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安倍晋三首相の学校一斉休校、「保育園と学童開けろ」との通達も…翻弄される母親たち

構成=編集部
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田添麻友・目黒区議(撮影=編集部)

 新型コロナウイルスが拡大する中、安倍晋三首相は2月27日、3月2日から春休みにかけて、全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を「要請」した。「要請」という形はとっていたが、「政府方針」であることは明らかで、全国の多くの自治体や学校は順次休校へと舵を切った。

 要請以来、子どもを持つ保護者達は混乱の極みにある。「感染拡大を防ぐ」という目的のために、政府が「学校を一斉休校にする」という手段をとったことに対する「モヤモヤ感」を抱く保護者は多い。政府に振り回される自治体の現状と、有権者が政府の対応のどこに不安や不満を抱いているのかについて、「東京若手議員の会」代表、WOMAN SHIFT(政策実現できる女性議員のネットワーク)事務局の東京都目黒区議会議員で3児の母である田添麻友氏(37)に話を聞いた。

ママたちが抱く一斉休校に対する「モヤモヤ」

――学校は休校、学童は実施、保育園は開園…「これは何?」

田添麻友氏(以下、田添) 私もですが、周りのママたちはすごくモヤモヤした気持ちを抱きながら、ここ数日を過ごしています。安倍晋三首相は全国一斉休校の理由について「何よりも子どもたちの健康、安全を第一に」と言い、そして「ご家庭の皆さんには、本当に大変なご負担をおかけすることになります」とのことでした。

 これらの会見の言葉を聞いて、私の周りでは、「やっぱりわかっていないおじさんが決めたよね」と囁いています。モヤモヤの理由は、学校は休校になりましたが、保育園はやっている、学童保育も開いています。学童と保育園では、子どもたちが濃厚接触していますよね。これで対策になるのかなぁという疑問です。この状況に、私も含め働くママたちは「なんなのいったい?」「これは何?」と疑問に思いながら、お弁当を作って学童に子どもたちを送りだしたり、仕事を休んだりしています。

 私の小学校5年生の息子も休校が決まった日、「6年生を送る会の練習、あんなにしたのに」ととても悔しそうにしていました。娘も涙ぐんで言いました。「練習は無駄にはならないよ、6年生はみんなが準備くれていたことわかっているからね」と言ったけれども、私自身、整理がついていませんでした。

「どこを止めるか」「深刻さを伝えるインパクト」のターゲットに学校が選ばれたのではないかと自分の中で整理しました。ちょうど、北海道や大阪府などで休校措置を取り始めていたタイミングで、「全国一斉休校」のアイデアが降って湧いたのではないかという報道がありました。その可能性は高いと思わざるを得ません。

「満員電車で出勤して、大人が感染して子どもにうつるから休校意味ないんじゃない?」という声もあります。公共交通を全部止めていたら、リモートワークも進むし、感染拡大防止に大きく寄与するでしょう。ただ、リモートワークできない仕事や、病院や社会インフラを担う人の足も止めることになり、国民生活の大動脈が断たれることになるのでできませんよね。その点、学校は止めやすかったということではないでしょうか。子どもは働いていないし、誰が在籍しているかわかりますし、春休み前でしたし、子どもが休めば一部の親は外出しなくなるでしょう。

――小中学校の子どもたちを一斉臨時休校にさせることと、新型コロナウイルスの感染対策との関連性は政府内でも明確な説明はなされていません。

田添 首相が「休校してください」と宣言したあとに、政府は次々に新しい通知を出しています。文科省や厚労省から学童を開けろとか、保育園を開園するようにという通知が来て、ついには子供たちの居場所として「学校を子どもたちの居場所として開放しろ」という通知が出ました。整合性をつけるために通知を出し続けている省庁も大変だと思います。そして、その細々とした通知に対応するため、自治体の職員も振り回されている状況です。

 国の専門家委員会からは「屋内で密集しないほうが良い」という見解が出されました。国からは、学童保育では子どもと子どもに1メートル間隔を開けるよう通達が出されました。学童は塾ではないし、学童が不足していて詰め込まれているのが現状です。国も学童不足については知っているはずなのですが、国は言いましたよ、ということでしょうか。

「それって学校やれば良くない?」と思っています。

 学童に行っていない子どもたちは友達の家に行ったり、他のところに集まったりしています。休校にした意味はあるのでしょうか?

 学校はお便りで「不要不急の用事以外は自宅で過ごしましょう」と呼びかけています。といっても、親が「家でじっとしていて」と言っても子どもにも限界はあります。大人でも「3週間、家にいなさい」と言われたら難しいと思います。学校の先生たちも、いきなり宿題の準備をすることはできませんでした。図書館に行くのも難しく、「本を読みましょう」とも言えません。無料でオンライン配信されている学習素材はありがたいですが、「ますます学校って何?」と疑問に思ってしまいますね。

一斉休校を終える基準はどこにあるのか?

