ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 福井大学、就職率が国立トップの理由
NEW
木村誠「20年代、大学新時代」

福井大学、就職率が国立トップの理由…NHKでドラマ化された「キャリア支援課」の秘密

文=木村誠/教育ジャーナリスト
福井大学、就職率が国立トップの理由…NHKでドラマ化された「キャリア支援課」の秘密の画像1
福井大学の正門(「Wikipedia」より)

 2月26日にNHK BSプレミアムで放送されたドラマ『シューカツ屋』は福井大学のキャリア支援課がモデルになっており、ロケも同大学の文京キャンパスで行われた。

 私が2012年に取材執筆した『福井大学はなぜ就職に強いのか』(財界展望新社)の当時は就職支援室と呼ばれており、福井大は複数の学部を擁する国立大学では4年連続で就職率トップだった。19年度の実質就職率でも、卒業者数1000人以上の大学で全国5位、国立では1位である(大学通信19年度調査)。

 この実質就職率とは、官庁などの調査の就職率の算式が就職者/就職希望者なのに対し、就職者/卒業者(大学院など進学者を除く)で算出するものだ。大学間の就職率の比較では、就職希望者という調査時点で変化する曖昧な数字でなく、分母の実数が明確な実質就職率のほうが客観的だからである。

 実質就職率の上位は、金沢工業大学や愛知工業大学、大阪工業大学など、比較的大きな工業系私立大学が多い。地元企業の求人意欲が高いからであろう。また、工学系はどの大学でも大学院進学率が比較的高く、学部の就活で理想通りの就職ができなければ大学院に進学する学生も少なくない。すると、大学院進学者にカウントされ、分母が減り、実質就職率は上がる。

 福井大は、4年前までは医・工・教育地域の3学部で教育地域学部も教員養成主体で教員免許取得の課程があった。ところが、16年に、その教育地域学部のゼロ免課程(教員免許取得を主な目的としない課程)をメインに受け継ぐ形で国際地域学部を新設した。20年に初めて輩出される卒業生は、まだ確定した数字ではないが、ほぼ100%の実質就職率だという。医学部も国家試験の合格率が100%となり、絶好調のようだ。文理にわたる複数学部を擁する大学としては、20年度も全国トップクラスになりそうだ。

最後まで面倒を見る「シューカツ屋」の強み

 就職が好調な背景には、テレビドラマで紹介された共感力のある担当者の活躍があった。在学中はキャリア支援課になかなか顔を見せず、卒業前の土壇場になって駆け込んでくる学生は今でも多い。7年前にも、当時の青山傳治就職支援室長は苦笑しながら本人の希望を聞き、彼にフィットする企業はないか、リサーチしていた。

 ほとんどの企業は、すでに次年度卒業の求人活動に入っている。同大学では企業説明会を頻繁に開き、青山さんは採用企業へのあいさつめぐりをしており、その企業がどのような人材をほしがっているか、よく知っている。そこで、候補と思われる企業の社長や採用担当者に連絡すると、ときには「すぐに面接をするから、明日連れてきてくれ」と言われる。ところが、そのような学生のほとんどは、今までまともに面接対策に取り組んでいない。

 翌日、青山さんはリクリートスーツの彼を車に乗せて、面接のポイントを車中で模擬面接しながら、採用会場に向かう。1時間弱の短時間であるが、密度の高い特訓となり、けっこうよい結果を生むことが多い。このような経験は毎年のようにあるという。

 また、在学中は就職予定でなく就活しなかった女子学生が、卒業して間もなく家庭の事情で就職する必要に迫られ、就職支援室に飛び込んできたこともある。当時係長であった北林美津子現課長は追加求人があった企業を検索し、本人の希望を聞いて、彼女にマッチしそうな住宅メーカーを見つけて紹介した。採用面接を受け、無事決定。その後、その学生は喜んであいさつに来た。

学生と就職先のマッチングを重視

 福井大では、そうしたシューカツ屋の活動を支える、さまざまな活動や取り組みがある。前述の拙著でも具体的に紹介しているが、さらに支援を充実させた、1枠1企業、1日最大4企業の個別企業説明会(同大学OBとの質疑もあり)、OB・OG傘下による業界企業研究会、自分の希望の条件で検索できる求人表閲覧システムや学生の携帯への求人情報やガイダンスなどの発信、就職委員会やキャリア支援課からのガイダンスや企業説明会などの情報、一般求人情報などを配信する「福井大学キャリアサポートシステム」などがある。

 ほかにも、3~4年生の就活中の学生に役立つ「キャリア支援課ブログ」も発信している。さらに、企業訪問バスツアー、そして就職後のアンケート調査(企業とOB)などを展開してきた。今も先進的な取り組みが多く、常に改善している。

 最大のポイントは、学生と就職先のマッチングを重視したことだ。当時から就職サイトを活用する就活学生が多かったが、キャリア支援課では、家庭の事情まで読み込んだ親切な個人指導が企業とのマッチングの精度を高める。

 地方国立大学ならではのOBの協力が、マッチングを血の通ったものにする。たとえば、1日数社の個別企業説明会でも、採用担当者だけでなく、なるべく同大学OBにも出席してもらい、参加した後輩からの質問に答える。私もその場に同席したが、地方国立大生らしく、先輩も後輩の悩みや疑問に誠実に答えようとしている。その問答をフリーな雰囲気にするため、採用担当者がその場から席を外すこともある。

 このような校風にふさわしい場の設定でマッチングが生きる。福井大の就職支援の強みは、デジタルと人情をミックスした手づくりの良さにあるのだ。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

福井大学、就職率が国立トップの理由…NHKでドラマ化された「キャリア支援課」の秘密のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!