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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

晴海「HARUMI FRUG」が大騒ぎ…子供の学校入学問題や住宅ローン金利上昇懸念

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
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HARUMI FRUGのサイトより

 昨年12月以降、中国武漢市で猛威を振るった新型コロナウイルスを原因とした急性肺炎患者の激増は、その後、日本をはじめとした東アジアからヨーロッパ、アメリカなど全世界に猛烈な勢いで拡大。歯止めがかからない状況に陥っている。

 これまで不動産業界では、2013年以来アベノミクスの恩恵を堪能してきた。湯水のごとく供給されてきたマネーはその多くが東京五輪開催需要も相まって不動産に流れ込み、地価は上昇基調へ。東京都心をはじめ、国内主要都市での再開発が続々始動。景気回復に伴ってオフィスビルマーケットは好調を極めた。インバウンド需要の急伸を背景としたホテルビジネスも活況を呈した。住宅はマーケットのボリュームこそ小さくなったものの、共働き世帯の台頭で都心の高層マンションが驚くほどの高値で完売。大型商業施設や最新鋭の物流倉庫の展開など、業界はわが世の春を謳歌してきた。

 そしてなんとなく業界の共通認識となったのが、

「まあ、いろいろ不確定要因やリスクはあるものの東京五輪まではなんとかこの景気は持つだろう」

という不確かな確信だったのだ。ところが五輪開催を目前に控えた2020年年明け。前年末に鎌首をもたげた新型コロナウイルスは大ブームの巨大クルーズ船に乗って横浜港に上陸。以降、島国である日本にも「海」と「空」から続々ウイルスが日本に押しよせてきた。最初は中国、武漢で生じた風土病とタカを括っていた国も、その感染力の強さと致死率の意外な高さ、そしてほとんどの人は症状すら出ないという目に見えない、体で感じられない病といううさん臭さと恐怖に怯え始めた。

 五輪後になんとなく現実になるかもしれないと思われた景気後退が、予想だにしないウイルスという疫病が号砲となって五輪開催前に起こり始めたのは不動産業界にとってもまさに「想定外」の事態を迎えたのである。

 思えば1995年がそんな年だった。それまでバブルを謳歌してきた日本経済は92年頃から不動産価格を下げるために始めた融資規制や地価税などの懲罰税制、金利の引き上げで不穏な空気が流れているところに阪神淡路大震災が勃発。この未曽有の災害が号砲となって地下鉄サリン事件が発生。日本社会の浮かれたムードは一変する。地価は大暴落を続ける中で景気は悪化。97年には金融恐慌とも呼ばれた北海道拓殖銀行、山一證券の倒産といった激動の時代を迎えることになる。

 あれから25年。時代の節目となる東京五輪が思わぬかたちで延期となった。中止にならなかったのが不幸中の幸いとみる向きもあるが、来年7月の開催とて確約されたわけではない。むしろ今回の惨禍で世界を含めた人々のポジティブなマインドは一気に萎み、世界大恐慌の兆候すら垣間見えるようになっている。

 さてこうした不安要素が次々に現れるなか、これからの不動産マーケットはどうなっていくのだろうか。カテゴリー別にみていこう。

1.住宅マーケットは下り坂へ

 HARUMI FRUGが大騒ぎだ。東京都中央区晴海に建設された五輪選手村跡地に誕生する予定の総戸数5632戸(賃貸住戸1487戸、分譲住宅4145戸)のマンション。すでに約900戸の住戸が分譲済みだが、入居開始予定が23年3月。このマンションは五輪終了後に選手村宿舎を大規模リニューアルして引き渡す予定なので、開催が遅れれば入居開始も遅れるのではないかという懸念が指摘されている。

 購入者の多くが実需ベースと思われることから、子供の学校の進入学や住宅ローンの金利上昇リスクなど購入者側にも「想定外」の事態が発生する。この処理をどうするかだけでなく、こうした不確定要因の顕在化は今後の販売計画にも甚大な影響をもたらす可能性が出てきた。

