だが、近年は製造業のコスト競争環境が悪化し、国内で製造していては、採算が合わないケースが増えてきた。また、全世界的にモノの地産地消化が進んだこともあり、多くの日本メーカーが北米や中国、そしてアジアに現地法人を設立し、そこで生産を行うようになった。
近い将来、日本の経常収支が赤字になる可能性は高い
製品を輸出するケースと、海外の現地法人が製品を販売するケースを比較すると、決算書上、両者にはそれほど大きな違いは生じないが、お金の動きはまるで違ったものになる。輸出の場合、日本にある本社が直接、外貨で代金を受け取り、国内の為替市場で円に替えることになるが、現地法人が販売した場合には、代金は現地法人が受け取ることになる。
よほどのことがない限り、その資金が日本に送金されることはなく、そのまま現地法人が保有するパターンが多い。日本の本社が受け取るのは、現地法人から日本の本社に支払われる配当や、貸付けに対する利子、あるいは知財利用料などに限定される。現地法人から受け取る利子や配当が国際収支における所得収支(投資収益)の実態である。
そうなると、今、得られている所得収支には寿命があると判断せざるを得ない。
コスト競争の結果として現地法人を増やし、そこからの配当が増えているのだとすると、近い将来、さらに低コストの新興国にその座を取って代わられる。そうなると、海外から得られる所得収支も減少に転じる結果となるだろう。一方、日本人が消費のために輸入する金額は大きく変わらない可能性が高いので、現地法人の減少は、最終的には経常黒字の減少につながってくる。
国内の人口動態も経常収支に影響を与えると考えられる。
マクロ経済における貯蓄投資バランス論では、国民の貯蓄は、企業の設備投資と経常黒字、そして財政赤字の金額を足したものに等しい。日本は今後、急速な勢いで人口減少と高齢化が進むので、高齢者の比率が上昇してくる。
政府は企業に対して70歳までの雇用を求めており、事実上の生涯労働社会になりつつあるが、仮に企業が70歳まで社員を雇ったとしても、40代や50代と同じ賃金というわけにはいかないだろう。スキルが高く、高齢になっても高い賃金で雇われる一部のビジネスパーソンを除いて、年収は大幅に下がる可能性が高い。一方、仕事を続ければ、それなりに支出も必要となることから、高齢者の貯蓄率は今後さらに低下すると考えられる。
もし貯蓄率が今の水準から大幅に低下した場合、設備投資を犠牲にするか、財政赤字を縮小しない限り、経常黒字の水準は維持できない。年金や医療の維持を考えた場合、財政赤字が縮小できるとは考えにくいし、企業は一定の設備投資を継続しないと企業活動を継続できないので、やはりシワ寄せは経常収支に及ぶことになる。