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マスク、月30億枚超の供給不足か…世界的なマスク不足、もう安く買うのは困難な情勢

文=明石昇二郎/ルポライター
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「gettyimages」より

いつになったらマスクが買えるのか?

 マスクが相変わらず、手に入らない。マスクが普通に買えたのは今年1月までのこと。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ドラッグストアやスーパー、コンビニエンスストアの店頭からマスクが消え、補充も十分にされず、買えなくなった。

 テレビでは、感染症の専門家を名乗る人たちが登場し、「マスクでは感染の予防効果は低い」として、「外出時には携帯用のアルコール消毒薬を持ち歩く」よう勧めていた。すると今度は店頭からアルコール消毒薬がたちまち消え、買えなくなった。2月上旬以降、3月末現在に至るまで、マスクとアルコール消毒薬の品薄状態はまったく解消されていない。

 この事態に対し、政府は2月中旬、「毎週1億枚以上供給できる見通しができている」(菅義偉官房長官。2月12日)としていた。専門家がたとえマスクでは感染を防げないと言おうとも、政府はなんとしてもマスクの供給を正常な状態に戻そうと考えていたのだ。翌2月13日に発表された政府の緊急対応策では、マスク増産のための設備投資支援に5億円を確保。しかし、マスクの品薄状態は解消されず、「増産態勢を確立し、今週から入ってくるという報告を受けていた」(菅官房長官。2月20日)と釈明。

 2月22日の時事通信は、菅官房長官が経済産業省の担当者を呼び、「話が違うじゃないか。どうなっているんだ」と叱りつけながら、マスクの品薄状態が解消されない現状について説明を求めた――と報じた。同日の時事通信は、政府関係者の談として、1月の最終週には週1億枚超を供給できるようになったものの、需要がそれをはるかに上回る週9億枚にまで急増。需要にまったく追いついていない現状を伝えていた。

 2月末の時点で国内のマスクメーカーは、通常の3倍のペースで増産していたという。しかし、新型コロナウイルス禍が起きる前、国内で流通していたマスクのおよそ7割までが、中国で製造されていたものだった。この機会に確認してみたところ、筆者の家で買い置きしてあった使い捨てマスク(1箱50枚入り)にしても、やはり中国産。購入価格は600円前後だったと記憶している。

 つまり、中国で新型コロナウイルスの感染が拡大し、中国国内でのマスク需要が急増したのと同時に、マスクの生産も止まってしまい、日本に供給されなくなったことが、マスク品薄騒動の端緒であり、原因だった。経産省によれば、2月下旬には中国からの輸入も再開されたというのだが、ならばなぜ、ドラッグストアやスーパーの店頭からマスクが消えたままなのか。

月産6億枚でも“焼け石に水”

 3月26日、静岡県富士市のマスク工場を牧原秀樹・経済産業副大臣が視察した。この日の模様を報じた静岡放送(SBS)によると、この工場では、従来の2倍以上の速さでマスクを生産できる世界最先端の設備を導入。この日が初出荷だったのだという。視察後、牧原副大臣は、国内の供給量は1カ月で約6億枚となる見込みだと説明。しかし、それでも需要にはまだまだ追いつかず、十分なマスクの量が流通するメドはついていないと話していた。

 中国産マスクの輸入が止まったことに対し、国内のマスクメーカーが揃って増産に踏み切り、牧原副大臣も言うように、3月には国内産マスクだけで6億枚以上を生産したのだという。4月にはさらに増産を進めるらしい。これまでマスク生産とはなんの縁もなかった家電メーカーのシャープなども、政府の緊急要請に応じてマスク生産に参入。液晶ディスプレーを製造していた清浄度の高いクリーンルームで1日当たり約15万枚を生産し、今後は1日あたり約50万枚にまで生産量を拡大させるという。

 ちなみに、新型コロナウイルスの問題が起きる前までは、マスクは月4億枚が供給されていたといい、花粉が飛ぶ量の多かった2年前のマスク供給量でも「月6億枚」だったのだそうだ。それに匹敵する量を今や国内産だけで賄えるようになったわけだが、前掲の時事通信記事が伝えているように、1月末時点での需要が週9億枚、つまり「月36億枚」が必要だった。30億枚も足りなければ、マスクの在庫も一気に尽きるわけである。感染者の急増を受け、東京をはじめとした首都圏に「外出自粛要請」が出された3月末時点の需要は、さらに増えているに違いない。ようするに、月6億枚では“焼け石に水”でしかなかった。

 そのうえ、新型コロナウイルスへの感染者が欧米各国で爆発的に増大しているせいで、かつてないほどのマスク需要が地球規模で生まれている。「マスクは病人がするもの」として、マスクをして出かける日本人の姿を小バカにしていた欧米人までが、今やこぞってマスクをし始めているのである。3月26日には感染急拡大国のひとつ、スペイン政府が、中国からマスク5億5000万枚を「爆買い」したと、共同通信が報じた。これでは、需要の不足分を中国からの輸入で補うのはしばらくの間、期待薄である。

 新型コロナウイルス「COVID-19」(コビッド・ナインティーン)の登場は、世界の“マスク観”をも変えていた。人類のマスク需要は高まる一方だ。

高い「使い捨てマスク」なら今でも買える

 マスクの供給先としてまず優先されるのは、医療機関である。しかも、医者や看護師が標準的につけているマスクと、感染症病棟の医者や看護師が感染予防のためにつけているマスクの性能は、まったく異なる。だが、現在は医療機関でさえもマスクが足りていないのだという。この状況は、ドラッグストアなどの品揃えを充実させるよりも先に、ただちに改善する必要がある。でないと、私たちが新型コロナウイルスに感染し、さらには肺炎が重症化した場合、満足のいく治療や適切な治療を受けられなくなる恐れがある。

