都に問い合わせをしたのは、まさに国の「緊急事態宣言」が発出されようとしていた前日のことだった。同宣言に対してすべての都民の積極的な協力を得るためにも、隠し事は禁物だろうと伝えると、「ご意見として承る」との返事。都民に仕えるべき公僕なのに、何様のつもりだろう。

 一方、永寿総合病院がある地域を所管する台東区保健所を取材すると、同病院のホームページで日ごとの感染者発生状況を公表していることを教えてくれる。保健所としては公表していないので、そちらを当たるよう言われる。

 永寿総合病院では、台東区保健所から検査結果の連絡が届き次第、ホームページを更新し、判明した感染者数を公表していた。その値などをもとにまとめたのが次の表である。マスメディアに載っていた数字と、病院で発表している数字には、かなりの乖離が見られるが、理由は定かでない。

コロナで20名死亡…永寿総合病院がクラスター化した“別の原因”と“初動ミス”の画像2
*「感染者総数」欄と「死者数」欄の数字は報道機関が報じたものか、東京都が発表したもの。「発生数」欄の数字は永寿総合病院がHP上で発表したもの。「慶応病院」欄の数字はすべて同病院HPで発表されたもの。
*PCR検査対象の永寿総合病院関係者(病院職員)は約700人。同検査対象の患者およびその家族数は、1人が複数回の調査を行なっているため不明。

 

 同病院の湯浅祐二院長は4月9日、同病院のホームページ上で院内の現状を報告した

「入院されていた患者様のうち、20名の方 が感染後にお亡くなりになっております」

「多くの入院患者様に感染が拡がり、大きな苦痛を与えてしまっており、感染していない患者様にも退院できない状況が続くなど、多大なご迷惑をお掛けしております。慶應病院 での事例など、他施設への感染の波及も発生しており、これについても責任を痛感しております。また、私どもに課せられている地域医療の中核病院としての機能も果たせない状況であり、台東区の皆様をはじめ、多くの方々に大きな不安を与えてしまっております」

 その中で湯浅院長は、院内感染の発端についても言及。

「当院では2月の時点で、新型コロナウィルス(筆者注:原文ママ)感染に関連した入院事例がありましたが、この事例については、今回のアウトブレイク(集団発生)以前に収束しています。今回の事例との関連はない可能性が強いと判断していますが、これについては検証を待ちたいと考えております」(カッコ内は筆者の補足)

 2月の感染者治療が集団感染の原因ではないというのだ。とすれば、原因は別にあることになる。同病院関係者は語る。

「最初に見つかった感染者は、今年1月に都内で発生した屋形船での集団感染の関係者です。その関係者であることは、ご本人から聞いて初めてわかりました。はじめからわかっていれば、もちろん感染症病棟に入っていただくわけですが、風邪とは全く別の病気で入院されていたので、あわてて検査して感染がわかったんです。患者さんのご家族にも感染していました」

 胸にストンと落ちる説明だった。

        ※

 アウトブレイクのきっかけをつくってしまった患者さんにしてみれば、たかが「風邪」のことを黙っていたことで、これだけの大騒ぎにまで発展しようとは、夢にも思わなかったことだろう。

 医療崩壊は、保健所の検査で判明した感染者たちによって起こるだけでなく、自覚症状のない感染者たちや、交通事故や別の疾患で病院を訪れる感染者たち、そして感染の恐怖に駆られてさまざまな病院を訪ね歩き、たらい回しにされる感染者たちによっても、思わぬかたちでもたらされる。

 心当たりのある人は病院にかかる際、その旨をきちんと申告しなければならない――という至極当たり前のことが守られていれば、大規模院内感染を未然に防ぐことはできたのである。残念でならない。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

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