月産6億枚でも“焼け石に水”

 3月26日、静岡県富士市のマスク工場を牧原秀樹・経済産業副大臣が視察した。この日の模様を報じた静岡放送(SBS)によると、この工場では、従来の2倍以上の速さでマスクを生産できる世界最先端の設備を導入。この日が初出荷だったのだという。視察後、牧原副大臣は、国内の供給量は1カ月で約6億枚となる見込みだと説明。しかし、それでも需要にはまだまだ追いつかず、十分なマスクの量が流通するメドはついていないと話していた。

 中国産マスクの輸入が止まったことに対し、国内のマスクメーカーが揃って増産に踏み切り、牧原副大臣も言うように、3月には国内産マスクだけで6億枚以上を生産したのだという。4月にはさらに増産を進めるらしい。これまでマスク生産とはなんの縁もなかった家電メーカーのシャープなども、政府の緊急要請に応じてマスク生産に参入。液晶ディスプレーを製造していた清浄度の高いクリーンルームで1日当たり約15万枚を生産し、今後は1日あたり約50万枚にまで生産量を拡大させるという。

 ちなみに、新型コロナウイルスの問題が起きる前までは、マスクは月4億枚が供給されていたといい、花粉が飛ぶ量の多かった2年前のマスク供給量でも「月6億枚」だったのだそうだ。それに匹敵する量を今や国内産だけで賄えるようになったわけだが、前掲の時事通信記事が伝えているように、1月末時点での需要が週9億枚、つまり「月36億枚」が必要だった。30億枚も足りなければ、マスクの在庫も一気に尽きるわけである。感染者の急増を受け、東京をはじめとした首都圏に「外出自粛要請」が出された3月末時点の需要は、さらに増えているに違いない。ようするに、月6億枚では“焼け石に水”でしかなかった。

 そのうえ、新型コロナウイルスへの感染者が欧米各国で爆発的に増大しているせいで、かつてないほどのマスク需要が地球規模で生まれている。「マスクは病人がするもの」として、マスクをして出かける日本人の姿を小バカにしていた欧米人までが、今やこぞってマスクをし始めているのである。3月26日には感染急拡大国のひとつ、スペイン政府が、中国からマスク5億5000万枚を「爆買い」したと、共同通信が報じた。これでは、需要の不足分を中国からの輸入で補うのはしばらくの間、期待薄である。

 新型コロナウイルス「COVID-19」(コビッド・ナインティーン)の登場は、世界の“マスク観”をも変えていた。人類のマスク需要は高まる一方だ。

高い「使い捨てマスク」なら今でも買える

 マスクの供給先としてまず優先されるのは、医療機関である。しかも、医者や看護師が標準的につけているマスクと、感染症病棟の医者や看護師が感染予防のためにつけているマスクの性能は、まったく異なる。だが、現在は医療機関でさえもマスクが足りていないのだという。この状況は、ドラッグストアなどの品揃えを充実させるよりも先に、ただちに改善する必要がある。でないと、私たちが新型コロナウイルスに感染し、さらには肺炎が重症化した場合、満足のいく治療や適切な治療を受けられなくなる恐れがある。

 国や自治体が補助金を出し、税金で買い上げたマスクは、医療機関や感染拡大地域の自治体に直接、届けられる。そうしたニーズを満たした後でなければ、マスクは市場に流通しない。

 最初に新型コロナウイルス感染が拡大した中国でも、1月にはマスク不足が深刻になり、マスクを求めて薬局の行列に並んでいた客同士で殴り合いの喧嘩が起きたり、薬局の店主と客の間でマスクをめぐっての口論が起き、警察が出動したりすることもあったという。現在の日本は、それを2カ月遅れで後追いしている感じだ。マスクが買えないことに苛立った客が、ドラッグストアの店員に暴言を吐き、逮捕される事件も発生している。

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