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今井亮一「知らないと損する裁判傍聴記」

高齢者の交通事故裁判で珍しい執行猶予付き罰金刑 控訴で被告人が望んだ禁固刑下る

文=今井亮一/ジャーナリスト
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裁判官「しかしながら、これほど治癒が長引いたのは被害者が老齢だったことが…被告人は熱心に見舞い、被害者は処罰を求めていない…治療費等は任意保険等で十分まかなわれる見込み…すでに免許取消処分となっており、前科はない…平成21年度の納税額はゼロ…内妻の月収は7万円…ほかに援助者が見当たらない…」

 そしてこう述べた。

裁判官「100日間の労役場留置は、被告人の健康および73歳になる内妻の生活にも大きな影響を与えると思われる…」

 これはとんでもない判決である。「罰金は検察庁と相談して分割で払えばいい。どうしても払えない分だけ労役場へ行けばいい」「内妻が困ったら福祉の世話になればいい」「とにかくこっちは量刑相場を守る」というのが裁判所的な考え方なのだ。罰金の執行猶予とは、いやはやなんとも思い切った判決である。

 この裁判官は虎井寧夫さんだ。福岡高裁の部総括判事を65歳で定年退官、おそらくは裁判が好きで、定年70歳の簡裁判事になった人だ。こんな判決は、地裁の若いエリート裁判官には到底できないだろう。私は大いに感動した。

検察は罰金の実刑を求めて控訴

 それから3カ月半後、東京高裁の開廷表に見覚えがある被告人氏名を見つけた。事件は自過傷。なんだろう。傍聴してみた。裁判官は3人。真ん中の裁判長がまず言った。

裁判長「検察官は控訴趣意書を陳述…弁護人は答弁書を陳述…」

 それら書面の提出を確認して陳述に代えるという意味だ。検察官が控訴趣意書を陳述ということは、検察官が控訴したわけだ。それは珍しい。なぜなら、検察官が“反発”するような判決を一審の裁判官は普通しないから。

 審理が進むにつれ、私はぎょっとなった。これは簡裁で執行猶予付き罰金刑とされた、あの事件だと気が付いた。検察はどうしても許せず、罰金の実刑を求めて控訴したのだった。

 被告人と同様、弁護人もだいぶ高齢で耳が遠く、しかしやたらと迫力のある人だった。被告人の体の具合が本当によくないことを裁判官に見せたいと申し出た。

裁判長「許可いたします」

 ちなみにこの裁判長は矢村宏さんだ。色黒で、容貌も話し方も土建業の親方のよう。なかなか味わいのある人だ。弁護人は被告人を証言台のところに立たせ、「体の具合」を裁判長らに見せるよう言った。被告人はカチャカチャとベルトを外してズボンを脱ぎ始めた。

裁判長「女性の前だからね(笑)」

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