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五輪選手村跡に立つ晴海の高層マンションは買いなのか?懸念される都心への交通網の貧弱さ

文=昼間たかし/ルポライター、著作家
五輪選手村跡に立つ晴海の高層マンションは買いなのか?懸念される都心への交通網の貧弱さの画像1
五輪を契機に、それまで手つかずだったエリアの開発が進むが……

 新型コロナウイルスの影響が懸念されながらも、着々と進んでいる東京五輪の準備。各地域で関連施設の開発が進んでいるが、そのなかでもことさら雰囲気が一変しているのが、東京湾岸の晴海地区である。

 ここに建設されているのが、オリンピック選手村。1996年までは東京国際見本市会場があった一帯は、一時はアミューズメント施設が営業されていたが、その後15年あまりにわたって放置されていた。海に面した部分にポツンと佇む晴海客船ターミナル以外は、広大な空き地が広がり、そこに人が集まるのは2015年まで続いた東京湾大華火祭の時だけという、都心の僻地であった。

 しかし、東京五輪の開催を前に風景はどんどん変わっている。広大な空き地には次々とマンションが建設されている。五輪後には2棟のタワーマンションも建設されて、総戸数5632戸の新住宅エリア「晴海フラッグ」となる予定だ。その販売は7月から始まることが告知されており、公式サイトなどで盛んに宣伝されるようになっている。

 公式の宣伝をのぞくと、このプロジェクトは夢がいっぱいだ。銀座駅からの距離は約2.5キロ。東京駅からは約3.3キロという都心に近接したエリア。三方向が海という眺望。開発にあたっては、地域内に小中学校や大型商業施設も建設。さらに、水素ステーションなども備えた、流行のコンパクトシティが目指されている。

 しかしプロジェクトに関わるデベロッパーを除けば、そうした魅力とされる点には首を傾げる意見も多い。湾岸付近のマンションを多く扱う不動産業者に尋ねたところ、こんな話が出てきた。

「もし、物件がほしいという相談があっても、ここはあまり勧めたくはありません。どうしても晴海に住みたいというのであれば、晴海通りよりも北側を案内しますね」

 物件を勧められない最大の理由は、交通の便の悪さだという。都営晴海団地が老朽化で建て替えられ、晴海アイランドトリトンスクエアとなって以降、再開発が進みタワーマンションやオフィスビルも増えた晴海は決して交通の便のよい土地ではない。もっとも近い鉄道駅は、都営大江戸線の勝どき駅だ。

 2000年の開業当初は、周辺の開発も進んでおらずホームがひとつだけの小さな駅だった勝どき駅は、今ではパンク状態だ。昨年2月にはホームを増設し上下線の分離を実施、出入り口を増やしたものの、ラッシュ時の混雑は激しい。晴海通り沿いは、駅を降りて会社へ向かう人の群れと、駅へ向かう住民たちとでごった返す。とりわけ、増設された出入り口はどういう都合か、下りエスカレーターが一人用の幅の狭いものになっており、イライラを募らせた人によって、殺伐とした雰囲気になっている。

 現在、勝どきでも新たなタワーマンションの建設が進んでおり、そのためにさらに出入り口の増設工事が行われることになっているが、とても対応できるとは思えない。晴海に住むのであれば、そんな駅に向かって10分から最大で20分あまり歩いていかなければならない。

投資目的で買ったが「なかなか売れない」という声も

 公式には「銀座駅からは約2.5キロ。東京駅からは約3.3キロ」とされているが、最寄りの勝どき駅からここへは、乗換なしでは行けない。たどり着く方法は都営バスである。現在の路線が継続するとして、「晴海フラッグ」の住民は都心方面へは、都営バスで座って出かけることができるという利点はある。ところが、住民もオフィスも多い勝どきを通る路線だけに、帰りは常に座れない。実際に乗ってみるとわかるが、発車地点の東京駅南口バス停であれば行列に並べば座ることができる。でも、有楽町界隈のバス停からは、もう座れない。

 なによりも晴海通りが恒常的に混雑しているために、時間はまったく読めない。とりわけ平日は時刻表通りにバスが運行されることは、ないと思ったほうがいい。一見、都心に近いと思いきや、都心に出るには不便なエリアなのである。

 もともと東京メトロ有楽町線の駅がある豊洲を除けば、晴海のみならず勝どきや有明・東雲など、マンションの増加した湾岸地域は都心への交通網は貧弱だ。これに対応するために、東京都が新たに予定しているのがバス高速輸送システム(BRT)の運行だ。簡単にいえば、すでに実用化されている地域もある連結バスを使用した新たなバス路線である。これは、今年の東京五輪でプレ運行した後に、本格運行を開始。選手村がマンションとして供用される2022年には路線も開通するとされている。

 ところが、このバス路線が向かうのは新橋駅方面。豊洲市場方面から、豊洲大橋をわたって豊海を通り豊海大橋を抜けて新橋に向かうのである。大江戸線の勝どき駅から徒歩で10分あまり離れた豊海にバス停を設置するのに予定図では「勝どき」という名称を用いているあたりですでにおかしいのだが、向かう先が新橋。銀座や東京駅方面ではない。今後、新橋駅周辺の再開発が進むということを念頭においての路線なのだろうが、噂されているニュー新橋ビルの再開発もまだ計画段階。もっとも近い「都心」は、ずいぶんと泥臭い。

 ほかにも問題はある。以前、千葉県浦安市のマンション住人だった人物に話を聞いたところ「海が綺麗で楽しいのは一瞬」だと断言する。

「潮風が建物に悪いのは本当でした。ベランダの給湯器とか金属が傷むのは早いし、ベランダとかの汚れも多いし。とりわけ網戸の汚れが激しくて。車も機械式駐車場なのに傷むのが早かったような気がします」

 三方向は海というのは決して利点ではないようだ。価格は暴落すると何年も警告されながらも、いまだ湾岸でのマンションの建設は続き、売れてはいる。しかし、日が暮れてから湾岸を歩いてみるとあることに気づく。タワーマンションを中心に灯りのついていない部屋が多い。実際には住んでおらず、投資目的で所有している事例も多いのだ。

「投資目的で購入したが、その後思うように売れないという相談もあります。やはり交通の便が悪いことが最大の理由です。晴海では住民専用バスを導入したマンションもありますが、毎月の管理費にはねかえってきます。そのために、余計に敬遠されるようになっています」(地元の不動産業者)

 景気後退の中での巨大なプロジェクトの行方はどうなるのか。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)

昼間たかし/ルポライター、著作家

昼間たかし/ルポライター、著作家

 1975年岡山県生まれ。ルポライター、著作家。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。

Twitter:@quadrumviro

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