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中西貴之「化学に恋するアピシウス」

日本、世界初の高性能センサ「HISUI」で宇宙からのレアメタル探査も可能に

文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部
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ISSの日本の実験棟「きぼう」(提供:JAXA)

 国際宇宙ステーション(ISS)に設置された日本の実験棟「きぼう」に新しい観測装置「ハイパースペクトルセンサ HISUI(Hyperspectral Imager SUIte)」が設置され、観測が開始されています。HISUIは特殊なスペクトルで地球表面を観測し、原油や鉱物などの探査を全地球規模で行うことができます。

人間がリンゴを「赤い」と認識できる理由

 日本はISS に独自の実験棟きぼうを有し、そこではさまざまな実験が行われています。きぼうは、その構造的特徴として、ISS 室内の無重力を生かした実験施設のほかに、宇宙空間に曝露された実験ユニットを備えています。この曝露実験装置では、さまざまな素材の宇宙空間での耐久性を試験したり、宇宙や地球を観測する装置が設置されたりしています。2019年末、ここに新しい観測装置が設置され、このたび運用が開始されました。

 その装置はハイパースペクトルセンサと呼ばれ、地球表面のあらゆる物質の反射スペクトル分布を測定する装置です。反射スペクトルのもっともわかりやすい例は色です。私たちはリンゴを見れば「赤い」と認識し、桜の花を見れば「淡いピンク色」と認識します。

 しかし、実はリンゴや桜の花は、それ自体が色という概念を持っているわけではないのです。私たちが見ている色は太陽や照明がリンゴや桜の花を照らしたとき、それらの表面で反射した光を目の網膜がキャッチし、その結果、脳の中で色がつくり出されているのです。

 物体は、その表面の構造や組成によってある特定の種類(波長)の光成分を吸収し、残りの光成分を反射します。私たちは、この反射された光を色として認識しているのです。つまり、リンゴと桜の花は、表面の構造や組成が異なるために違った色に見えるのです。

 真っ赤なリンゴがあったとすると、そのリンゴは表面で700ナノメートルという波長の光を反射し、それ以外の光はリンゴによって吸収されます。この700ナノメートルの光が、脳に「赤」と認識させるのです。また、ある物体が青色に見えたとすると、その物体は400ナノメートルの光を反射するなど、反射した光を測定することによって、その物体がどのようなものであるかを調べることができます。

世界初の高性能を誇るハイパースペクトルセンサ

 今回、運用が開始されたハイパースペクトルセンサは、人間の目では見ることができない波長領域までも、連続した高い解像度(分解能)を有します。それによって、地上にどのような色(光の反射)をする物体があるか、その性質・物性までも網羅的に明らかにできる、これまでにない高性能な装置です。

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HISUIを積載して打ち上げられたファルコン9ロケット(提供:NASA)

 同様のセンサはこれまでも数多く運用されていますが、観測波長帯が少ないために、おおまかな情報しか把握できませんでした。その問題を解決し、植生や鉱物等をより詳細に分類するために、連続する波長帯をすべて細かく観測することができる光学センサとしてHISUIが新たに開発され、きぼうに搭載されたのです。HISUIは、全地球規模で観測可能なハイパースペクトルセンサとしては世界初のものです。

 HISUIは、可視光線の領域から、人間には見えない短波長赤外域までを185分割してカバーすることによって得られる連続的なデータにより、資源開発分野においては多数の鉱物の分布状況の把握を、環境モニタリング分野においては森林や草原がどのような植物で成り立っているかを、あるいは山火事の発生状況の把握を、食料生産分野においては作付けされている農作物の種類や生育状況まで、現状では得ることができない詳細な情報を地上分解能20~30メートルで得ることができます。

宇宙からのレアメタル探査も可能に

 特に注目されるのは、鉱物資源の探査が可能である点です。岩石に有用鉱物が含有されていると、特徴的な光の波長を反射することがわかっています。すでに米国や中国が運用している同様のセンサを搭載した人工衛星によって、宇宙からの観測においても、それらのスペクトルは十分に確認可能であり、さらには地下の鉱物資源の予測も高い確率で成功することがわかっています。

 HISUIはそれら他国のセンサをはるかにしのぐ性能を持ち、金やプラチナなどの貴金属の探査や電子機器の製造に必須のレアメタルの探査など、いまだ人類が発見していない鉱脈を地球規模で探査することが可能です。

 現状では、そのような重要な金属の産出国は限られており、たとえばプラチナは南アフリカが世界の採掘量のほとんどを占めている状況です。日本はレアメタルを産出する鉱床は非常に小さく、今後の探査によっても増産は期待できない状況にあります。

 結果として、日本で使用するレアメタルは中国・南米などの一部の国に依存しており、有事には外交圧力の材料として利用されたり、産出国の事情によって輸入が左右されたりするなどのリスクを抱えた状態にあります。

 日本が世界規模で資源探査を行う力を持つことによって、調達先の複数国化や鉱床開発への国際協力など、先端産業の安定化に寄与するものと思われます。

(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)

【参考資料】
HISUI 宇宙実証用ハイパースペクトルセンサ」(宇宙システム開発利用推進機構)

HISUI開発の現状とデータの利用可能性」(Japan Space Systems)

石油資源を遠隔探知するためのハイパースペクトルセンサの研究開発

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

宇部興産品質保証部に勤務するかたわら、サイエンスコミュニケーターとしてさまざまな科学現象についてわかりやすく解説

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