 国や自治体が補助金を出し、税金で買い上げたマスクは、医療機関や感染拡大地域の自治体に直接、届けられる。そうしたニーズを満たした後でなければ、マスクは市場に流通しない。

 最初に新型コロナウイルス感染が拡大した中国でも、1月にはマスク不足が深刻になり、マスクを求めて薬局の行列に並んでいた客同士で殴り合いの喧嘩が起きたり、薬局の店主と客の間でマスクをめぐっての口論が起き、警察が出動したりすることもあったという。現在の日本は、それを2カ月遅れで後追いしている感じだ。マスクが買えないことに苛立った客が、ドラッグストアの店員に暴言を吐き、逮捕される事件も発生している。

 とはいえ、私たち一般庶民の願いは「普通に流通しているマスクを、それまでどおりの当たり前の価格で買いたい」だけなのである。このささやかな願いが叶うまでに、あとどれだけ待てばいいのか。

 ニーズや品薄感が高まれば、値が上がるのは世界の常識。そもそも使い捨てマスクの価格は、人件費の安い中国で作ったものを輸入していたので、安かったのである。需要が急拡大すれば、原材料費が高騰するうえに、国内で生産するなら人件費も上乗せされる。市場原理と経済原則から考えれば、新型コロナウイルス騒動が発生する前の従来価格でマスクを売るのは、赤字覚悟の出血大サービスか、ボランティア活動以外にありえない。つまり、騒動が完全に終息しない限り、従来の価格でマスクを買うのは難しい。

 しかし、機能はそのままなのにかなり高価になったマスクなら、今でも買える。ここにきてインターネット上には、マスク価格を安い順に並べて表示する「在庫速報.com」が登場。いわゆる「転売ヤー」は排除されており、マスクだけでなく、消毒用のアルコールジェルやアルコールスプレーも購入できる。難があるとすれば、手元に届くまで1~2週間ほど待たなければならないことくらいだ。

 サイトを確認した3月28日時点での最安値は10枚入り税込み580円(送料別)。1枚当たりの単価は58円である。以前に箱買いしていた者からすれば、5倍から6倍に値が上がっているので、一瞬躊躇はするものの、手に入れることはできるので、買い置きのマスクが尽きた際にはこうしたサイトを利用するほかない。

国民全員にマスクを行き渡らせるのは政治の役目

 今回検証してみてわかったことは、単にマスクの生産量も供給量も需要に全然足りていない――ということだった。日本国民全員にマスクを行き渡らせることを目標とするなら、政治の介入が不可欠だ。補助金という名の税金をマスク業者に投入し、たくさん作らせるだけではなく、どうやって多くの国民の手元にマスクを行き渡らせるか、ということまでを、政治が主導してきちんと決めてかからないと、“買いだめ”の餌食になって消えるのがオチであり、マスクの感染拡大防止効果も望めない。

 政府が市場経済を無視し、マスクの強制買い上げを実施し、国民一人ひとりにマスクを無料で配給するのも、一つの手段かもしれない。だが、市場経済を上手に利用する手がないわけでもない。例を挙げる。

 今まさにマスクを必要としている人が多い現状を踏まえるならば、使い捨てマスクを「50枚1セット」の箱にして売るのではなく、「5枚で10セット」に小分けして売るのである。1人が50枚を後生大事にしまっておいては何の意味もないのだから、10人が1週間でもマスクを確実にしてもらうことを目指したほうが、感染拡大防止の面からも大変有意義だと思う。

 マスクの販売サイトにしても、「医療関係者向け」「患者向け」「一般向け」と分けて販売するやり方が考えられるだろう。「医療関係者」には、医者や看護師をはじめ、医学生や看護学生、そして医療施設や介護施設で働く職員も含めるといい。身分の確認方法は今後考えるとして、マスクが不可欠なところに効果的に行き渡らせるため、供給数や優先度を考慮しながら調節するのだ。それができるのは、まさに「政治」であり、今こそ「政治」の出番なのである。

        ※

 経済原則からすれば、よりニーズが高く、お金をたくさん払うところにマスクは流れていく。これまで安値で作っていた中国などは、よりお金を出す国に喜んで売るだろうし、品質面から「メイド・イン・ジャパンが良い」と考える国なら、中国産マスクより高値でも買ってくれる。となれば、日本国内のマスク業者であっても輸出しない道理はない。

 それだけにマスクメーカーさんには、従業員の長時間労働などによる労災発生を防ぐため最大限の配慮をしつつ、これまで以上にマスクの生産量拡大に取り組んでいただきたい。従業員が倒れれば、その先のマスク生産にも支障をきたすわけだから、何としても労災は避けてもらわなければならない。

 新聞の中には、「感染が収束に向かえば需要も消えるため、メーカーも大規模な設備投資に踏み出しにくい」(朝日新聞デジタル3月25日 17時30分)と報じているところもある。だが、今後1年は間違いなく、世界中に莫大なマスク需要があるのである。みすみす商機を逃すことなく、これからの1年で一生分を稼ぐ勢いで設備投資に勤しみ、ついでに雇用を増やしてもらったほうが、世界中で冷え切っていくばかりの景気の下支えにもなると思う。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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