――自治体の現場から見て実際にどうすればよかったと思いますか?

田添 政府が「これをやりましょう」と言ったら、地方自治体や学校は「やります」となるのが日本の現状です。だったら、その力を発揮して少人数制で換気の効いた教室で授業を全国で実施することはできなかったのでしょうか。一斉休校をいきなり始めるのは、やはりやめた方が良かったと思います。

 学校の先生たちも、感染症対策について良く考えていました。学校の校長先生からも「もう少し準備の時間があれば」との声も聞きました。例えば、学年別に登校日を設定するとか、学校の理科室や家庭科室、図書室などを使って子どもが密着しないようにしながらの授業など、感染症対策をやりながら学校をやったほうがいいと思います。そして、学校にはそれができる能力はあります。学校の力をもう少し信じたほうがよかったと思います。

――休校にしない自治体があることについては?

田添 「休校にしない方針」を示すのは、地方自治の精神から考えれば当然あり得る判断です。学校での感染防止ができるのならばしなくていいと思います。ただ、もし学校に通っている子どもたちが集団感染したら、自治体には激しい責任追及が待っています。新型コロナウイルスの全容がわからないため、政策の「前提」が揺らいでいることが、何が正しいかをわからなくしています。自治体はすごく難しい判断を求められました。それはこれからも続きます。

――一斉休校を終える基準はあるのでしょうか?

田添 休校にした前提が曖昧なので、新学期の開始の基準もない。自治体に感染者が出たら休校にするということもできたはずです。一斉というのは思考停止に陥りますよね。また、いつになったら、休校が終わるのかも不透明です。終息宣言は当面出ないでしょう。新学期を始めていいのか。それも総理の一言なのでしょうか?基準がない中で始まってしまったので、終わりも見通せません。再開の基準がありません。

――乱気流のように定まらない政府に対して、どうしていけばいいでしょうか?

田添 そうは言っても、もう休校は多くの自治体、学校で決まってしまいました。そんな中で地方自治体ができることはなんでしょうか。休校になったら、何がこの後できるのかを提案していくことが市民の声を届ける議員の役割、それはいつもやっていることをこの混乱の最中でもしっかりとやっていくことだと思っています。特に子どもの居場所、健康維持についてはできることがあると思っています。

新型コロナウイルスを通じて深まる世代間の断絶

――子どもの居場所がなくなっている状況が深刻化していますが、懸念していることはありますか?

田添 まずは、子どもたちの体力低下と外出意欲の低下が不安です。今回の政府の方針は、1カ月間、子どもたちを自宅に引きこもり状態にさせましょうと言っています。母親としては「子どもの心身の健康に支障が出て、ちゃんと新学期を迎えられないのでは」という不安があります。

 あとは、世代間の断絶が怖いです。埼玉県加須市では今回の新型コロナ感染拡大防止のために小中高生の図書館への来館を「お断り」にしました。また、東京都西部に住む友人の子どもも、休校が決まった週末に本を借り溜めしようと図書館に行ったら、司書に「休校になって、自宅にいなさいといわれているでしょ!」と注意されたそうです。街を歩いている人が子どもを見かけると「あれ、子ども?」みたいな顔をされることがあり、雰囲気が悪いです。

 千葉市のように、公園などの屋外は大丈夫だよと言っている自治体があることは救いです。

――実際、インターネット上では「子どもたちが勝手に集まっている。親はどうしているんだ」とか、「休校なのに、なんで母親は仕事を休んで家で子どもを見ないんだ」とかいう的外れな批判も散見されます。

田添 今回の一斉休校の裏で起きていること、「リモートワークっていいね」という声もあると思いますが、一方でそういった工夫をしない、どうしてもできない職場では、「子どもがいるお母さんは(仕事で)使いづらいよね」という社会的な偏見が再燃していることです。一斉休校で最も振り回されているのは全国のママさんです。もし、私たちが我慢する意味があるのだとしたら、皆さんに「学校が一斉休校になるくらい危ない」と感じてもらい、感染予防のための行動を積極的にしてもらうことです。

 先述した図書館のように中高生お断りにするのではなく、新型コロナウイルス感染症が重症化しやすい高齢者の方の利用も控えていただくことも必要だったでしょう。世代間の争いにしてしまったことは一斉休校の罪だと思います。

――そういう中で、千葉市のような「公園などの屋外は大丈夫だよ」というアナウンスが少ないということでしょうか?

田添 行政がイベント自粛や区有施設の閉鎖などに必死で、「大丈夫ですよ」とは言えないでいます。リスクばかりでは、不安と混乱に陥るのは当然ですよね。政治の役割はそのバランスをとること、刺激しない言葉選び、安心してもらえる言葉と具体策が大事だと思います。

(構成=編集部)

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