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汗などの化学物質、ヒトの感情を他人に伝達…デジャブ、残留物質への接触が原因か

文=水守啓/サイエンスライター
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 その仮説を検証すべく、実験者らは男性のグループに特定のTシャツを着せ、恐怖感か嫌悪感のいずれかを誘発する動画を見せた。起こりうる汚染を避けるため、男性らは厳格なプロトコルに従っていた。実験の2日前からタバコや過度な運動、匂いの強い食べ物やアルコールの摂取は許されなかった。また、パーソナルケア製品と洗剤に関しても、無臭のもののみ実験者らによって与えられていた。

 のちに男性らからを含んだTシャツが回収された。そして、視覚探索の課題に取り組む女性らがその汗の匂いに曝されたのである。この時、彼女たちの表情は録画され、目の動きも追跡されていた。

匂いは感情も運ぶ

 結果は、研究者らが予測していた通りであった。恐怖感の汗の化学物質に曝された女性たちは怯えた表情を示し、嫌悪感の汗の化学物質に曝された女性たちもまた嫌悪感を表情に出したのだった。また、追跡調査も行われ、同じ方法で被験者らが前向きな感情を抱くケースでも試されたが、やはり同様に感情が伝わることが確認された。

 これまで、ある男性が発する体臭を不快に感じる女性もいれば、心地よく感じる女性もいることから、体臭も男女の相性を判断する指標の一つになることは知られていた。だが、この実験により、匂いの化学シグナルは、そのような情報をはるかに超えて、感情に関わる情報をも伝達しうることがわかった。

 そして、化学シグナルは媒体として作用し、人々は無自覚で感情的な同調を起こしうることが示唆された。セミン博士らは、このような効果が、しばしば大群衆が関わる状況で観察されるある種の「感情的伝染(感情の波及・共有)」に少なからず関与しているものとみなしている。例えば、スポーツ競技やコンサートの会場での熱狂や集団幻覚にも適用されるかもしれない。

 ところで、このケースでは、Tシャツに残留した汗の化学物質が情報の伝達に関与していたと思われるが、こんな場合はどうだろうか。ときに、特定の場所を訪れた際、かつてそこで暮らしていた人々の様子が感じられ、感情を共有できてしまうケースである。もちろん、これは特別に繊細な感覚を持ち合わせた人や、ある種の霊感を有する人でしか感じられないことかもしれない。

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