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37℃の発熱で強制的に自宅待機→休業補償1日6000円で収入4割減…タクシー業界の悲劇

文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー
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「gettyimages」より

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらぬ中、多くの企業は発熱した社員に仕事を休むよう指示している。ある大企業の営業所などは「1人でも感染者が出たら営業所全体を休みにする」としており、社員は感染を防ぐために手洗いやうがいを欠かさないそうだ。大企業であれば休業補償も手厚く生活は維持されると思われるが、給料が完全歩合制であるタクシー業界はどうなのだろうか。

 東京都内の中規模タクシー会社に勤務する40代のタクシードライバーは、発熱後に「1カ月ほど休め」と会社から言い渡されたという。

「2月末の勤務後、咳が止まらなくなり、熱を測ると37度ありました。私は平熱が35度台なので、いつもより1度以上高かったんです。『体温がいつもより高く、咳が止まらない。一昨日の乗務からおかしい』と会社に言ったところ、半ば強制的に乗務禁止となりました。最初はあわてて保健所に連絡しようかと思いましたが、厚生労働省によると、相談センターへの相談は『風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合』『強いだるさや息苦しさがある場合』となっていました。私の熱は37度だったので、様子を見ることにしました」

 タクシーは1日フルに働いて翌日を休みとする勤務体制が主流で、1カ月の乗務回数は12日前後。1日平均5万円の水揚げ(売り上げ)とすると1カ月に60万円で、そのうち50%がドライバーの取り分とすると月給30万円ほどになる。

「会社は1日あたり6000円の休業補償をしてくれましたが、これでは月給18万円で通常の6割にしかなりません。熱は3日後に下がったので、コロナではないと思い、会社に『体調が戻りました』と連絡しました。しかし、『しばらく様子を見てくれ』の一点張りなので、仕方なく休んでいます」

 熱が下がってもコロナ感染の可能性が消えたわけではない、というのが会社の考えであり、最悪の事態となる集団感染を防ぐための指示なのだろう。

売上4割減のタクシードライバーも

 大手タクシー会社のドライバーにも話を聞いてみた。

「俺たちがコロナに感染しても、会社は補償しないと言っててね。熱が出たら『2出番ほど自宅待機』で、熱が下がれば復帰できる。ただでさえ客足が落ちて売り上げが下がっているのに、2出番も減らされたらたまったもんじゃない。だから、みんな『少しぐらいダルくても休まない』と言ってるね」

 この会社は、手洗いやうがい、窓を開けての換気などを徹底しており、今のところコロナ感染者は出ていないという。

 また、深刻なのが売り上げ減少だ。通常、3月は歓送迎会などで客足が伸びる時期だが「昨年と比べて4割ぐらい減っているね。俺の場合、昨年は平均1日7万円だったけど、今年は4万円ちょっとがやっと。特に深夜がまるでダメだね」

 タクシー業界には「足切り」という言葉がある。これはノルマのことで、水揚げが足切りに達しなければ歩合率が下がり、足切りを超えれば歩合率が上がる。足切りが5万円なら、5万円で50%、6万円で55%……と売り上げに応じて手取りが増えていく仕組みであり、タクシードライバーのやる気の源にもなっている。ただし、足切りの5万円に届かなければ歩合率は40%と一気に減らされてしまう。

「緊急事態だけに、組合が『足切りを見直してくれ』と会社と交渉しているけど、会社は何も言わないんだ。言ってしまえばドライバーが安心して、売り上げが悪くても帰ってきちゃうでしょ。会社の売り上げが落ち込むのが目に見えているからね」

 もともと、タクシー業界にドライバーを大切にする空気は感じられない。乗務中に事故を起こせば弁償金を取られ、売り上げがいい社員と悪い社員の扱いは違う。免許さえあれば簡単にできる仕事であり、募集をかければ新人ドライバーは入ってくる。スポーツ新聞にタクシードライバー募集の広告が必ず掲載されているのも、それだけ人の出入りが激しいからだ。

 コロナ騒動が長引くほど食えないタクシードライバーが増えることになるが、会社はそうしたドライバーの面倒を見てはくれない。今後は、転職を余儀なくされるタクシードライバーも増えていくだろう。

(文=後藤豊/ライター兼タクシードライバー)

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

後藤豊/ライター兼タクシードライバー

1966年千葉県生まれ。東京都内の中小会社でタクシードライバーを兼務するライター。競馬と野球をメインに、雑誌や書籍で執筆をしている。主な著書に『テイエムオペラオー伝説』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(ともに星海社、共著)などがある。

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