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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

ミス連発&仕事が粗い超ポジティブ人間、いつも不安げで仕事ができる成功者

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士
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 そこで、私は、何かにつけて「ポジティブであれ」とする風潮を「ポジティブ信仰」と名づけ、警鐘を鳴らしている。

不安の強い部下のほうが頼りになる

 一般に、不安が強いというと、悪いことのように受け止められがちである。だが、もともと不安というのは危険を回避するための心のシグナルのような役割をもっている。動物の世界をみても、不安があるからこそ天敵などの危険から身を守ることができるのである。不安がなく、呑気にしていたら、すぐに天敵にやられてしまう。

 そのような不安の効用は、ビジネスの世界にもあてはまる。ある管理職は、不安のない部下に対して、はじめのうちは頼もしく思っていたが、何度も痛い目にあって、疑問を抱くようになったという。

「非常にポジティブで、頼もしく思ってたんですよ。でも、実際に仕事ぶりをよく見ていると、すごくいい加減なんですよ。本人は適当にやっているつもりはないようなんですけど、荒いんですよ。きめ細かさがなくて、いつも詰めが甘いんです。そこを注意して改善を促してるんですけど、なかなか変わってくれなくて……。ポジティブな人っていうのはけっこう厄介だなあと痛感しています」

 別の管理職は、仕事をきちんとこなし、頼りになる部下がいるのだが、どんなに成果を出しても不安が強くて、もっと自信を持ってもいいのにと思うのに、なかなか不安を払拭できないみたいで、なんであんなに不安なのか不思議で仕方ないという。

「当初は、不安げな雰囲気を見て、なんか頼りないなあって思ったんですけど、意外なことに仕事がよくできるんですよ。たいてい完成度の高い仕事をしてくれる。それなのに不安げな様子は一向に変わらないし、何かにつけて相談に来るんですよ。あれは性格なんですかね」

 このような事例はけっして珍しいことではない。だれもが思い当たる人物を思い浮かべることができるのではないか。

 ここから考えられるのは、不安の強さがモチベーションの高さや仕事の着実さにつながっているのではないか、ということだ。

 じつは、そのことは、心理学の研究によって実証されているのである。

ポジティブになれないからこそ、うまくいく

 不安がない部下に、仕事が粗くて、いくら注意してもこっちの言葉が染み込まないタイプがいて、手を焼くことが多い。逆に、不安が強い部下に、仕事がていねいで、着実に進めていくタイプがいて、非常に頼りになる。そうした印象をもつ管理職が結構いる。

 そうした印象には、心理学的な裏づけがあることがわかっている。このような心理をうまく説明してくれるのが、防衛的悲観主義という考え方である。

 防衛的悲観主義というのは、これまで実績があるにもかかわらず、この先のパフォーマンスに対してはネガティブな期待をもつ心理傾向のことである。このような心理傾向をもつ人は、仕事をきちんとこなしたり、ノルマを達成するなどして、周囲から肯定的な評価を得ているのに、常に「今度はうまくいかないかもしれない」「失敗したらどうしよう」といった不安に苛まれている。

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11:30更新
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