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「東京差別」の次に来るもの
今や東京はすっかり“汚染都市”扱いである。特に国の「緊急事態宣言」が出た4月7日前後からは、東京とそこに暮らす人たちに対する差別感や蔑視のまなざしが日本中に充満している。3月末から4月上旬にかけ、東京から帰省した人が新型コロナウイルスに感染しており、帰省先で家族に感染を広げてしまう事例が静岡県や佐賀県、秋田県、富山県などで続発。そのため、この時期に帰省するのは「迷惑」だとの風潮が生まれ、新型コロナウイルスへの感染を恐れた「東京脱出」や「コロナ疎開」は、人の迷惑を顧みない不心得者の所業と見做されている。その結果、たとえどんな火急の用事で帰省するのだとしても、周囲には内緒にして、実家にこもって過ごさざるを得ないのだという。
東京からのUターンを拒む理由として、医療体制が盤石でない地方では、少し感染が広がっただけで簡単に医療崩壊につながる恐れがあるうえに、地方ではすさまじい勢いで高齢化が進んでいるという事情がある。
それを踏まえたうえで思うのだが、今の非常事態は「コロナ疎開阻止」で凌ぐのだとしても、緊急事態宣言が出た7都府県以外の地方自治体は、いったいそれをいつまで続けるつもりなのか。緊急事態宣言が解除された以降のことも見据え、近視眼的な癇癪やヒステリーに振り回されるのではなく、どう対処するのかを冷静に考えていく必要はないのか。
仕事や学業のために上京し、首都圏で暮らしている人たちは、今回の新型コロナウイルス禍で自分の故郷から受けた仕打ちを決して忘れはしないだろう。その故郷は、緊急事態宣言が解除された途端に手のひらを返すように「コロナ疎開阻止」「東京脱出阻止」の看板を下ろし、節操なく「来県大歓迎」の看板にかけ替えるのかもしれない。ただ、その思惑どおりに観光需要が戻るとは限らないうえに、解除されたことをきっかけに感染拡大が再発することも考えられる。
「東京差別」の次に来るものは、冷たい仕打ちを受けた人たちからの仕返しであるような気がしてならない。
(文=明石昇二郎/ルポライター)