースもそれほど広さが確保されているというわけではありません。トヨタは同クラスに、後席スライドドアを持ち背の高いルーミー&タンクがありますので、居住性能や積載性能を重視する人には、そちらを勧めることができます。

 さらには、ハイブリッド専用車のアクアやパッソもありますので、何がなんでもヤリスを売らなければならないというトーンでもなく、結果的にトヨタのコンパクトカーを選んでもらえればいいと考えているようにも見えます。事実、ヤリスはヴィッツの流れをくみ、今年5月まで(5月よりトヨタディーラー全系列で全車種の扱いを開始予定)はネッツ店での専売扱い(東京地区を除く)となっています(その意味では、ネッツ店は専売のうちにヤリスの積極販売を進めようとする動きが見られるようだ)。ヤリスの大々的な拡販を考えていれば、デビュー時点からトヨタディーラー全系列扱いにするでしょうね。

 一方で、ホンダはある意味、フィット1台でヤリスだけでなくルーミー&タンクやアクア、パッソのような役目もこなさなければなりません。当然、実用性も重視されます。同クラスですが、向いている方向は必ずしもピッタリ同じとはいえないでしょう」

クロスオーバーSUVの派生モデルが登場か

 ヤリスvs.フィットのメインステージは、おそらく両車ベースの派生モデルとなる、クロスオーバーSUVモデルになるのではないかとの見方もある。新型フィットには“クロスター”という、クロスオーバーSUV風のモデルがラインナップされているが、これはしょせん“なんちゃって”モデルといっていいだろう。

 コンパクトハッチバックというのは、世界市場を見ると、コンパクトクロスオーバーSUVに販売面で押されているのが実情。世界1位の中国では、もともとサイズにこだわらず、トランクのついたセダンボディの支持が圧倒的に高いなか、その後ニーズの中心は完全にSUVに移っている。

 世界第2位の北米市場でも、市場全体がSUVメインとなっているなかで、コンパクトサイズモデルでもニーズはクロスオーバーSUVタイプがメインになろうとしている。筆者は主にアジア圏を見ているが、新興国でもインドネシアのように政策的に税制面などでハッチバックスタイルの優遇などがされなければ、セダンのニーズが圧倒的に高いなか、SUV人気が高まっている。

 先日、2年ぶりに訪れたインドで開催されたAUTO EXPOでも、会場で発表される新型車や展示されている市販車の多くはSUVであった。そして、街なかでは先代フィットベースとなる“WR-V”がたくさん走っていた。コンパクトクロスオーバーSUVは日本市場でも、トヨタ「ライズ」の大ヒットを見ても“稼げるモデル”であるのは間違いない。ヤリスもフィットも、セカンドステージとして派生クロスオーバーSUVのラインナップを行うのではないか、という話は自然な流れといってもいいだろう。

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AUTO EXPOで展示された「WR-V」

 ちなみに、トヨタはさらにヤリスベースで過去にラインナップしていた「ファンカーゴ」のようなMPV(多目的車)のラインナップを予定しているとの情報も入っている。今でもドイツあたりを訪れると、ファンカーゴが大切に乗り続けられている光景を多く目にするので、こちらも量販が期待できると判断しているようである。

 新型フィットの月販目標1万台というのもけっこうインパクトがあるが、先代フィットはデビュー時に1万5000台を目標としていた。しかし、直近の19暦年の月販平均は約6200台、以下、18暦年は約7560台、17暦年約8161台、16暦年約8805台と、ここ数年、月販目標台数はクリアできていない。デビュー当初こそ1万5000台という大きな目標を掲げたものの、その後なかなか目標を達成できないのは、他メーカーライバル車に販売台数で大きく水をあけられているというわけでもない。やはり、「N-BOX」の存在が大きく影響しているといっても過言ではないだろう。

“怪物級”の販売を続けるN-BOX

 全軽自協(全国軽自動車協会連合会)の統計を参考に、19年4月から20年1月までのN-BOXの累計販売台数を計算すると、すでに20万台を超えており、19事業年度締めでの通称名別(車名別)販売台数ナンバー1は、ほぼ確実となっている。現行モデルは17年8月末にデビューしており、今年夏で3年を迎えようというのに、月販目標1万5000台に対し、19年4月から20年1月までの10カ月平均でも月販2万台オーバーを記録するなど、まさに“怪物級”の販売を続けている。

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 消費税率が引き上げとなった10月以降は多少のパワーダウン傾向が見られるものの、現行モデルデビュー以来、ほぼ衰えることのない販売状況が続いている。ホンダが発表した19暦年締め販売統計によると、国内販売台数は全体で72万2003台となり、その内訳は登録車35万7171台、軽自動車36万4832台となっている。そして、ホンダが19暦年の1年間に販売した新車に占める軽自動車は約50.5%、軽自動車に占めるN-BOXの割合は約69.4%、またホンダが販売した全新車に占めるN-BOXの割合は約35%となっている。つまり、今のホンダの国内販売は著しくN-BOXに偏った状況が続いているのである。

 このようななかで新型フィットはデビューしたことになり、その販売上の最大のライバルはヤリスなどではなく、N-BOXといっていい状況になっている。新型であるフィットは、しばらく車両本体価格からの値引きはガードが固くなるなか、N-BOXはとにかく量を売ることが最大の使命となっており、現行モデル登場から3年を経過しようとしている今では、「スペーシア」や「タント」「ルークス」などのライバルとの激しい販売競争もあり、値引き条件は拡大しているのが実情。

 広い室内など使い勝手の良さにも定評のあるN-BOXは、今や国民車といっていいほどの知名度も獲得している。そして、軽自動車なので、昔ほどではないものの維持費が安いのも魅力的。オーソドックスなハッチバックスタイルを採用するフィットよりもリーズナブルで維持費が安く、使い勝手も良い。そしてカスタムなどを選べば格好いいとなれば、最初はフィットを希望して商談をしていても、N-BOXに流れるお客も出てくるだろう。

 販売する側からしても、他メーカー車に流れるよりはと、フィットでは受注が厳しいと判断したら、おすすめ車種をN-BOXに変更するセールスマンも出てくるだろう。軽自動車のほうが売りやすいのは確かであるし、フィットが新型になったからといって、N-BOXの販売台数を減らすわけにもいかない。

 新型車はデビューしてから数カ月間は“新型車需要”といって、その新型車が出るのを待っていたりする人の需要がメインとなるので、販売台数は多めとなるのが一般的。そして、その新型車需要期が過ぎたときに、販売台数がダウン傾向となるか、そのまま維持するかで、真の実力がわかってくるのである。トヨタ・ライズのように、発売前のバックオーダーの多さに加えて、デビュー後の新規受注も勢いが止まらす、すでに納車が6月以降となると、正真正銘のビッグヒットモデルといえるだろう。

 まずは、発売1カ月経過時点ぐらいでホンダが発表する、新型フィットの受注状況に注目したいところだ。そもそも、発売延期となる前から予約受注活動も積極的に行っていたようなので、相当なバックオーダー数が発表されることも期待されるが、果たしてどうなるか、実に興味深いところである。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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