同僚がコロナ感染でも「休むな」…“3密”社内でおびえながら残業する派遣社員の悲劇

写真:日刊現代/アフロ

 安倍晋三首相が緊急事態宣言を発令した4月7日の記者会見において、次のような発言があった。

「日本経済を支える屋台骨は中小・小規模事業者のみなさんです。本当に苦しい中でも、今、歯を食いしばってがんばっておられるみなさんこそ、日本の底力です」

 中小企業庁によると、大企業に勤務する労働者はわずか0.3%にすぎない。99%を占める中小・小規模事業者の労働者がいるからこそ、日本の産業は成り立っている。

 緊急事態宣言が出されてから1週間。各企業はどのように対応したか、3名の女性労働者に話を聞いた。

給料全額補償で1カ月の休店を決めたヨガ教室

「給料は全額補償しますので、みなさん、申し訳ないですがGW明けまで休んでください」

 埼玉県の女性専用ヨガ教室の従業員グループLINEに、40代の女性社長が以上の文言を流した。この店は、6人のパート(女性従業員)が早番・中番・遅番の3交代制で勤務している。3月下旬の3連休前までは持ちこたえていたが、その後、今まではなかった当日連絡(休みの要請)を頻繁に出すようになった。

「ギリギリまで待ちましたが、予約は来ませんでした。すいませんが、今日は休んでください」

 2週間ほどこうしたやり取りが続き、ついには女性社長が1人で店番をするようになる。万が一、飛び込み客が来たときに備えるためだが、2週間で来店は数名。そして、4月7日に緊急事態宣言が出されたことを受けて休店を決めた。

「お客さんが来ない状況だけに仕方ありません。うちは時給900円で1日6人を雇っています。人件費? 月に50万円です。これまでの蓄えもあるので、1カ月だけ様子を見ることにしました。2カ月目になったら? 今はまだわかりません。人件費に関しては、この先政府が発表する雇用調整助成金、あるいは日本政策金融公庫の融資や各種セーフティネットを利用するつもりです。従業員はいい人ばかりなので、クビになどできません」(女性社長)

テレワークの波がクリーニング店を直撃

 2人目は、パートを掛け持ちしている30代の女性。週2日勤務している「クリーニング店の受付」の状況について聞いた。

「通常、4月は新入生や新入社員が増えるので土日の特別セールは2日で80万円ほどの売れ行きで、2人掛かりでもてんてこ舞いです。今年はコロナ騒動でテレワークが進んだためか、ワイシャツとスーツの数がすごく減り、先日のセールでは通常の半分しかありませんでした。そのため、予定より2時間ほど早上がりしました。みなさん、家でワイシャツを洗っているみたいです」

 このクリーニング店は休業する予定はないので通常通り出勤をしているが、もうひとつの「メインの仕事」は休んでいるという。

「週4日ほど、ネット通販の商品をアップする仕事をしています。感染者が出たわけではないのですが、高齢の母や小学生の息子と同居しているため、5月6日まで出勤をやめました。会社が『小学校休業等対応支援金』を厚生労働省に申請しているため、土日祝以外のシフトに合わせて1日8330円を受け取る予定です」

 小学校休業等対応支援金については、厚生労働省のホームページに詳しく記されている。小学生の子どもを抱える人は見ておきたい。

感染者が出ても休めない派遣社員の悲劇

「同じ部署にコロナ感染者が出た直後、『休むな』とだけ言われました。仕事量が多いので仕方ないですが……」

 最後は、東京都内のITアウトソーシング会社に勤める40代の女性派遣社員。業務内容はオフィスでのデータ入力だ。

「『人の命を軽く見るな』とツイッターで炎上しましたが、会社の内情はひどいです。部署ごとの担当マネージャーの教育が、まるでできていないんです。社内で感染者が出たのにフロアのレイアウトを変えません。私なら『感染者が出たのでオフィスのレイアウトを変更します』と、机を3mくらい離して衛生管理を徹底しますが、隣の机との距離は1mのままです。マスク必須という割に『自分で用意して』ですし、窓が開かない部屋でパソコンをいじらされています。『(感染した場合に死亡率が高い)高齢者と同居している人』など、家族構成を聞いたりもしません」

 都内の各病院は「コロナ病床」がほぼ満床であり、医療崩壊も危惧されている。ツイッターでは、勤務するドクターからの「人と会わず、外出を控えてほしい」という警告も目にする。彼女の感覚も当然だ。

 同社では地方の拠点でも感染者が出たが、会社の対応は「あなたは休むって言うけど、いつまで?」と上から目線だという。セキュリティ面からテレワークにも移行できず、ほとんどの派遣社員がおびえながら仕事をしている。休業補償に関する話も一切ないどころか、感染が怖くて休んだ社員のしわ寄せで残業をしているそうだ。

「ブラックもいいところです」とため息をつきながら、彼女は会社に向かっていた。

 当然だが、業種や業務形態により様相はさまざま。こんなときに見えてくるのが「雇用主」の姿である。

(文=井山良介/経済ライター)

井山良介/経済ライター

1976年生まれ。経済をメインとするフリーライター。野球に関する書籍の編集もしており、プロ野球や高校野球に関する執筆も多い。

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