トヨタでは、4月に降格となる4人の副社長を含めて、執行役員の21人は全員、同格の立場となる。つまりトヨタの業務執行の階層は社長と、その下にそれぞれ担当を持つ執行役員が並列でぶら下がるだけで、社長に権限を集中させる。サプライヤーなどから「最早、章男氏の暴走は誰も止められない」(全国紙記者)との懸念も出ている。

役員体制変更の狙い

 さらに今回の役員体制の変更の発表資料に記された章男社長のコメントに、落胆した社員も少なくない。章男社長は、副社長ポストを廃止する役員体制の変更は「次世代のために『トヨタらしさ』を取り戻すため」と説明。ただ「『トヨタらしさ』を取り戻す。それをしなければ、次世代にタスキをつなぐことはできない」としており、トップの地位にとどまり続けることを宣言している。ある関係者は「役員体制の変更と、章男氏のコメントから、息子の大輔氏がトップに就任するまで、自身がトップに居座り続ける気だ」と感じたという。

 トヨタは2019年に常務役員、常務理事、基幹職1級・2級、技範級を一括りして「幹部職」に集約した。これが大輔氏を幹部にするのが目的と見られている。大輔氏は現在、トヨタの自動運転技術の開発子会社TRI-ADのシニア・バイス・プレジデント。以前ならトヨタ本体に復帰した場合、無理に昇格させても「基幹職2級」程度どまりと見られるが、制度改正でいきなり幹部職に就くことができるようになった。加えて、従来、トヨタの社長は副社長の中から選抜してきたが、今回の副社長職の廃止で、次期社長候補となる執行役員に大輔氏が就くまでの期間を大幅に短縮できる。

章男社長の味わった苦労

 トヨタが経営の階層を極限まで減らしているのは「章男氏が経験した社長になるまでの苦労が関係している」と指摘する声がある。章男氏がトヨタの取締役に就任した2000年。当時会長だった奥田碩氏は「取締役までは豊田家に配慮して、その後は実績で評価する」と述べていた。豊田章一朗名誉会長の意向を受けた張富士夫社長(当時)は、着々と章男氏を昇格させたが、張氏の後任社長の渡辺捷昭氏は章男氏をまったく評価していなかった。

 このため、章一朗名誉会長がリーマンショックの経済危機で赤字に転落した責任を半ば強引に追及して渡辺氏をトップの座から引きずり降ろし、章男氏が社長に就任したが、「実力からいってリーマンショックがなければ(章男氏の)社長の芽はなかった」と見る向きは強い。役員になっても周囲を納得させながら、トップになるまでの階段を一段一段上がっていく苦労が身に染みている章男氏は、大輔氏を簡単に後継者に引き上げるため、経営陣の階層を減らしているというわけだ。

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