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江川紹子の「事件ウオッチ」第149回

新型コロナ対策「安全・安心」と「プライバシー保護」の適切なバランスは…江川紹子の考察

文=江川紹子/ジャーナリスト
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テレビで流される、韓国の文在寅大統領による国民に向けたスピーチ。(写真:The New York Times/Redux/アフロ)

 新型コロナウイルスの問題で、私たちは今まで以上に「考える」ことを必要としている。

 たとえば、日々のさまざまな活動は、優先順位や重要度を1つひとつ熟慮して行うよう、求められる。これまで漫然と行っていたものを、必要性を吟味し、他の手段に代替可能かなど、いちいち考えなければならない。それは負担でもあるが、これまでの行動を見直す機会、と前向きにとらえることもできるだろう。

感染経路不明件数が急増した背景

 今考えるべき事柄の中で、喫緊の課題の1つに、「安全・安心」と「個人情報やプライバシー保護」のバランスをどうするか、という問題がある。あるいは、今回のような有事にあって、公益と私権のせめぎ合いをどう考えるか、といってもいい。

 これまで日本は、感染者が見つかると、濃厚接触者などをたどってクラスター(集団感染)を発見して封じ込め、さらなる感染を防いでいくという対策を展開してきた。それは、感染拡大抑制や限られた医療資源の有効活用という点で一定の効果があったと思われる。

 ただ、このところ、感染源がわからない事例が急増。最近、専門家の口からも「リンクの追えない孤発例」という言葉が発せられている。

 その理由は、感染者の総数が増え、つながりを追っていく作業をする作業が間に合わない、というのも一因だろうが、それだけではない。都会ではナイトクラブやキャバクラなど、夜の街における「接待を伴う飲食」の場での感染が疑われる例で調査チームが苦労している、という。客が訪れたことを認めなかったり、店の関係者が「迷惑がかかる」などとして、調査に協力しないケースがあるからだ。

 飲食店やライブハウス、カラオケなどの店を舞台にクラスターが発生したと思われる場合でも、「店側の同意が得られていない」という事情で、店名が公表されるケースは限られている。

 店名が公表されれば、調査は迅速に進み、さらなる感染防止に役立つ。大阪や北海道では、同意を得てライブバーの店名を公表し、それがクラスターの早期把握につながった、と報じられている。

 感染症法は、都道府県知事に感染症の調査に関する権限を与えたうえで、こう定めている。

「厚生労働大臣及び都道府県知事は……(同法の)規定により収集した感染症に関する情報について分析を行い、感染症の発生の状況、動向及び原因に関する情報並びに当該感染症の予防及び治療に必要な情報を新聞、放送、インターネットその他適切な方法により積極的に公表しなければならない」(同法第16条)

 同時に、同条2項では、「公表するに当たっては、個人情報の保護に留意しなければならない」とも定めている。この条項から、各知事は「同意がなければ店名などは公表できない」と判断しているようだ。

 死亡者の公表についても、遺族の同意が得られないとして、情報を伏せるケースが相次いでいる。東京都が発表する情報は、「年代」「性別」「居住地」「診断日」「死亡日」の5項目だが、「居住地」は「都内」と記載されている場合もあるが、多くは記入がなく、「診断日」も無記載が多い。さらには、年代や性別すら書かれていない場合もある。

 どこで、どういう年齢層や性別の人が重症化し、亡くなっているかは、社会にとって大事な情報だと思うし、それだけで個人が特定されるものでもないだろう。しかし、日本では公衆衛生の危機という状況でも、「個人情報」や「プライバシー」が重視される。

やまない“感染者バッシング”

 ネット社会となってから、個人情報の断片であっても、それが近所の人の情報発信などと結びつけば、個人の特定につながり、誹謗中傷をされかねない。そんな関係者の警戒心を、行政も無視できない。

 そのうえウイルスへの恐怖や不安が、人々の神経を尖らせている。それが、感染した人やその家族への攻撃、排除という形になりかねない。実際に、そうした現象が起きている。

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