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片田珠美「精神科女医のたわごと」

「コロナばらまき男」を駆り立てた“強い怒り”…テロまがい行為、今後増加の兆候

文=片田珠美/精神科医
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「コロナばらまき男」を駆り立てた強い怒り…テロまがい行為、今後増加の兆候の画像1
2019新型コロナウイルス(SARS-CoV-2) 顕微鏡画像(撮影日不明 提供画像)(提供:NIAID-RML/NATIONAL INSTITUTES OF HEALTH/Science Photo Library/アフロ)

 愛知県蒲郡市で、新型コロナウイルス陽性と判明し、自宅待機を要請されていたのに、「ウイルスをばらまいてやる」と市内の飲食店2軒をはしごした50代の男性の動画が「文春オンライン」で公開された。

 この「コロナばらまき男」は、居酒屋とフィリピンパブを訪れており、フィリピンパブではカラオケに興じたり、ホステスと肩を組んだりしたようだ。フィリピンパブは、店内や周辺を消毒したものの、しばらくの間休業に追い込まれたため、オーナーは「これは“テロ”にほかなりません」と話している。

「コロナばらまき男」の不安と怒り

「コロナばらまき男」が、“テロ”まがいの行為に及んだのは、一体なぜなのか? 次の2つの心理が働いたように見える。

1)抱えきれない不安

2) 鬱憤晴らし

 まず、自分1人では不安に耐えきれないので、誰かと共有したい、誰かに話を聞いてほしいという願望が強かったのではないか。ところが、この男性は両親と同居していて、両親が発熱や呼吸困難を訴えて入院し、感染が確認されたそうなので、そういう役割を担ってくれる家族が身近にいなかったのだろう。しかも、親身に話を聞いてくれる恋人も友人もいなかったからこそ、居酒屋とフィリピンパブに行ったわけで、それだけ孤独だったのだ。

 また、やり場のない怒りを誰でもいいからぶつけたい、つまり鬱憤晴らしをしたいという気持ちも強かったと考えられる。この怒りから復讐願望が生まれ、誰でもいいから感染させて自分と同じように不幸にしてやりたいと思ったのだろう。

 そもそも、自分が病気にかかっていることを知ったときに怒りを覚えるのは、共通の反応である。死に瀕している患者200人以上にインタビューした女性の精神科医、エリザベス・キューブラー・ロスによれば、病気を告知されたとき、ほとんどの人がはじめは「いや、私のことじゃない。そんなことがあるはずがない」と思ったという(『死ぬ瞬間―死とその過程について』)。

 この否認は、ショッキングな知らせを聞かされたときの最初の反応であり、その衝撃をやわらげるためのものだ。しかし、やがて第一段階の否認を維持することができなくなり、「ああそうだ。私だ。間違いなんかじゃない」と思い知らされる。すると、今度は怒り、激情、妬み、憤慨などの感情が出てくる。そして、必然的に「どうして私なのか」という疑問が頭をもたげ、怒りが見当違いにあらゆる方向に向けられる。つまり、八つ当たりするわけである(同書)。

「コロナばらまき男」も、この第2段階の怒りの状態だった可能性が高い。たとえ新型コロナウイルスに感染しても、8割以上は軽症だし、致死率も低い。それでも、感染者も死者も増え続けている状況を目の当たりにして、不治の病と思い込んだのかもしれない。あるいは、入院によって生じる経済的損失が受け入れがたかったのかもしれない。当然、「なぜ自分が感染したのか。どうしてあの人じゃなかったのか」と怒りを覚えたはずだ。