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財務省職員自殺、妻が「安倍首相や麻生財務大臣は“再調査される立場”」と調査を訴える

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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赤木俊夫さんの手書きの手記

「神風が吹き」(森友学園前理事長・籠池泰典氏)大阪府豊中市の国有地が8億円も値引きされ売却された森友学園問題。発覚から3年。「風化」しかけていた問題がコロナウイルス騒動のなか、動いた。

「文書の改ざんを強制させられ、極めて強い心理的負担を受けた。自殺との間に相当因果関係がある」

 3月18日、売却の決裁文書改ざん問題で、改ざん作業に従事させられて18年3月7日に54年の命を自ら断った財務省職員の赤木俊夫さんの妻が、国(財務省)と佐川宣寿元国税庁長官に対して計1億1000万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴したのだ。

 赤木さんの妻の代理弁護人だけの記者会見で、遺書や改ざんの経緯などが赤裸々に綴られた7枚の手記などが公開された。以下はその一部である。

「決裁文書の差し替えは事実です。元はすべて佐川局長の指示です。佐川理財局長(パワハラ官僚)の強硬な国会対応がこれほど社会問題を招き、それに指示NOを誰もいわない。(中略)これが財務官僚王国。最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ。手がふるえる。恐い」

「役所の中の役所と言われる財務省でこんなことがぬけぬけと行われる。うそにうそを塗り重ねるという、通常ではありえない対応を本省(佐川)は引き起こしたのです」

「抵抗したとはいえ、関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました。(中略)今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありませんでした」

「家族(もっとも大切な家内)を泣かせ、彼女の人生を破壊させたのは、本省理財局です」

職員を自殺に追いやった佐川局長

 国有地の不当払い下げが明るみに出た17年2月、国会で野党に追及された安倍首相が「私や妻(昭恵夫人)が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」と啖呵を切った。当時、財務省の理財局長だった佐川氏が「野党に資料を示した場合に森友学園を厚遇したと取られる疑いがある箇所はすべて修正するように」と近畿財務局に指示したのはその直後だ。その頃、同局の上席国有財産管理官だった赤木さんは妻に「内閣が吹っ飛ぶようなことを命じられた」と打ち明けていた。

 赤木さんは休日も呼び出され、財務省森友学園との交渉記録や昭恵夫人が登場する部分を消すなどさせられた。「公文書改ざんは犯罪です」と必死に反対したが聞き入れられなかった。心労から転勤を希望したがかなえられなかった。上司の目が届かない異動先で改ざん事実を暴露されることを佐川局長は恐れたのだ。

 森友問題の火消し役の先兵だった佐川氏は野党の追及に「森友学園と財務局の交渉記録は残ってございません」とシラを切り続けた。その後、文書が改ざんされていたことが発覚した。

 国会に証人喚問され、衆院と参院の計4時間近い喚問を受けた佐川氏は「刑事訴追の恐れがある」と野党の質問に一切、答えなかった。

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墨塗にされた文書を見せる生越弁護人

遺族愚弄の文書開示

 赤木さんは2017年夏頃から悩んでうつ病を発症し、翌年3月7日に自殺した。赤木さんは「公務災害」と認定され、労災が適用された。妻は夫の公務災害が認められた経緯を知ろうと同省に開示請求したが、ほとんどのページを真っ黒に塗りつぶしてあった。まさに、命を懸けた職員の遺族を愚弄したのだ。妻の代理人、生越照幸弁護士は「財務省が誠意ある対応を取れば訴訟には至らなかったのでは」と話す。

 佐川氏ら財務省幹部を弁護士らが「公文書改ざん」などの罪で刑事告発した。しかし大阪地検特捜部は不起訴とした。検察審査会が「不起訴不当」と決議して再捜査したが、「改ざんされた政治家の関与などは、文書の本質的な部分ではなく、売買契約に大きく影響していない」などとして再び免罪にした。当時の山本真千子特捜部長は栄転した。

 提訴の個人的なターゲットは佐川氏だけだ。生越弁護士は「当初は近畿財務局対本省という構図でしたが、局内も変わってしまった」と話す。近畿財務局は当初、本省指示の隠ぺい指示にも、管財部長が「応じるな」とするなど、局内幹部も本省支持に抵抗はしたが、ごく一時期だった。

 部下に改ざんをさせるにあたり、当時の美並義人・近畿財務局長は「全責任は自分が取る」と言った。改ざんは許せないが実にカッコいい。しかしその後、一切改ざんについて語らず、今は東京国税局長に収まっている。一体、何の責任を取ったのか。格好のいいことを言う前に自分で改ざん作業をすべてやればいい。自己の手を汚さず部下に押し付け、その部下が自殺までしても口をつぐんでいるだけの「ヒラメ公僕」が悲しい。

 記者会見で筆者は「この訴訟を応援してくれる近畿財務局の同僚などの職員はいるのですか?」と尋ねたが生越弁護士は「赤木さんは池田統括は尊敬していたのですが……。居ませんね」と吐露した。同弁護士は「今でも近畿財務局の中では話す機会を奪われて苦しんでいる人がいます。本当のことを話せる環境を財務省と近畿財務局にはつくっていただき、この裁判ですべてを明らかにしてほしいです。佐川さん、どうか改ざんの経緯を、本当のことを話してください」などの妻の言葉を読み上げた。

「ご遺族が来ないでほしいと言っている」としゃあしゃあと嘘をついて赤木さんのお墓参りに行かなかった麻生太郎財務大臣は、「手記と(財務省の)調査報告書の内容に大きな祖語はないと思っているので再調査は考えていない」と答弁した。安倍首相は「首相答弁が改ざんのターニングポイントだとは手記に書いていない」とした。

 これらの答弁を知った赤木さんの妻は23日、弁護士を通じて「『私や妻が関係していれば総理大臣も国会議員も辞める』と発言した国会答弁が原因をつくった」「麻生財務大臣に墓参りに来てほしいと伝えたのに国会で私の言葉を捻じ曲げた」とコメントした。

 さらに「安倍首相や麻生財務大臣は再調査される立場であって、する立場ではない」として第三者委員会などの調査を求めていることを明らかにした。

 驚くしかないのは、もっとも深入りしていた安倍昭恵氏。売却地に開校予定だった「瑞穂の國記念小學院」の名誉校長だった。「自分の契約相手は国民」が口癖の真面目な「公僕」だった赤木俊夫さんの尊い犠牲にも頬かむりし、今なお嬉々として目立ちたがっている。どういう神経の持ち主なのか。稀に見る「傑女」である。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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