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新型コロナ“倒産”を防ぐ資金調達完全ガイド…「無借金経営=素晴らしい」は間違い

文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長

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閑散とした東京・銀座(写真:つのだよしお/アフロ)

トランプ米大統領の「国家非常事態宣言」は『アベンジャーズ』のようなオールアメリカ

 新型コロナウイルスが世界中で蔓延するなか、日経平均株価も暴落し、今後の世界経済にも相当な悪影響が生じてくると考えられます。

 そんななか、筆者はリアルタイムで米国のトランプ大統領が「国家非常事態宣言」を発表する模様をインターネットで見ました。その内容を簡潔にまとめれば、以下のようになります。

・500億ドル(5兆4000億円)の経済対策

・民間と提携して1カ月以内に500万人のコロナウイルス検査を可能にする

・韓国ではじまったドライブスルー方式の検査も、ウォルマートやターゲットなどのショッピングセンターの駐車場などで展開

・自己診断等のウェブサイトをグーグルが1700人態勢で開発する

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『金融・ファイナンス』(平野敦士カール/朝日新聞出版)

 11月の大統領選挙を意識しているとはいえ、驚くほどの具体的かつ大胆な対応策であり、そのスピーチは感動的ですらありました。筆者はトランプ大統領を支持するわけではないですが、ちょっとこれにはやられたなというのが正直な感想です。

 トランプ大統領の横にはウォルマート、ターゲット、CVS、スイスの製薬会社ロシュなど、日頃はライバル同士とされている小売店や薬局チェーンの幹部たちが並び、大統領の演説の後に一人ひとりがいかにアメリカのために貢献するかをコメントしていました。

 ペンス副大統領は「歴史的な官民連携だ」と言っていましたが、米国生まれの筆者の頭には興行収入で『アバター』を抜き世界歴代1位を記録している米国のスーパーヒーロー映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』が浮かびました。おそらく多くのアメリカ国民も同様であったのではないかと思います。

 株式市場は即座に反応し、米国史上最大の上げ幅を記録しましたが、一方で欧州や英国、アイルランドからの入国制限も行われるため、今後の経済は相当な低迷が予測されており、リーマンショック級かそれ以上の世界恐慌レベルになるという悲観論も出ています。

 そうしたなか、企業の経営者としてはまずは事業の存続をするために資金調達、現金確保が求められます。

 日本でも3月12日に、日本政策金融公庫は新型コロナウイルス感染症対策本部が「新型 コロナウイルス感染症に関する緊急対応策(第2弾)」を発表したのに伴い、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小企業・小規模事業者向け融資制度を17日より開始します。

 また、経済産業省もセーフティネット保証4号の指定により新型コロナウイルス感染症にかかわる中小企業者対策を講じるとしていますので、ぜひホームページなどをチェックしいただきたい。

 このような緊急事態にあるなか、今回は「企業の資金調達方法・完全ガイド」と称して理論的な背景を含めてまとめてご紹介したいと思います。まずは全体像を掴んでいただいた上で自社に最適な資金調達方法を早急に検討することが、生き残りのためにも重要だと認識しているからです。

借金は悪いことではない

 起業の際に資金を調達する方法にはいくつかあります。株式による資金調達、負債による資金調達、さらには資産などの流動化による資金調達、補助金や助成金などもあります。

 しかし、そもそも資金調達を融資、つまり借金で行うのは良いことなのでしょうか。昔から日本では「無借金会社が素晴らしい」と思っている経営者が多いのではないかと思います。

 従来から日本では無借金会社が高い評価を得ていたり、長い間銀行からの融資などの間接金融が中心だったこともあり、「なるべく借金、つまり有利子負債は減らすほうが良い」と思われてきました。今でも根強く信仰されているかもしれません。

 しかし金融の理論上は、無借金よりも借金があるほうが企業価値が高まるとされています。企業は株主からの出資などによる株式資本、金融機関等からの借入による負債から調達したマネーを事業に投下することでリターンを得て、株主や貸し手に配当や金利というリターンを返すことで事業を拡大していくわけです。逆にいえば、株主や銀行はリターンを期待しているからこそ資金を投下するとわけです。株の場合にはキャピタルゲイン(株式売却益)も期待されています。

企業価値を高めるためには借金が必要?

 1958年にアメリカのフランコ・モディリアーニとマートン・ミラーが提唱したMM理論では、税金のない完全な市場の下で企業が資金調達を行うときには、資金調達方法の組み合わせ方、つまり負債(デット)と株主資本(エクイティー)の比率を変えても企業価値は変化しないという定理がうたわれています。

 しかし、実際には一般的に負債より株式資本による資金調達のほうがコストが高くなります。なぜなら、株主はもし倒産した場合には債権者が回収した残余財産しか得ることができないからです。当然、債権者より高い利回り(期待収益率)を要求します。

 また、負債の金利には節税効果もあるので、キャッシュフローが税引き後ベースでは増えます。よって負債比率が上がると、資本コストが下がり、節税効果が生まれるために企業価値は高まるのです。しかし、あまりに負債比率が高まると、今度は倒産リスク(財務リスク)が増えるということになり、負債の調達コストも増えてしまいます。