 オリンピックというブランドも、開催をめぐってこれだけゴタゴタが続いてだいぶ傷ついている。当初は割安に映った価格にも不透明感が漂いそうだ。

 実は住宅マーケットはすでに下降期に入ったというのが業界の共通認識であったが、おそらく今回のコロナ禍はこのトレンドに追い打ちをかけるものとなりそうだ。

2.オフィスビルマーケットの崩壊

 オフィスビルマーケットは五輪が開催される東京都区部のみならず、名古屋、大阪を加えた三大都市圏から地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)のマーケットも絶好調である。だが、今回のコロナ禍は全世界で人々の動きが止まり、経済活動そのものが停止状態に陥っている。この状況は今後約半年くらいの期間でさまざまなデータで顕在化してくるものと予想される。オフィスビルマーケットは実体経済の好不調に約半年遅れて影響を受けるといわれる。今後多くの企業で売上、利益の大幅な減少が発表されるようになると、固定費の削減としてオフィスの解約や賃料減額要求がでてくるであろう。その結果、今年後半くらいから低下を続けていた空室率が反転、上昇基調を強めていた賃料が一転下落に向かうだろう。

 コロナ禍を一過性のモノとみる見方もできようが、実は今回のコロナ禍はオフィスワーカーに対して在宅勤務、テレワークを五輪時に先駆けて実施することになった。働き方改革は何も朝9時から夕方5時まで働いて残業しないというのがテーマではない。これからの時代はオフィスワーカーの多くが職能によって好きな企業と契約し、オフィスに通うのではなく自宅やコワーキング施設で好きな時間、好きな場所で好きな仕事に取り組むようになる。今回のコロナ禍は図らずも多くの業態でテレワークの可能性を広げることになるだろう。

 その先にあるのが、都心部に大量のオフィス床を用意してオフィスワーカーに「通勤」させる働き方が萎み、企業の一部ヘッドクォーターのみが都心に残るだけで、これまでのように大量の床を必要としなくなる就業形態になることを意味する。

 つまりこれからのオフィスマーケットは混乱期を迎え、テナントの奪い合いの時代になるものと予測される。またこのような働き方の変革は通勤を前提とした住宅選びから、住む街と働く街が一体化することで、住宅選びにも大きな影響をもたらすことになるであろう。

3.オペレーショナルアセットのリセット(ホテル、商業施設)

 今回のコロナ禍で最も深刻な影響を被ったのがホテルや商業施設といったオペレーショナルアセットである。インバウンド客の消滅は、好景気を背景に割高な建築費をハイレバレッジな資金計画で無理やり建設しインバウンド客で持たせてきたホテルや簡易宿所、民泊などの業者の一部退場をうながすことになりそうだ。また商業施設でも同様にインバウンド目当てに高額商品を取り扱ってきた百貨店など、一部の大型商業施設を苦境に追い込むことになるだろう。

 だが大きな流れとして世界中の人々が行き交うインバウンド需要は、今回大きな打撃を被ったものの今後の需要の伸長は変わらないと考える。むしろ今回の騒動で一部「無理筋」で進出してきた有象無象が退場し、業界として再出発するには良い機会になったともいえるかもしれない。ただし平時に戻るまでには多少時間がかかりそうだ。2年から3年かけて戻していくことになるだろう。

 これまで制圧できなかった疫病は存在しない。人類の英知を結集すればやがてコロナ禍も克服されることになるだろう。だが、世の中の「雰囲気」といったものはこうした大規模な災害や不幸で一瞬にして変わるものだということはよく頭に入れておいたほうがよい。なんとなく大丈夫だろう、という不確かな確信はやがて取り返しもつかない事態に陥ったとき、うろたえるだけでは成功は覚束ない。

 むしろ不動産は下降局面に入ったところが勝負のしどころであることは、不動産投資家の間での常套句である。慎重にリスクを嗅ぎ分けて勝負する。これからこそが知恵の勝負となる。これからの不動産マーケットの動向に目が離せない。

(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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