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江川紹子の「事件ウオッチ」第149回

新型コロナ対策「安全・安心」と「プライバシー保護」の適切なバランスは…江川紹子の考察

文=江川紹子/ジャーナリスト

 北海道新聞電子版が4月12日に掲載した、3月下旬に父親を亡くした女性への取材記事によれば、職業や居住自治体は公表されなかったのに、女性や夫の職場に情報は伝わった。職場から「風評被害が出ている」と言われ、女性は退職。女性も夫もPCR検査で陰性だったが、父の死を知らせた人から「怖いから、もうあなたには会えない」「おまえの家には、1年は行けない」などと言われた、という。

 感染の舞台になった店が店名を公表すると、やはり非難のメッセージが寄せられることがある。大阪のライブハウスは、「なぜこの時期にイベントをしたのか」「悪いと思っていないのか」などと責められた、という。

 感染するのは患者が悪いわけではなく、感染の場になってしまった店の責任でもない。それでなくても、家族を失った悲しみにあったり、休業によって経営に影響を受けたりしているのに、さらに非難や風評被害の追い打ちがあるのでは、できるだけ情報を隠しておいてほしいという気持ちにはなるだろう。

 こんなひどい事例もある。

 ヨーロッパ旅行から帰国した京都産業大学の学生3人の感染に端を発し、学生や外部の接触者など約70人規模のクラスターとなったケースでは、感染者と思われる学生をネット上で特定して暴き出そうとする動きがあった。

 さらに、大学やクラスターとは無関係の大学職員、学生たちにまで非難が向けられた。大学職員が子どもを保育園に登園させないように言われたり、学生がアルバイト先から出勤を断られたりもした。大学には、「感染した学生の住所を教えろ」という電話があり、「学生を殺しに行く」「大学に火をつける」などと脅迫する電話やメールが何件も届いている、とのことだ。

 これは、大学関係者に対する差別というばかりではなく、感染症対策においても極めて有害だ。せっかく、感染経路を把握して拡大を封じ込めるために大学名を公表したのに、その大学や関係者が誹謗中傷を受ける様を見ていたら、感染者が出ても絶対に組織名を出したくない、と思うだろう。さらには、感染の事実をできるだけ隠そうとするかもしれない。

 そんなことになったら、把握できないところで感染が広がり、本当に手がつけられなくなってしまう恐れがある。

 日本で感染の舞台となった店の名前の公表が進まないのは、誹謗中傷などを受けるリスクに加え、公表後に客が離れ、損失が出た時に、補償をどうするか、という問題が行政に二の足をふませることもあるだろう。

 これについては吉村洋文・大阪府知事が、店名を公表した場合には一定の補償をする、という案を出している。公表同意へのインセンティブになると思われるが、簡単ではない。他の店も経営が苦しくなったり、自粛したりしているなか、店名公表による損失額がいくらになるか算出するのは難しいうえ、他の店との公平性の確保も容易ではない。

“監視社会”韓国の感染対策

 そんなこんなで、情報の公開に慎重過ぎる日本とは対照的なのが、韓国だ。韓国では、感染者の詳細な行動を当局が把握し、プライバシー情報まで公表している。

 具体的には、16歳以上の国民すべてが持つ住民登録証に、渡航歴や健康保険、クレジットカードの情報がひも付けられ、管理されているため、当局は人々の買い物や受診、通信、移動などの情報を瞬時に把握できる。加えて、津々浦々に防犯カメラを設置する監視社会が、すでにできあがっている。その密度は、都市部では中国以上ともいわれる。

 一方で徹底的な検査を実施。陽性となった者は携帯電話の全地球測位システム位置情報(GPS)機能も駆使して行動を調べる、とのことだ。

 そうして得られた情報は、積極的に公開する。実年齢、性別、居住地域のほか、行動についても詳細も明らかにする。

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