 したがって、事業が安定している企業であれば、ある程度負債で調達する比率を高める一方で、景気に左右されやすい企業であれば負債比率は抑えるといった負債と株式のバランスを考えることが重要なのです。

 優れた経営者は「無借金会社が素晴らしい」という思考は捨てて、むしろ金利が低い状況ではある程度柔軟に負債での調達も検討するべきだということでしょう。

ペッキング・オーダー理論

 ペッキング・オーダー理論では、調達手段にコストの差がある場合は、企業は調達手段をミックスして選択するより、コストの低いものから順番に選択するべきとするものです。この場合は、一般的には内部留保、負債、株主資本の順に資金調達するべきだということになります。つまり増資よりも借入をしろということでしょう。増資は希薄化の問題もあります。

 最近は日本企業も大型のM&Aを行うために巨額の負債を負うことで企業価値を高めるようになってきました。

 まず大きく「返済しなくても良い資金調達」と「返済が必要な資金調達」に分けられます。

返済をしなくても良い資金調達方法

 株式発行または譲渡による資金調達は、外部からの出資を受けることで資金調達を行う方法です。返済の必要はありませんが、配当を支払うことや値上がりすることを期待されています。また出資比率が高くなると経営に対する株主の関与が強まります。

 一般には33.4%以上(3分の1超)で重要事項への拒否権が生じたり、40%以上かつ経営者の派遣によって出資者の子会社と見なされることになります。50%超取られると実質的には経営権を失います。このため出資を受け入れる際には、企業価値を正しく算定して増資または譲渡する際の株価を適正にしておくことが何よりも大切でしょう。

 企業価値算定、株価算定(バリュエーション)の方法については別途ご説明したいと思います。

ベンチャーキャピタルなどからの出資

 ベンチャー企業の場合にはベンチャーキャピタルからの出資やエンジェル投資家からの出資、企業がアライアンスを目的として設立しているコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などからの出資も可能でしょう。私もNTTドコモにいた際に、ドコモ・ドットコムやMICの設立を実際に担当しました。

 注意すべきは、ベンチャーキャピタルの場合には第三者からの資金をファンドとして受け入れていて出資しているために、8~10年でExit(イグジット)、すなわち売却する必要がある点です。必要な助言を受けられるメリットは大きいですが、最終的には上場、店頭公開(IPO)を期待してキャピタルゲインを狙っているわけです。

 最近はカネ余りでベンチャーキャピタル同士の競争も激しく、筆者の個人的意見としては、やはり大企業とのアライアンスができるCVCのほうを優先するべきだと考えています。

補助金や助成金による資金調達

 国や自治体によるもので原則返す義務はありませんが、審査があり基本的には後払いとなるため、すぐに資金が必要な場合には他の手段で資金調達をしておくことが必要です。つまり、事前に申請をしてその後に事業をはじめて計画通り行ったと確認できた場合に、資金が受給できるわけです。また名称も自治体によって異なるため、事前によく確認することが大切です。

 なお、助成金は要件を満たせば受給できますが、補助金の場合は、事業計画や資金使途などを明確化する必要があります。助成金は厚労省、補助金は経産省や自治体などが多いです。不正受給問題などもあるため審査も厳格化しており、受給までに半年以上かかることも多いといわれています。詳しくは各HP上で説明されていますので確認してみてください。

ファクタリング

 企業の資産を裏づけとして資金を調達する「アセットファイナンス(資産の証券化)」などもあります。手形の割引も広い意味では資金調達です。証券化とは、不動産や債権のような、お金にしづらい財産を有価証券のかたちに変え、その証券を売却することで、資金を調達する方法のことです。特に中小企業にとって注目されているのは、近年日本でも急速に認知されはじめた「売掛金などを他者に売却することですぐに現金化することができる」ファクタリングです。

 例えば100万円の売上が上がったが売掛で販売したので実際に入金があるのは2カ月先(この期間のことをサイトと呼びます)だとしたら、その間の資金調達ができなくなります。このため、その100万円の売掛債権をたとえば70万円で買い取ってもらうことですぐに現金を手にする方法がファクタリングです。なかには悪徳業者もいるといわれているので注意が必要です。

返済が必要な資金調達

 返済が必要な資金調達には、銀行借入や公庫からの借入などがあります。

・日本政策金融公庫

 日本政策金融公庫は、主に中小企業や個人事業主に対して低金利で長期資金の貸出などの支援を行っている財務省所管の特殊会社です。一般貸付、セーフティネット貸付、金融環境変化対応資金、取引企業倒産対応資金、新企業育成貸付、女性・若者・シニア起業家支援資金、再挑戦支援資金、新事業活動促進資金、中小企業経営力強化資金などさまざまなものがありますので、一度ぜひHPをチェックしてみることをおススメします。審査はありますし一定の期間を要しますが、最大7200万円までの融資が受けられるので、まずはこの制度を検討してみることでしょう。

銀行融資(プロパーローン、信用保証協会)

