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中西貴之「化学に恋するアピシウス」

チョコレートに血圧低下やストレス軽減の健康効果…ダークチョコ摂取で認知機能向上の謎

文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部
チョコレートに血圧低下やストレス軽減の健康効果…ダークチョコ摂取で認知機能向上の謎の画像1
「PIXTA」より

 チョコレートに対して「カロリーが高くて太るし、虫歯の原因になる」と負の側面ばかりが気になり、敬遠しているビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。最近の研究で、続々とチョコレートの有効性が明らかになり、特にチョコレートを食べることによって睡眠の質や認知機能が向上し、仕事の効率を上げることにつながるデータが出ています。

チョコレートの起源はエクアドルだった?

 チョコレートの起源が15世紀中米のアステカ王国における不老長寿の薬としての飲用まで遡れるという話は、以前の記事で紹介しました。しかし、そもそもチョコレートのもとになるカカオの栽培がどのようにして始まったのかについては長年の謎でした。考古学者の多くは近年まで、カカオの栽培の起源もメソアメリカであろうと考えていました。実際に、3900年前の中米の古代遺跡から、カカオを栽培した痕跡が確認されています。

 しかし、カカオのゲノム(遺伝情報)を網羅的に解析したカナダやフランスなどの国際研究チームによる最新の研究によると、カカオの起源はさらに古く5300年前、しかも栽培地は中米ではなく、より南の現在のエクアドル近辺だったことが判明しました。

 カカオに限らず、作物はよりおいしく、より栽培しやすく品種改良が続けられます。その結果、栽培を長年続けたり交配を行ったりすると、遺伝子が書き換えられます。カカオの遺伝子を、新型コロナウイルスの検出にも使われているPCR法で解析することにより、遺伝子の類似性を明らかにすることができ、カカオが原種からどのように変化したか、その歴史をたどることができます。

 カカオにも多くの品種がありますが、これまでのさまざまな研究で、現在のカカオの原種はクリオロ種という品種であろうと考えられていました。クリオロ種は古代マヤで盛んに栽培されていたカカオですが、現在の世界市場では5%にも満たない希少種として珍重されています。

 クリオロ種のPCR情報を元に、さらに広範な解析を行った結果、クリオロ種自体も交配によってつくられた人工品種で、カカオの起源はクラライ種と呼ばれる古い品種を、風味と刺激性を高めるように、古代エクアドルのマヨチンチペ文明の人たちが品種改良した結果であることが、土器に残ったカカオに含まれる苦味成分であるテオブロミンやカカオのデンプンから確認されました。

チョコレートにリラックス効果がある理由

 チョコレートの成分はいまだ完全に解明されてはいませんが、近年注目を集めている成分にγ(ガンマ)-アミノ酪酸(GABA)があります。GABAはチョコレートのほかに、キムチや納豆にも含まれる天然のアミノ酸です。

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γ-アミノ酪酸の構造式

 GABAは中枢神経系の海馬や脊髄などに存在し、神経細胞同士の情報伝達を担う「神経伝達物質」と呼ばれるアミノ酸です。神経の活動を抑制する作用があり、脳の中でGABAを増加させる医薬品は鎮静薬や抗不安薬として使用されています。

 ビジネスや生活環境でストレスを受けると神経は興奮状態に陥りますが、GABAの作用によって、神経の高ぶりが沈められ、ストレスが和らげられるため、脳をリラックスさせる効果があるとされています。その結果、睡眠の質が改善したり、血圧を適正値に下げたりする作用が確認されています。

 机の引き出しにチョコレートを忍ばせ、気分転換に食べているビジネスパーソンも多いかと思いますが、それは非常に理にかなったことなのです。ストレスや緊張が多く、神経が興奮状態に保たれがちなビジネスパーソンにとって、リラックス作用のあるGABAはもっとも手軽なリラックス方法と言えます。

ダークチョコレートを食べて認知機能が向上?

 島根大学が、ダークチョコレートには神経成長因子(NGF)というタンパク質を増加させる作用があり認知機能を向上させるという研究結果を発表し、注目を集めています。

 この研究では、島根大学学生の実験協力ボランティア20名に対し、10名にはダークチョコレートを、残りの10名にはホワイトチョコレートを30日間、毎日24グラム摂取してもらいました。ホワイトチョコレートには、カカオ成分のうち脂肪分のココアバターしか含まれていません。認知機能の判定は、実験前と後を比較する方法で実施されました。

 その結果、ダークチョコレートを摂取した学生で血液をサンプルとして測定したNGF濃度が統計的に意味を持つ(有意な)上昇を示し、文字や数字を読む認知機能の実験結果も有意な好成績を示しました。一方で、ホワイトチョコレートを摂取した学生はNGF濃度は上昇せず、認知機能の判定結果も摂取前後で変化はありませんでした。

 また、ダークチョコレートを摂取した学生の認知機能は、摂取をやめた3週間後も高いレベルを示しており、ダークチョコレートの効果には持続性があることも確認されました。ただし、ダークチョコレートが認知機能を高めるメカニズムについてはわかっていません。

 以上のように、チョコレートに関する最新の研究で、ビジネスパーソンが直面するストレスや睡眠の質の問題を解決する作用がわかってきています。もちろん食べ過ぎは良くありませんが、適量を気分転換に摂取することに対しては、それほど罪悪感を持つ必要はなさそうです。

(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)

【参考資料】
The use and domestication of Theobroma cacao during the mid-Holocene in the upper Amazon

Sub-Chronic Consumption of Dark Chocolate Enhances Cognitive Function and Releases Nerve Growth Factors: A Parallel-Group Randomized Trial.

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

宇部興産品質保証部に勤務するかたわら、サイエンスコミュニケーターとしてさまざまな科学現象についてわかりやすく解説

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