「GAFA」が栄えても格差社会は拡大、経済は低成長…「イノベーション=技術革新」の誤解の画像1
グーグルの米国本社(「Wikipedia」より)

 イノベーションはいくつも起きているのに、国の経済成長につながらない。なぜなのか。果たして、イノベーションは本当に機能しているのか――。「日経エレクトロニクス」編集長、東京大学大学院教授などを歴任したジャーナリストの西村吉雄氏が、このほど『イノベーションは、万能ではない』(日経BP)を出版した。

 西村氏は国内の安易なイノベーション万能論に警鐘を鳴らし、「イノベーションは不可欠だが、それだけで山積する社会問題を解決できるわけではない」と説明する。

「イノベーション=技術革新」という誤解

――「イノベーション」は「技術革新」と訳されることが多いようですが、そもそもどのような意味なのでしょうか。

西村吉雄氏(以下、西村) この本を書くきっかけのひとつは「イノベーション=技術革新」という誤解が、あまりに根強く社会にはびこっていることに対する問題意識がありました。大学の講義で学生に質問しても、8割はそう思い込んでいます。「新しい科学、技術の成果」だと認識している人がほとんどで、平たく言えば、ノーベル賞につながるような科学的な成果、新発見がイノベーションだと思われています。

 しかし、イノベーションの原典であるシュンペーター(オーストリアの経済学者)は『経済発展の理論』の日本語訳の序文(1937年)で「経済システムに時間的変化を与えるもの」と説明しています。そして、それは「新しい組み合わせ」、すなわち「新結合」から生まれると言います。具体的には(1)新しい製品の生産・販売(2)新製法の導入(3)新しい販路の開拓(4)原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得(5)新しい組織の実現――としており、技術が関係あるのは(1)(2)にすぎません。しかも(2)についても、わざわざ「科学的に新しい方法に基づく必要はない」とコメントしています。

 著明な経営学者のピーター・ドラッカーも、イノベーションの例として「割賦販売」(分割して後払いできるようにすること)というビジネスモデルを取り上げています。つまり、イノベーションは経済システムを変化させる力であり、経済成長の原動力という、あくまで経済学上の概念です。

――日本では、なぜ「技術革新」というイメージが定着したのでしょうか。

西村 よく引用されますが、1956年の「経済白書」で「投資活動の原動力となる技術の進歩とは平和利用とオートメーションに代表される技術革新(イノベーション)である」と紹介されました。

 戦後日本では「技術によって経済復興を成し遂げる/遂げた」という自負が強くありました。実際には人口ボーナスや朝鮮戦争といった外部要因が大きかったと思いますが、それはともかく、敗戦国という劣等感を払拭するためにも、技術に期待するという思いが非常に強くあったのだと思います。

 もっとも、1950~60年代では世界中で「イノベーション=技術革新」と捉えられる傾向にありました。その出発点は、1930年代のナイロンの成功にあります。世界的化学メーカーである米デュポン社は、社内の中央研究所で「ナイロン」を開発し、世界的大ヒット商品を生み出しました。「世界に通用する基礎的な科学研究を行うことで、重要な新製品を見いだすことができ、大きな利益があげられる」という考えのもと、社内で研究、開発、生産、販売を完結させるという「リニア(一直線)モデル」が、ナイロンによって完成します。

 このリニア・モデルが第2次大戦後にトランジスタの成功などによって強化され、1950~60年代に全盛期を迎えます。「リニア・モデルの時代」は事実上、「イノベーション=技術革新」の時代であり、「中央研究所の時代」でもありました。

『イノベーションは、万能ではない』 GAFAは栄えても、国は富まず――イノベーションの本質、そして経済との関係を解き明かす。 amazon_associate_logo.jpg

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