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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」

新型コロナ、「集団免疫」で医療崩壊を招く恐れ…感染初期、発熱がなくても強い「倦怠感」

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 新型コロナウイルスがパンデミックと化し、欧州では爆発的ともいえるほど感染者、死亡者の増加が報じられている。そんななかでイギリス政府が打ち出した基本方針が「集団免疫」だった。英ボリス・ジョンソン首相は、人口の6割をウイルスに感染させて抗体を持たせることで集団免疫をつけ、事態を収束するとの目標を宣言した。しかし、この発言からわずか数日後の3月18日、イギリスは学校を一斉休校とした。

 当初の発表時、集団免疫に対してイギリス政府の誤った認識があったことは否めない。しかし、その誤りに気づき、感染拡大の防止へと方針変換を行ったことは政府として責任ある行動といえるだろう。

 ジョンソン首相が集団免疫について言及したあと、日本国内でも多くの情報番組で集団免疫について取り上げていたが、なかには誤った見解も見受けられた。

「60~70%の人が感染すると、ウイルスは行き場がなくなって収束していく」

 こういったコメントは、一般の人がわかるように砕いた表現なのかもしれないが、いささか疑問が残る。というのも、市中感染により60~70%の人が新型コロナウイルスに罹患したと想定すると、これまでの重症者、死亡者の増加から考えても、状況は収束どころか医療崩壊を招きかねないからだ。新型コロナウイルスの集団免疫による収束を目指すなら、ワクチンの存在が前提だろう。

 集団免疫を考えるときには、「基本再生産数」が重要となる。基本再生産数とは、1人の感染者から生じる二次感染者数をいう。たとえば、基本再生産数が5のウイルスがあると仮定すると、1人の感染者から5人に2次感染を引き起こす。だが、人口の80%がワクチン摂取により集団免疫を獲得していれば、1人の感染者から二次感染を起こすのは1人となる。さらに、ワクチン接種率が上がり集団免疫の獲得率が85%、90%となれば1人の感染者が生み出す2次感染者は1人以下となり、感染は広がらなくなっていく。基本再生算数が1以下になれば感染拡大は終息していく。このように、ワクチンがある前提であれば、集団免疫は有効な感染防止策となる。

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 だが、ウイルスにはポリオのように一度感染すれば「終生免疫」を取得して再度感染しないものと、RSウイルスのように二度、三度と感染を繰り返すものがある。さらに、ヘルペスウイルスのように一度感染すると体内から消えることなく、免疫力が低下した時に再燃して症状が出るものもある。

 現状では、まだ新型コロナウイルスの特性がすべてわかっているわけではない。また、感染者が増加し続けた先の状況は予測ができない。こういったことから、ワクチンがない現状で集団免疫を目指すことは非常に危険な方針であり、取るべきではない。今は、ワクチンまたは治療薬ができるまで感染拡大を限りなく抑えこんでいくことが大切である。

新型コロナウイルス、検査数を増やすのは無意味

 日本の死亡者数は諸外国に比べて少なく、新型コロナウイルスに対し善戦している。それにもかかわらず、いまだ検査数を増やすべきと主張する“専門家”もいる。もちろん、重症化のリスクがあるケースでは早期の検査が必要だが、症状がない場合は検査をする意味がないと考えられる。

 一般社団法人日本プライマリケア連合学会が示す新型コロナウイルス感染症の特徴は、以下の通りだ。

1. 感染から約5日間(1~14日間)の潜伏期を経て
2. 感冒様症状(発熱、咳、喀痰、咽頭痛、鼻汁等)、倦怠感等が出現し
3. 一部の患者では嘔吐、下痢などの消化器症状を呈することもあり
4. それら症状が比較的長く、約7日間持続する
5. 約8割の患者は、自然に軽快して治癒する
6. 約2割の患者は、肺炎を合併する。特に、高齢者や基礎疾患がある場合は肺炎を合併しやすい
7. 肺炎に進展した患者のさらに一部が、重症化して集中治療や人工呼吸を要する
(「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療所・病院のプライマリケア初期診療の手引き」より抜粋)

 感染初期では、風邪との区別がつかない症状といわれるが、実際には倦怠感を伴う場合が多いようだ。症例報告をみても、発症から約7日目に肺炎を合併し、重症化が進行していくケースが多い。また、発熱がない場合でも強い倦怠感が出るケースや、解熱後に肺炎が進行したケースもあるため、発熱はあくまで一指標にすぎないことを認識すべきである。

 現状では、日本での死亡者数は大きく増加していないが、感染者は増加しており油断できない。外出自粛により人との接触を避けること、手洗い・うがいの徹底といった感染予防が重要である。

 検査については、現状のスタンスを継続しつつ、重症化を見逃さないことが、日本が新型コロナウイルスに勝つ最善策だろう。自粛が長期化し、経済的なダメージも小さいとはいえないが、感染防止のための自粛は個々の命を守ることにつながることを忘れないでほしい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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