 低利で借り入れをしたい場合には、次は銀行融資でしょう。事業計画の策定など審査はありますが、最も一般的です。銀行融資にはプロパー融資という銀行自身が審査を行う融資と、信用保証協会の保証付き融資の2つがあります。

 信用保証協会は、中小企業を支援するために保証を行っている協会のことで、信用保証協会が保証人となることでプロパー融資に比べると銀行は融資をしやすいといえるでしょう。ただし注意が必要なのは、返済不能になった場合に信用保証協会に対して返済義務を負うことになるので、返済不要というわけではまったくありません。一般的に0.5~2%程度の保証料が上乗せされます。いずれも銀行が窓口になります。

・ビジネスローン

 よくポストにはがきやチラシが入っていますが、経営者や個人事業者向けに提供されている商品にビジネスローンがあります。貸し手は消費者金融や信販会社などで、融資金額については100万~1,000万円とさまざまな商品があります。

 即日融資や担保、第三者保証人を必要としない、総量規制にかからないなどのメリットがありますが、金利が8~18%と高く、資金繰りが厳しい企業にとってはありがたい存在ですが利用には注意が必要です。よく検討してから利用すべきでしょう。なお、総量規制とは年収の3分の1までの金額合計までしか融資を受けられない、という規制です。

カードローン

 カードローンとは、銀行や貸金業者などが提供する無担保型・資金使途が自由な個人向けの金融商品です。コンビニのATMなどでカードを使用することで、借入・返済をすることができるので銀行系がCMなどでもかなり宣伝していますね。ただし貸金業者のカードローンは総量規制の対象ですから、合計で年収の3分の1までしか融資は受けられません。パートの方やアルバイトなどの個人でも利用可能ですが、返済能力についての審査があります。また金利も若干高めです。ご利用は計画的にということでしょう。

プロジェクトファイナンス

 最後に筆者が7年以上、興銀マンとして担当していたプロジェクトファイナンスについてご説明しましょう。

 プロジェクトファイナンスとは、大型のインフラ(橋や病院など)など、なんらかのプロジェクトで資金調達が必要になったときに、そのプロジェクトを行うためのSPC(特別目的会社)をつくり、SPCがお金を借りるという方法です。

 プロジェクトファイナンスのメリットは、借入金の返済を、そのプロジェクトが生み出すお金だけで行えることです。つまり、プロジェクトに参加する一企業が返済責任を負うことはありません。これをノンリコース・ファイナンスといいます。また、プロジェクトが有望かどうかで融資を判断されるので、プロジェクトに関わる企業の財務内容や信用力がなくても、多額の資金を借りられる可能性があります。

 さらに、プロジェクトの借入金は、参加企業の貸借対照表に記載されないので、財務内容が悪化するのを防げます。いわゆるオフバランスというものです。プロジェクトファイナンスは、発電所や刑務所や病院などの公共施設など、複数の企業や政府などを巻き込んだ大規模プロジェクトで使われます。

 PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)のプロジェクトでも、よく活用されています。これは、民間の資金やノウハウを使って、公共施設の建設や運営を行う手法のことです。もともと、イギリスで盛んに行われている手法で、近年、日本でも、この手法によって、全国の小中学校や体育施設、水道、下水処理場などが建てられ、国や地方公共団体のコストの削減につながっています。しかし水道民営化など民間企業の運営によって、水道代が5倍になるなど大きな社会的な問題を生み出しています。慎重な対応が望まれます。

 プロジェクトファイナンスの融資は多額になることから、貸す側の金融機関も高いリスクがあります。そこで、多くの場合は、複数の金融機関が協調して融資する「シンジケートローン」の形で行い、リスクを減らしています。

 以上、企業の資金調達の全体像について理論を含めてご説明しました。「明けない夜はない」という言葉を信じて、経営者の方には、この新型コロナウイルスのもたらす大不況を乗り切っていただきたいと切に願っております。

(文=平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長)

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平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長

平野敦士カール/株式会社ネットストラテジー代表取締役社長

米国イリノイ州生まれ。麻布中学・高校卒業、東京大学経済学部卒業。


株式会社ネットストラテジー
代表取締役社長、社団法人プラットフォーム戦略協会代表理事。日本興業銀行、NTTドコモを経て、2007年にハーバードビジネススクール准教授とコンサルティング&研修会社の株式会社ネットストラテジーを創業し社長に就任。ハーバードビジネススクール招待講師、早稲田MBA非常勤講師、BBT大学教授、楽天オークション取締役、タワーレコード取締役、ドコモ・ドットコム取締役を歴任。米国・フランス・中国・韓国・シンガポール他海外での講演多数。


著書に『プラットフォーム戦略』(東洋経済新報社)『図解 カール教授と学ぶ成功企業31社のビジネスモデル超入門!』(ディスカヴァー21)『新・プラットフォーム思考』・『シリーズ 経営戦略・ビジネスモデル・マーケティング・金融・ファイナンス』(朝日新聞出版)監修にシリーズ18万部を突破した『大学4年間の経営学見るだけノート』『大学4年間のマーケティング見るだけノート』(宝島社)など30冊以上。海外でも翻訳出版されている。

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