片田珠美「精神科女医のたわごと」

堀江貴文イベント強行に批判噴出…小利口な「善」人たちの嫉妬、羨望の対象を無価値化

堀江貴文氏の当該ツイート

 実業家の堀江貴文氏が、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う大規模イベントなどの自粛について「ほんと不謹慎厨マジうざい。こいつらが不要な圧力をかけまくってる」とツイートした。また、自身が22日に開催するイベント「ホリエモン祭 in 名古屋」を予定通り開催する意向を示したのだが、それが物議を醸している。ネット上では、「自己中心的」「金の亡者」「前科者」などと罵倒する声もあがっているようだ。

 堀江氏の言動がこうした反応を引き起こすのは、構造的な理由による。なぜかといえば、堀江氏は「やりたいことをやればいい」(『あり金は全部使え』)と公言し、「いまの時代に必要なのは、我慢できないほど、『これをやりたい!』と欲望する力です」(『バカとつき合うな』)と断言しているように、自らの欲望に忠実に生きているからである。

 それに対して、世の中の大多数の人々は、世間の掟に従い、自らの欲望を多かれ少なかれ抑圧している。だから、政府から自粛の要請があれば素直に従い、世間の自粛ムードの空気を読んで、息を潜めながら暮らしているのだ。

 前者の欲望に忠実な生き方を<美>、後者の世間の掟に従う生き方を<善>と、フランスの精神分析家、ジャック・ラカンは呼んだ。<善>の生き方をしている人々にとっては、<美>の生き方を貫いている人が腹立たしい存在に見えることが少なくない。

 というのも、自分がやりたくてもできないこと、あるいは我慢しなければならないことを<美>の生き方の人が楽しそうにやってのけると、羨ましくてたまらないからだ。だが、この羨望が自分の心の中にあることを認めれば、自分のほうが劣っていると思い知らされるので、けなして、おとしめる。

 このように羨望の対象を無価値化するのは、羨望が他人の幸福を我慢できない怒りにほかならないことによる。しかも、「自分は我慢しているのにあの人は我慢をしていない、不公平だ、ズルい」(『バカとつき合うな』)という論理で自己正当化して、羨望の対象を攻撃する。そうすることによってしか、自分自身が我慢しているせいで味わっているストレスを発散できないし、自尊心を取り戻せないからである。

天才もバカもリスクを考えない

 以前、堀江氏は「成功者は天才かバカ。天才もバカもリスクを考えないから。ちょっとリスクがあっても突き進もうとする人が成功できる。一番ダメなのは小利口」という趣旨の発言を、You Tubeの動画でしていた。

 堀江氏が成功者であることに議論の余地はない。彼が成功できたのも、やりたいことをやるために、ちょっとリスクがあっても突き進んだからだろう。だから、成功するためには、

<美>の生き方を貫くことが必要なのだと思う。

 一方、堀江氏が批判している「小利口」とは、<善>の生き方にほかならない。世間の掟に従い、リスクゼロを目指そうとするあまり、身動きが取れなくなる。私の周囲にも多いのだが、「小利口」な人は、「~したほうがいいよ」と助言されても、「でも……」「だって……」などと、できない理由を並べ立て、結局現状から動こうとしない。こういう人を見ていると、やはり成功するには<美>の生き方を貫く必要があると痛感する。

<美>の生き方を貫くと社会的に抹殺される恐れも……

 もっとも、<美>の生き方を貫くと、世間の反感と怒りを買いやすい。とくに日本では、自分の欲望に正直に生きようとすれば、わがままとか自分勝手とかそしられ、激しく叩かれる。世の大多数の人々は、<善>の生き方をしているので、自分の欲望に忠実に生きている人を見ると、腹が立って仕方がないからだ。

 場合によっては、危険人物とみなされ、つぶされてしまうことさえある。ライブドア事件で堀江氏が逮捕・起訴されたのも、既得権益を握っていたおじさま方の「男の嫉妬」が一因ではないかと私は見ている。

 ラカンが<美>の極致と評するギリシャ神話のヒロイン、アンティゴネーは、岩穴に生き埋めにされてしまった。さすがに、そこまでされることはないだろうが、猛烈なバッシングによって社会的に抹殺される恐れもないわけではない。

 まあ、そういうリスクも承知のうえで堀江氏は予定通り開催するのだろう。そのうえ、ライブドア事件で刑務所に入れられ、すべてを失ったにもかかわらず、ゼロからはい上がってきた強さが彼にはある。

 第一、やらずに後悔するよりも、やって後悔するほうがいいというのが私の持論だ。ラカン派の精神分析を学んだ者として、堀江氏にエールを送りたい。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献

堀江貴文『あり金は全部使え―貯めるバカほど貧しくなる』マガジンハウス

堀江貴文、西野亮廣『バカとつき合うな』徳間書店 (日本語)

Jacques Lacan “Le Séminaire VII  L’éthique de la psychanalyse”Seuil

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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