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山崎将志「AIとノー残業時代の働き方」

中小企業は在宅勤務導入に金と労力を使うより、休業して国の支援策を最大限活用すべき

文=山崎将志/ビジネスコンサルタント
中小企業は在宅勤務導入に金と労力を使うより、休業して国の支援策を最大限活用すべきの画像1
「Getty Images」より

 新型コロナウイルス禍で世の中が大変なことになっています。今回は、中小企業経営者に対象を限定した話をしたいと思います。本稿の要点は以下の3点です。

1)国が中小企業向けに出している支援策を活用すべし

2)お客の来ない店舗は臨時休業するべし

3)在宅勤務の導入を検討するなら、当該部署/職務は休業とすべし

1)国が中小企業向けに出している支援策を活用すべし

 まず1)国が中小企業向けに出している支援策の活用に関してです。

 経済産業省が「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」と題したPDF(※)を公開しています。これは今回のパンデミックで影響を受けるすべてに事業者に対する支援策がまとめられたものです。具体的な内容はここでは述べませんので、文末のリンク先のPDFをご覧になってください。その理由は、情報量が多いことと、適宜最新の内容に差し替えられていることからです(私の見る限り過去3週間ではリンク先がのPDFが何度か上書き更新されています)。経営者の方がこれを読めば、ご自身のビジネスが置かれた状況からすぐに必要な対策が検討できると思います。

2)店舗は思い切って臨時休業するべし

 次に2)お客の来ない店舗の臨時休業に関してです。

 東京都知事の外出自粛要請が出て以来、2月以降少なくなった商業施設での買い物客が一層減少しました。私は今週の平日に情報収集のため繁華街や、大型ショッピングモールを何カ所か見て回りましたが、お客がほとんどいないにもかかわらず、開けている店舗がほとんどでした。

 今の状況下では、店を一時休業する決断を経営者はすべきと考えます。どの業態、どの店舗がというのを、ここで私が例示しなくても、経営者の方ならわかっていらっしゃると思います。従業員の口から「休業しましょう」と提案することはまずないでしょう。従業員を電車で通勤させてほとんど売上のない店舗で勤務時間中ずっと立たせながら、感染リスクにさらし続けるのは酷です。ここは「雇用調整助成金の特例措置」などを利用して、「一時的に店を閉めるが、給料は払う。再開したらきちんと戻れるようにする」と従業員に安心してもらったうえで休店すべきと考えます。

 お店に人が来ないということは、お客が「今は要らない」と言っている、ということです。すべてのビジネスはお客の要望に応えるために存在します。会社の借金の大きさ、従業員の雇用などといった経営者の都合は、お客にとっては無関係です。「今は」要らないと言っているのだから、「やっぱり欲しい」と言い始めてから再開できるよう一旦休んだほうがよいと私は考えます。

 率直に言えば、パンデミックは人類にとって負け戦です。これに対処することにアップサイドはまったくなく、いかに痛手を小さくして乗り切るかしかありません。例えていえば麻雀で自分以外の3人がリーチをかけている状況で、せいぜいピンフ・ドラ1程度にしかならない手で突っ張るのではなく、降りて損失を最低限にする決断をする状況です。こんな時に経営者をやっているなんて、運が悪いとしか言いようがありません。でも、ウィルス禍とはそういうものです。自然災害と同じで耐えしのぐしかないのです。

 この状況では支出を絞りに絞って、キャッシュを潤沢に持っておく必要があります。そのための資金繰り支援として融資制度が拡充されています。一般の人向けのテレビ番組では「こんな状況で融資しかしてくれないなんて。給付しろよ」という大衆迎合的な意見を耳にしますが、平時なら十分に魅力的なビジネスを経営されている方ならこんな状況で、先の資料に掲示されているような条件の融資が受けられる(可能性のある)ことのありがたさは、おわかりいただけると思います。すぐに動くべきです。

3)在宅勤務の導入を検討するなら、思い切って当該部署/職務は休業とすべし

 最後に3)在宅勤務の導入を検討するなら、思い切って当該部署/職務は休業とする案に関してです。

 ビジネスに関連して取り上げられている話題の一つに在宅勤務があります。この項の結論を先に言えば、中小企業経営者が、今回の試練への対応策として在宅勤務の検討にお金と時間を使うなら、政府の支援策をすべて利用して当該部署/職務は休業したほうがよい、と私は考えています。理由はこれから述べるとおりです。

