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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

日本の航空会社のラウンジには、なぜ“特別感”がない?欧米に比べて休憩室並み

文=篠崎靖男/指揮者

 ところが、この特別感は、日本人にはわかりにくい感覚かもしれません。それは、欧米と日本の航空会社のラウンジの違いを見てもよくわかります。

 僕は海外で指揮をする際に、世界で一番潤沢な航空会社ともいわれている、アラブ首長国連邦のエミレーツ航空に搭乗することが多いのですが、必ずハブ空港のドバイ国際空港で乗り換えをします。

 本連載記事『利用者は成田空港の3倍…ドバイ空港「年9千万人利用」とエミレーツが世界シェア急拡大の理由にも書きましたが、ドバイ国際空港は単なる空港の機能を超えて、まるで空港内が豪華リゾートのようです。しかも、そのエミレーツ航空のファースト・ビジネスクラスラウンジがすごいのです。ヨーロッパ、中東、中華料理や、豊富なデザートはもちろん、高級シャンパン、ワインがすべて無料というのはもちろんですが、つい最近利用した際には、ラウンジゲスト用の特別な搭乗ゲートがあり、一つひとつの一般客の搭乗口とエレベーターでつながれていることに度肝を抜かれました。エミレーツ航空は南周り航路なので、どうしても総飛行時間が長くなってしまいます。これは航空会社にとって致命的な欠点ともいえますが、空港やラウンジを快適にすることでカバーしているのです。

 僕も仕事柄、世界の多くの空港のラウンジを使用したことがありますが、各国のラウンジは利用者に対して、一般乗客とは違う“特別感”を与える演出をしています。ところが、日本のラウンジには、その特別感がないように感じます。あえて言うならば、高額チケットを購入したことやマイレージを貯めたことに対する“特典”を感じるのが日本のラウンジでしょうか。

 海外の航空会社ラウンジは“アッパークラスの場所”を演出し、この特別感を味わうために高額チケットを購入してもらったり、自分の航空会社を選び続けてもらうという戦略が見え隠れします。これに対して、日本はアッパークラスという感覚になじみが浅く、特別感といってもピンと来ないので、航空会社も特典くらいにしか考えていないのかもしれません。おつまみ程度で大した食事もなく、アルコール類もビールやウイスキーくらいしかない“休憩室”並みのラウンジは日本くらいなのです。

 これは、日本には特殊な身分制度の考え方があったことが影響しているのかもしれません。江戸時代には士農工商という制度がありましたが、貴族と一般民衆のようにきっちりと2つに分けられた身分制度は、戦国時代が始まってからなくなりました。他方、ヨーロッパの人々は、今でもなお身分の感覚が体に染みついています。たとえば、特急電車は「一等車」「二等車」と、僕たち日本人から見るとちょっと失礼なほどのクラス分けがされています。

 かつては、日本でも一等車、二等車と客車を分けていたそうですが、二等車という名前が乗客に失礼と思ったのか、乗客から苦情があったのかわかりませんが、今では日本人の感覚に合わせて、一等車を「グリーン車」、二等車を「普通車」と、当たり障りのない名前に置き換えています。ちなみに、このグリーン車という由来は、以前、一等車と呼ばれていた際に、客車の窓の下に表示されていた帯や、切符の色が淡緑色だったことによるそうです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

日本の航空会社のラウンジには、なぜ“特別感”がない?欧米に比べて休憩室並みの画像1

●篠﨑靖男
 桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
 2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
 国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
 現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/

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