榊淳司「不動産を疑え!

新型コロナでマンション価格下落が確実に…テレワーク普及でオフィス賃料も下落

「gettyimages」より

 3月9日、内閣府は2019年10-12月の国内総生産(GDP)が年率換算でマイナス7.1%になったと発表し、2月に出した速報値(マイナス6.3%)を修正した。

 念のためにだが、これは新型コロナウイルスの問題がまだほとんど影響しなかった時期の数値である。2020年1-3月期の速報値は5月の中旬、改定値は6月の初旬に出てくるはずである。現状の混乱ぶりを考えれば、マイナスの二桁は免れないと予測できる。四半期のひとつでマイナス二桁成長になると、1年を通してプラスになることはかなり困難である。

 また、現状を見ていると4-6月期に急回復するとは考えにくい。むしろ1-3月期よりも悪化する可能性のほうが高そうだ。

 つまり、日本を含めた世界はリーマンショック以来の世界同時不況に突入している可能性が高いのだ。

 世界経済の動向を語るのは、専門家諸氏にお任せしたい。ここでは日本の不動産市場、わけても首都圏を中心としたマンション市場の今後を考えてみたい。

バブル的に値上がり

 リーマンショックや東日本大震災の記憶がまだ深く記憶に刻まれていた2013年、日本でもようやく本格的な金融面での不況対策が講じられた。黒田東彦日本銀行総裁による異次元金融緩和である。

 金利を実質ゼロに下げるとともに、市場に大量のマネーを供給するという、日本の金融政策史上まさに「異次元」な政策である。その目標は「消費者物価2%の上昇」。しかし、その目標は一度も達成されずに7年が経過した。異次元金融緩和は今も継続中。

 この影響ももっとも強く受けたのが、都心の不動産市場である。特に都心や城南、湾岸エリアのマンション価格はバブル的に値上がりした。

 例えば、港区のマンション価格は2012年以前であれば坪単価300万円台が普通であったが、今では600万円台でも高いと感じない。物件によっては1000万円を超えている。つまり2倍から3倍に跳ね上がった。世田谷区は坪単価200万円台であったのが、今では400万円台が普通。500万円超で売り出される新築マンションもある。しかし、販売状況は芳しくない。最近では足立区の北千住あたりでも、坪単価400万円前後の新築マンションが出てきている。

 実は、「住むため」に買う実需層が購入可能な上限が坪単価400万円なのだ。世田谷区では2016年頃にそこまで上昇した。しかし、それ以上だと売れないので実勢価格はそのあたりで止まっている。新築マンションを坪単価500万円以上で売り出しても、デベロッパーの思惑通りには売れないので、最後は400万円台に値引きをして完売に持ち込んでいるのだ。

 しかし、マンションを買う側のエンドユーザーはそういう実態を理解していない。「世田谷で買えないなら、足立区で買おう」と考えて、北千住あたりで坪単価400万円台の物件に手を出している。

「局地バブル」の崩壊

 そろそろ、こういう狂乱時代は終わるだろう。キッカケは、今後確実にやってくる世界同時不況である。すでに足元の日本経済はマイナス成長が確実となった。今後、業績が悪化した企業はリストラを始めるだろう。なかには行き詰って倒産する企業も出てくるはずである。そこでやっとエンドユーザーたちは気づく。「マンション価格が高くなりすぎていないか?」。

 実のところ、異次元金融緩和で生み出されたバブルは地域限定である。発生エリアは東京の都心(山手線の内側とその周縁)、城南と湾岸エリア、川崎市の武蔵小杉周辺、京都の御所南エリア、大阪の梅田北ヤード周辺などだ。

 ここ数年、札幌、仙台、広島、福岡などで不動産価格が上昇したが、これは実需に基づくので私はバブルとは見做していない。

 私はこの地域限定の特殊な不動産価格の上昇を「局地バブル」と呼んできた。そして、これから顕在化するコロナウイルスの蔓延を原因とした世界同時不況が、この局地バブルの崩壊を早めるだろう。

 そもそも、この局地バブルは実需に基づかない価格上層であったので、いつかは崩壊することが自明であった。当初は東京五輪の終了後、緩やかな下落カーブを描くと私は想定していたが、このコロナ騒動で事態が早まりそうに思える。すでに中古マンション市場では2018年頃から売買の停滞が見え始めていた。少なくとも、価格が上昇しているという気配は窺えなかった。

 2018年にはかぼちゃの馬車やスルガ銀行の問題発覚で、「収益モノ」と呼ばれている個人投資家向けのアパートや1棟マンションの価格が低下し始めた。2019年には、個人間の実需売買が中心の中古マンションの市場も、取引が鈍った。

 もっとも、このどちらのカテゴリーも市場動向を把握している正確な統計数値は存在しないので、価格低下や市場停滞は現場での肌感覚で掴むしかない。

需給による価格形成へと急速に是正

 今回、コロナウイルスの感染伝播で多くの企業は在宅勤務(テレワーク)を実施したと伝えられている。商品を移動させるような業務を除いて、通常のオフィスワークならネット環境とPCさえあれば可能なはずだ。多くの企業が、今回の騒動でそのことに気付いたはずだ。つまり、たいていの業務は社員が同じ空間に存在しなくてもこなせる。会議や打ち合わせはネット上でも行える。

 ここ数年の人手不足で、多くの企業は人材の採用しやすい好立地で見栄えの良いオフィスを求めた。渋谷エリアでは坪5万円の予算でもオフィス確保が難しい、などといわれたものだ。しかし、こういった流れも今回のコロナ騒動で見直される可能性が出てきた。

 2013年の異次元金融緩和以来、都心を中心とした一部エリアの不動産価格は、かなり不健全な需要によって本来の実力以上に上昇した、と私は見做している。それが、今回のコロナ騒動によって本来の需給による価格形成へと急速に是正される可能性が高まってきた。

 すなわち、局地エリアのマンションバブルは崩壊。一部エリアのオフォス賃料が下落。東京五輪が開催されてもされなくても、この動きは最早避けがたいのではなかろうか。

(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)

榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト

不動産ジャーナリスト・榊マンション市場研究所主宰。1962年京都市生まれ。同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒業。主に首都圏のマンション市場に関する様々な分析や情報を発信。
東京23内、川崎市、大阪市等の新築マンションの資産価値評価を有料レポートとしてエンドユーザー向けに提供。
2013年4月より夕刊フジにコラム「マンション業界の秘密」を掲載中。その他経済誌、週刊誌、新聞等にマンション市場に関するコメント掲載多数。
主な著書に「2025年東京不動産大暴落(イースト新書)※現在8刷」、「マンション格差(講談社現代新書)※現在5刷」、「マンションは日本人を幸せにするか(集英社新書)※増刷」等。
「たけしのテレビタックル」「羽鳥慎一モーニングショー」などテレビ、ラジオの出演多数。早稲田大学オープンカレッジ講師。
榊淳司オフィシャルサイト

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