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黒田尚子「『足るを知る』のマネー学」

新型コロナ、新入社員が“知っておかないとマズい”給料の話…即休業で払われないケースも

文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー
新型コロナ、新入社員が“知っておかないとマズい”給料の話…即休業で払われないケースもの画像1
「Getty Images」より

 例年であれば、4月1日に入社式が行われ、新卒社員の新生活がスタートする。街の至る所に、着慣れぬスーツや制服に身を包んだ新社会人たちを目にして、初々しく感じたものだ。それが、今年は状況が一変。入社式などの式典は中止や時間短縮等の措置が取られ、なかには、1人ずつ個別に行われるなど異例尽くめの対応を取る企業もあった。

 入社早々、感染防止のため新卒社員が自宅待機となった企業では、全員にノートパソコンが配布され、入社式はインターネットでのライブ配信。新人研修もテレビ会議システムを利用した自宅研修になるという。緊急事態とはいえ、会社の雰囲気すらつかめない新卒社員では、業績が悪化しても給料が支払われるのか、もし感染して休職した場合どうなるかなど、不安を抱える人もいるだろう。

 今回は、今年の新卒社員が知っておきたい給与等のポイントをご紹介したい。

新卒社員は、社会人になれば4つも“保険”に入る!

 昨年2019年度の新卒初任給の額は、大学卒で21万2304円、高校卒で17万505円だった(※)。これは、東証1部上場企業 241社を対象にしたデータだが、4割近くの企業が初任給を「全学歴引き上げ」ている。さて、今年はどうなるか気になるところだ。

※一般財団法人労務行政研究「2019年度新入社員の初任給調査」(2019年5月)

 ただし、新卒社員は、これらの金額を丸々受け取れるわけではない。給与から差し引かれる(控除)ものとして、「法定控除」と「法定外控除」の2つがある。

 前者は法律で会社が賃金から控除が定められているもの。後者は前者以外に控除されるもので、例えば社宅費や財形貯蓄、従業員持株会の拠出金、労働組合費、社員旅行積立金などがある(会社によって種類は異なる)。

 知っておくべきは法定控除について。主に以下の6つがある。

(1)健康保険料

(2)介護保険料

(3)厚生年金保険料

(4)雇用保険料

(5)所得税

(6)住民税

 上記のうち、(1)~(4)は社会保険料、(5)(6)は税金である。

 なお、(2)の介護保険料が徴収されるのは40歳以上となっており、新卒であれば差し引かれることはない。加えて、保険料が全額事業主負担の「労災保険」からの補償も含めると、新卒社員は会社に入れば、すでに4つも“保険”に加入する点を理解しておこう。

「まだ若いから保険など関係ない」と安易に考えてはいけない。後述するが、もしかしてすぐに使う事態に陥るかもしれないのだ。

新卒社員は「可処分所得」で生活する習慣を!

 給与明細の見方だけでなく、新卒社員は「可処分所得」の考え方も知っておきたい。

 年収から、前述の社会保険料と税金を差し引いたものを「可処分所得」という。可処分所得は、いわば“手取り年収”といわれるものだ。年収1,000万円以下の場合、可処分所得はおおむね70~80%程度。年収350万円だと、可処分所得は278万円となる。年収が高くなるほど、控除額が減ったり、税率や保険料が増えたりするため、手取りは減る。したがって、これからの生活は、年収ではなく可処分所得の範囲で予算を立てる習慣をつけておきたい。

 さらに、これらの控除のタイミングも要注意だ。4月の初任給から控除されるのは、所得税と雇用保険のみ。厚生年金保険と健康保険の保険料は4月分からは控除されない。

 また、住民税は前年度の所得に対してかかるため、1年目は住民税が控除されず、対象となるのは2年目の5月の給与から。要するに、新社会人の初任給の手取りは多く、5月以降、手取りが減るしくみとなっている。

 筆者はFPとして、大学や専門学校で学生を対象に給与明細の見方をはじめ金銭教育の授業を行っているが、学生の頃はバイト代から所得税が差し引かれたり、国民年金保険料を支払ったりするくらいで、これらに精通している新社会人になる人は少ないだろう。例年なら、先輩社員などと雑談の際に教えてもらい「そのうち、給料が減るから、今のうちに貯金しとけよ」などとアドバイスを受けたものだが、今年は難しいかもしれない。

自宅待機のまま休業となった場合は6割の休業手当

 出社できず自宅待機であっても、在宅で研修などを受ける場合は給与が支給されるだろうが、自宅待機のまま休業となった場合、どうなるのだろう? あるいは、感染の可能性があるとして、会社から自宅待機(休業)を要請された場合は?