 まず、完全在宅勤務が成り立つのは、ソフトウェア開発、ウェブサービスの提供や、原稿書き(まさに私のこの仕事)のなど、電子媒体で提出するアウトプットをつくる仕事に限られます。そして、このような仕事は何年も前からどこでも仕事ができる環境を構築し、実際にそうしています。これらの仕事を除けば、ほとんどの企業が提供しているのは、形のあるモノか、人間を介してのサービスです。これは企業規模の大小を問わず、同じです。

 事業の根幹である、商品をつくる工場、商品を保管する倉庫、そして物流の分野は絶対に在宅勤務は不可能です。食事をつくって提供する、マッサージを施術する、介護サービスを行うなども、職場(店舗や施設)でしかできません。

 社内の他の業務は、この商品・サービス提供の最前線を支える間接業務です。工場の直接作業者は現場に来るが、管理者は直接作業はしないから在宅で指示し、結果を管理するといった方法が在宅勤務の文脈では考えられますが、これは現実的でしょうか。おそらく生産現場に導入したカメラを通じて自宅から監視し、必要な指示は携帯電話かネットワークでつないだスピーカーからすることは理屈上可能です。

 しかし、そんな場所で人は働きたがらないので「職場」として成り立ちません。だから管理者も現場に出てくることになります。工場、倉庫、物流の責任者が現場に出てくるのなら、経営者も当然陣頭指揮をとらなければなりません。サービス業も同じです。そのため、モノや人を動かして売上が立つビジネスの基幹部分に携る人間は、ビジネスが動いている以上は出社する必要があるのです。

 では、基幹部分以外の業務に携わる人材はどうしたらいいでしょうか。彼らの多くは間接業務に携わっています。例えば入荷した部品の数をシステムに登録する、発注伝票を作る、受注処理をする、取引先からの問合せに応えるなどの業務です。ほとんどの企業ではすでに情報システムが導入されていますから、そこに自宅からアクセスすればことは足りると考える人もいるでしょう。

 しかし、現場から離れたところで入力・参照すべき情報は、実際ほとんどありません。また情報システムは強固なセキュリティの中にありますから、自宅のインターネットを介して接続させるような仕組みを構築しようとすれば、かなりの費用と時間がかかります。職場と同じレベルの仕事を期待するなら、やはり彼らも出社する必要があります。現状において彼らの在宅勤務をどうするかを検討するなら、通勤の方法や社内での衛生管理のあり方を検討すべきです。

 作業員でも管理者でもなく、間接業務にも携わらない人材がいるとすれば、彼らは「不要不急の仕事」をしていることになります。誤解を避けるために断っておきますが、この仕事に携わっている人たちは、そもそも不要な人材だと言いたいわけではなく、「重要だけれども今この状況では優先順位が低い仕事を担う人材」というだけです。この仕事を担う人たちが家で仕事をするための仕組みに投資したとしても、そもそも業務がありません。

 それに、ほとんどの会社員には、自宅に仕事をする環境がありません。ダイニングテーブルの上に置いたノートPCを覗きながら資料を眺め、オンライン会議に参加するなら、休校中の子どもに、静かにしてくれと注意しなければなりません。そんな中途半端な状況では仕事になりません。ですから彼らは復旧時までと約束して休業させたほうがお互いのためなのです。どのみち旅行も遠出もできませんから、細かく指示せずとも各自で有効な時間の使い方は考えるでしょう。もちろん、「雇用調整助成金の特例措置」の最大限の活用が前提です。

 3月28日に安倍首相が相当な長期戦になると発言しました。まともな科学者ならば終息時期に関する予測数字は明言できないほど、まだ不明点が多いのが新型コロナウイルスです。中小企業経営者はこれを字義通りに捉えて、キャッシュを厚めに用意して終息後の展開を計画しながらも、業態によっては政府の支援策を活用しながらビジネスそのものを休業し、時が来るまで待つという選択肢をとる必要があると考えます。

(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

山崎将志/ビジネスコンサルタント

山崎将志/ビジネスコンサルタント

ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。

2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。


最新刊は『儲かる仕組みの思考法』(日本実業出版社)

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