NEW

日本経済の祖・日本製鉄、4千億円の赤字に転落…聖域“製鉄所の統廃合”を断行へ

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
【この記事のキーワード】, ,

一段と先行きの不透明感高まる鉄鋼業界

 日本製鉄は、世界で進む高炉から電炉へのシフトにも対応しなければならない。二酸化炭素(CO2)排出抑制の観点からも、米国や中国では電炉の利用が増えている。一方、日本の鉄鋼生産の7割は高炉を用いている。高炉は15~20年といった長い期間にわたって稼働し続けることを前提に運営され、一度火を止めると再稼働にはかなりの時間がかかる。

 3月に入り、日本製鉄は政策保有株式など資産の売却を進め、守りを固めようとしている。それは、環境の急速かつ大きな変化に対応するためには重要なことだ。海外での生産拠点の集約や合理化などが進む展開も想定される。同社経営陣の先行きに関する危機感は日増しに高まっているとみられ、さらなる改革の可能性は排除できない。

 同時に、同社は今後の成長の柱となる事業も育成しなければならない。具体的には、環境負担の少ない生産技術の確立や、EV(電気自動車)などに用いられるより軽量かつ耐久性がより高い鋼板の製造、さらには国内の鉄鋼メーカーや電炉メーカーと連携し、効率性の高い鉄鋼生産システムの創出などに取り組む意義はあるだろう。そうした新しい鉄鋼生産のテクノロジーを生む出すことができれば、潜在的なインフラ投資需要が見込まれるアジア地域をはじめ、新興国での需要獲得への期待は高まるだろう。日本製鉄が供給量で中国勢などと競争することは難しい。同社がより効率的に高付加価値の生産を創出する体制を確立することは、成長を支える要素の一つとなるだろう。

 今後、日本製鉄は組織を落ち着かせつつ、さまざまな改革に取り組まなければならない。鉄鋼産業は各地域の雇用、中小企業などとの取引だけでなくスポーツ活動を通して地域社会に深く根差してきた。それだけに、呉製鉄所の閉鎖に不安を覚える利害関係者は多い。

 口で言うほど容易なことではないが、日本製鉄の経営陣が、中長期だけではなく短期的な事業安定のための方策をまとめ、組織全体が進むべき方向を明確に示すことの重要性は高まっている。そうした取り組みが、改革と成長を目指して組織の一体感を維持・向上させることにつながるはずだ。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

情報提供はこちら

RANKING

5:30更新
  • 企業・業界
  • ビジネス
  • 総合