 このように、本人は働ける状態であるにもかかわらず、業績不振や受注量の減少などによる休業や安全措置を図る目的での休業は「会社都合」となり、労働基準法(以下、老基法)によって、雇用者は、平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならない(労基法26条)。労基法は、日本国内で労働者として働く人すべてを対象にしており、企業の種類や就業形態等を問わない。

 また、基準となる平均賃金とは、「自宅待機を命じた日以前3カ月間に支払った賃金の総額」を「その期間の総日数(暦日数)で除した金額」をいう(労基法12条)。「賃金の総額」には、基本給だけでなく通勤手当や残業手当も含まれるが、ずっと自宅待機の新卒社員なら関係ないだろう。また、「3カ月」に使用期間などが含まれる場合、それらは除く。

 ただし、休業手当のポイントは、6割「以上」となっている点だ。それ以上を支給する企業もある。実際に、大手電機メーカーの東芝では、卒業旅行で海外から帰国後、自宅待機などを求められ、入社日から出勤できない場合でも、欠勤扱いにせず給与の8割の休業手当を支給すると発表した。休業手当の扱いについては、就業規則を確認しておこう。

新卒社員でも「傷病手当金」は受給できる

 会社都合による休業の場合、6割以上の休業手当は支給されるのが原則。ただし、新型コロナウイルスは2月1日より感染症法上の「指定感染症」に分類されている。これによって、感染症が疑われる患者または確定患者を隔離入院させることや、都道府県知事は、感染症と確定した患者に、ある範囲の業務に従事することを一定期間制限できる(感染症法18条)。

 この場合の休業については、会社都合による休業に当たらず、休業手当の支払い義務はない。もちろん、出勤停止期間中の給与を削減することもできる。つまり、感染して陽性となれば(疑いがある人も含め)、強制的に入院となり、収入減少は避けられない。その上、感染確定の場合は休業せざるを得ず、休業手当もない。

 もちろん、企業によっては休業手当等を支給するなど、対応が異なる可能性はあるだろうが、大企業以外は、それほどの体力があるかどうか。現実は厳しいだろう。

 そこで、所得補償として頼るべきは「傷病手当金」である。これは、健康保険など公的医療保険の制度で、会社員や公務員など被用者にしかない。受給できる金額は、給与の3分の2で最長1年6カ月まで。入社して間もない新卒社員であっても、健康保険の被保険者となるわけだから、以下の3つの条件を満たせば受給できる。

(1)(業務上や通勤災害以外の)病気やケガにより療養中であること

(2)働けない状態(労務不能)であること

(3)4日以上会社を休んでいること(連続して3日間会社を休み、その後も休んでいる)

 ただし、休業中は給与(報酬)の支払いがない。あるいは、傷病手当金の金額より少ない必要がある。給与が支払われている場合、傷病手当金はその差額分のみの支給となる。

 傷病手当金に限らず、基本的に公的制度は「申請主義」に則っている。自分で手続きしなければ、適用は受けられず、その点でも知識・情報に乏しい新卒社会人は不利だ。なお、手続き先は、加入している公的医療保険の保険者である。健康保険証の券面に記載されている先と言えばわかりやすいかもしれない。

何事も最悪の事態を想定した行動を

 今年入社の新卒社会人の方は「運が悪かった」と思っている方も多いだろう(来年度の就活を思えば、ぎりぎりセーフだった?)。

 しかし、昨今、当たり前のことがそうでなくなったと覚悟しておくべきなのかもしれない。雇用や給与は未来永劫、保証されているものではなく、新卒社員も含め全員が常に最悪の事態を想定して行動すべきだろう。

 とりわけ、新卒社会人の場合、大学在学中に奨学金を借りていた人も多いはずだ。卒業後は、すぐに返還(返済)がスタートする。

 収入が安定していなければ、返還もおぼつかない。すでに、日本学生支援機構では、「新型コロナウイルス感染症への対応について(4月2日14時更新)」として、HPで情報提供を行っている。

 奨学金を返還中もしくは返還を開始する方で、新型コロナウイルス感染症の影響で、減収、失業、内定取消等が生じ、奨学金の返還が困難となった場合、「減額返還」「返還期限猶予」の手続きが受けられる。

 社会人となれば、「なんでもっと早く相談しなかったの!」と親に叱られる程度では済まないこともある。自分の行動の責任は取らなければならず、何事も能動的に行動して情報を求めるようにしてほしい。

(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

 1969年富山県富山市生まれ。立命館大学法学部卒業後、1992年、株式会社日本総合研究所に入社。在職中に、FP資格を取得し、1997年同社退社。翌年、独立系FPとして転身を図る。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーター、NPO法人キャンサーネットジャパン・アドバイザリーボード(外部評価委員会)メンバー、NPO法人がんと暮らしを考える会理事なども務める。著書に「がんとお金の本」、「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)など。近著は「親の介護とお金が心配です」(主婦の友社)(監修)(6月21日発売)
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