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甲子園出場は春のみでもプロで活躍の選手・第2回「ライアン小川」…21世紀枠で奇跡の出場

文=上杉純也/フリーライター
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小川泰弘(「Wikipedia」より)

 本来であれば、この時期は選抜高等学校野球大会(センバツ)、すなわち春の甲子園が開催されているはずだった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて今年は開催が見送られてしまった。そこで、甲子園好きの読者のために、「春の甲子園にしか出場していないが、その後プロに進み、活躍した選手」を紹介したい。

 前回の坂本勇人(読売ジャイアンツ)に続く今回は、小川泰弘(東京ヤクルトスワローズ)だ。

 通算324勝、5714奪三振の米メジャーリーグ記録を持つ不世出の大投手ノーラン・ライアン。そのライアンを彷佛とさせる、大きく足を上げる独特のフォームで投げ込むのが、“ライアン小川”こと小川泰弘だ。

 プロ1年目の2013年以来、チームのローテーションの一角を担う存在となっている小川は、創価大学時代に東京新大学リーグで通算36勝3敗、防御率0.60という驚異的な成績を残し、一躍プロ注目の投手となった。結果、12年のドラフト会議でヤクルトから2位指名されて入団した。そんな小川の高校時代は、ほぼ無名の存在だったのである。

 だが、それも無理もない。小川の出身校である成章高校は、中京大学附属中京高校を筆頭に強豪私立高校がひしめく愛知県にあり、旧制県立中学の流れを組む伝統的な公立高校だったからだ。全国の高校野球ファンにはあまり知られた存在ではないものの、県内では“公立の強豪校”としておなじみではあった。特に、秋の県大会では04年から3年連続ベスト8進出、さらに07年にはベスト4にまで進出を果たしている。実は、このベスト4進出の立役者となったのが、何を隠そう、この小川であった。

 このあと成章は、東海大会進出がかかる3位決定戦で中京大中京の前に1対3で惜敗し、普通ならここで春の選抜出場の夢が断たれるところであった。ところが、なんと“21世紀枠”での春甲子園出場が舞い込んだのである。全国レベルの強豪校が多い愛知県のなかで、過疎地の公立校が継続して好成績を収めていることが高く評価されたのだ。

 こうして小川は08年のセンバツ第80回大会で、成章のエースとして甲子園に乗り込むことになった。21世紀枠というと例年、他校に比べて戦力が見劣りするというのが大方の見方だが、そこは野球王国・愛知のチーム。開幕カードで駒澤大学附属岩見沢高校(北海道)と激突することになっても慌てることはなかった。

 なかでも小川は試合前に徹底的に研究したという相手打線のクセを頭に入れ、打者ごとに攻め方を工夫する巧みな投球を披露していく。また得点圏に再三走者を背負いながらも、強気に内角を突くなどしてチーム打率4割近い駒大岩見沢打線に長打を許さなかった。エラー絡みで2点を失い7回まで1-2とリードされるも、8回表に味方打線が反撃し、3対2と逆転に成功。9回裏に2死三塁と一打同点のピンチを迎えたが、後続を断ち、8安打されながらも失点2、自責点0で見事に初戦突破を果たしたのである。同時にこれは成章に春夏通じて記念すべき初の甲子園勝利をもたらすこととなったのだった。

 続く2回戦は古豪・平安高校(現・龍谷大平安高校=京都)との一戦。甲子園の名門相手に善戦したものの、2対3で、一歩及ばなかった。惜しむらくは、2回表の小川のピッチングだ。2死二塁から四球と3本のタイムリーを許し、一挙に3点を先制されてしまったのだ。その後は巧みな二塁牽制でピンチを断つなど、粘りのピッチングを披露していただけに、投球が単調になった2回だけが悔やまれた。

 そして高校最後となった同年夏。春夏連続出場を狙った成章は、東愛知大会(記念大会で愛知県からは2校の出場枠があった)の決勝まで進出したものの、エース小川が大府打線に11安打を浴び、1対3で敗退。惜しくも夏の甲子園出場を逃し、小川は高校野球生活に別れを告げた。

大学3年時に現在のスタイルに大変貌

 ところで、小川の高校時代の投手としての持ち味は、駒大岩見沢戦で見せたような“投球術”であった。そのスタイルから、現在のようなライアンばりの豪快な投球フォームに変更したのは、創価大学3年生時の夏のこと。まさに、ライアンの著書『ピッチヤーズ・バイブル』に出合ったのがきっかけだった。そしてそれ以降、リーグ戦では無傷の21連勝を達成することとなる。3年秋にはリーグ新記録となる防御率0.12をマークし、4年春には東京学芸大戦でリーグ史上8人目となるノーヒットノーランを達成。

 こうして小川は、わずか2年でプロ注目の投手へと変貌していった。だが、プロ入り後は1年目こそ16勝をあげて新人王に輝いたものの、15年の11勝を最後に二ケタ勝利からは遠ざかっている。昨シーズンも結果的に5勝12敗、防御率4.57と自己ワーストの成績に甘んじた。それでも、シーズンを通して先発ローテーションを守り、3年ぶりに規定投球回数にも到達し、今季復活するための足掛かりを築いてもいる。

 小川の不調に合わせるかのように、チームも昨年は最下位に沈んでしまったが、そのチームが上位進出するキーマンのひとりは、間違いなくこの小川なのである。

上杉純也/フリーライター

上杉純也/フリーライター

出版社、編集プロダクション勤務を経てフリーのライター兼編集者に。ドラマ、女優、アイドル、映画、バラエティ、野球など主にエンタメ系のジャンルを手掛ける。主な著作に『テレビドラマの仕事人たち』(KKベストセラーズ・共著)、『甲子園あるある(春のセンバツ編)』(オークラ出版)、『甲子園決勝 因縁の名勝負20』(トランスワールドジャパン株式会社)などがある。

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