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日本経済の祖・日本製鉄、4千億円の赤字に転落…聖域“製鉄所の統廃合”を断行へ

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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 中国勢を中心に低価格競争がし烈化する中で日本の鉄鋼メーカーが生き残りを目指すには、収益性の低下した事業の操業を縮小・停止することは避けて通れない。この考えから、日本製鉄は製鉄所の閉鎖という苦渋の決断に踏み切らざるを得なくなったのだろう。さらに、世界経済は新型コロナウイルスによる肺炎感染の拡大にも直面している。市場参加者の間では、それが世界の鉄鋼業界にさらなる混乱をもたらすとの懸念が増えている。

深刻化する中国鉄鋼メーカーの過剰生産能力

 新型肺炎の発生は、中国を中心に鉄鋼業界の過剰生産能力をさらに深刻化させる恐れがある。1月、中国の鉄鋼メーカーは春節の連休を控えて粗鋼生産量を増やした。また、1月には、米中が通商問題に関する第1弾合意に至った。これは、中国経済にとって重要だったはずだ。米中が休戦協定を結び、経済対策の強化とともに、中国の景気に徐々に下げ止まりの兆しが出るのではないかと淡い期待を抱く市場参加者は少なくなかった。

 問題は、湖北省武漢市を中心に新型肺炎の感染が世界各国で広がったことだ。人の移動が大きく制限され、中国を中心に世界に張り巡らされたサプライチェーンの寸断が深刻化した。米中が第1弾合意に至った直後に新型肺炎が発生した影響はあまりに大きい。

 春節の休暇後も、中国では2億人程度の出稼ぎ労働者が生産や建設の現場に戻ることができていないとみられる。建設工事などが進まず、物流も混乱しているため、鉄鋼の在庫が急速に積みあがっている。さらに、個人消費への影響も深刻だ。2月、中国での新車販売台数は前年同月から8割程度落ち込んだ。供給と需要の両面で、中国の鉄鋼市場は急速に冷え込みつつある。このような新型肺炎発生の影響を考えると、自社の生産能力が大きすぎるという日本製鉄経営陣の危機感は一段と高まっていることだろう。

 中国では過剰な鉄鋼生産能力の問題がこれまでに増して深刻化する可能性もある。すでに、世界第2位の鉄鋼メーカーである宝武鋼鉄と中国の鉄鋼第6位の首鋼集団の経営統合が共産党政権によって承認された。

 中国政府は新規の鉄鋼生産の増加を抑えようとしてはいる。ただ、既存の過剰な生産能力の解消に踏み込むことは難しいだろう。ゾンビと化しつつある鉄鋼メーカーの整理などを進めれば失業が増加する。それは、中国の社会心理を悪化させかねない。今後も、中国では大手国有鉄鋼メーカーを中心に経営統合が進むと同時に過剰生産能力が温存され、低価格競争に拍車がかかる可能性がある。

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