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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

国際比較で判明…日本政府のコロナ対策が“あまりにも遅すぎ”、国全体のマネジメントに支障

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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参院決算委員会、マスクをしない麻生太郎財務相(写真:日刊現代/アフロ)

日本は9位にふさわしい国か?

 香港にあるベンチャーキャピタル(VC)のデイープ・ナレッジ・ベンチャーズ(DKV)が、新型コロナウイルス(以下、コロナ)に対する各種の国別ランキングを発表している(4月12日付日本経済新聞より)。

 記事によれば、DKVは2014年に人工知能(AI)を取締役に指名して話題となり、AIを用いて医療金融などの世界潮流を分析している一風変わった企業であるという。そのDKVのHPを見ると、コロナに対して安全な国(Safety Countries)のトップ10は表1のようになっている。1位がイスラエル、2位がドイツ、3位が韓国で、日本が9位にランクインしている(4月16日時点)。

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 イスラエルが首位になっている理由として、同国最大級のシュバ病院のアーノン・アフェク副院長は、「(中東情勢が不安定化する中で)イスラエルでは不測の事態に備えて平時から訓練しているため、病院や軍、警察などがどう対処すべきか熟知している」ことを理由に挙げている(前掲記事)。

 2位のドイツはコロナ感染者数が12万7584人もいるが、死亡者を3254人に抑えることができている。韓国や中国はすでにコロナ感染者数の抑え込みに成功しており、台湾とシンガポールのコロナ死亡者は10人以下であり、コロナを制御できている。

 そのようななかで、日本が9位にランクインしている。これをどう解釈すればいいのだろうか? 9位というのは、本当にコロナ対策の日本の実力を示したランクなのだろうか?

 一方、コロナのリスクの高い国(Risk Countries)のトップ10は表2の通りであり、1位がイタリア、2位が米国、3位が英国、4位がスペイン、5位がフランスなどとなっている。これら欧米諸国は、コロナによる死亡者数が多いこともあり、皮膚感覚としても、まあまあ納得できる。

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最も支援が手厚い国ランキングで日本が3位

 さらに、DKVのHPによれば、コロナ対策に関して最も支援が手厚い政府(Most Supportive Government)として、1位にドイツ、2位に米国、そして3位に日本がランクインしている。これには、相当な違和感を覚える(表3)。

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 まず日本は、諸外国と比べるとPCR検査数が異常なほど少ない。また、緊急事態宣言を出すのが遅すぎた。さらに緊急事態宣言による休業要請の対象をめぐって、政府と地方自治体が揉めた。加えて、売上や所得が減少した中小企業に200万円、個人事業主に100万円を支給すると言っているが、どれもこれもハードルが高く、手続きが煩雑で、本当に困っている人々に届くのかわからない。4月16日には、与党の公明党が安倍首相に直接、「所得制限無しで1人10万円現金給付」を迫り、これが通ったが、いつ払われるかわからない。

 このように、日本政府が迷走していることを挙げだしたらキリがない。したがって、何をどう勘案したら、最も支援が手厚い国の第3位に日本がランクされるのか、DKVのAIの正気(アルゴリズムか?)を疑いたくなる。

 以上のように、DKVのAIがはじき出したランキングをそのまま鵜呑みにすることはできないが、同社のHPには、コロナに対して安全な国1位のイスラエル、2位のドイツ、そして9位の日本について、どのような項目を評価したかが掲載されている。この3カ国の比較は、大いに意味があると思われる。そこで本稿では、その詳細を報じたい。

3カ国の比較

 DKVは、検疫効率(Quarantine Efficiency)、モニタリングと検査(Monitoring and Detection)、緊急治療の準備(Emergency Treatment Readiness)、政府のマネジメント効率(Government Management Efficiency)の4つの項目(大分類と呼ぶ)について、それぞれ6個の評価基準(小分類と呼ぶ)を設けてスコアを付けている。そのスコアを合計して、コロナに対してその国が安全か、リスクが高いか、を判断している。

 合計のスコアでは、安全な国1位のイスラエルが632.32点、2位のドイツが631.07点、9位の日本が623.19点となっている。1位と2位の差はわずか1.25点しかなく、1位と3位の差も9.13点しかない。これが有意な差なのかどうか、筆者には判断できない。

 では、大分類のスコアの3カ国比較を見てみよう(図1)。検疫効率では、イスラエルがドイツや日本より、ややスコアが高い。モニタリングと検査については、3カ国にあまり差がない。緊急治療の準備では、イスラエルがドイツや日本より25ポイント以上低い。

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 そして、政府のマネジメント効率については、イスラエルが205.4点、ドイツが189.6点、日本が179.3点と、3カ国に大きな差がついている。ここに筆者は、注目する。

 この4種類の大分類は、まったく異質な評価項目である。したがって、それぞれにスコアを付けて、その国の合計点を算出しても、あまり意味がないと思う。つまり、このようなスコアの合計を基にした安全な国ランキングやリスクが高い国ランキングは、あまり当てにならない。しかし、大分類の評価項目の比較には意味がある。イスラエルはドイツや日本より緊急治療レベルが低く、政府のマネジメントでは逆にイスラエルが優れており、日本は劣っていることがわかるからだ。

 以下では、大分類ごとに、小分類6項目の3カ国比較を見てみよう。それによって、日本の長所と短所が明らかになるだろう。

検疫効率(Quarantine Efficiency)

 検疫効率における6項目の評価の3カ国比較を図2に示す。一際目立つのが、イスラエルの渡航制限が厳しいこと、および同国の検疫で隔離された市民への経済的支援が低いことである。検疫の規模のスコアも、やや高い。このあたりに紛争で培われたイスラエル政府の性格が窺える。

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 それに比べると、日本もドイツも、特徴的なものが見当たらない。したがって、検疫効率の点から言えば、日本もドイツも、イスラエルの渡航制限の厳格さを見習え、ということになるだろう。

モニタリングと検査(Monitoring and Detection)

 モニタリングと検査における6項目の評価の3カ国比較を図3に示す。ここでも有事の備えがあるイスラエル政府の特徴が垣間見える。モニタリングのための政府の監視技術のスコアが最も高いからだ。

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 一方、ドイツは、住民全体の検査と院内検査の比較のスコアがやや高いが、これがいったい何を意味しているのかは筆者にはわからない。

 日本は、診断方法の範囲や診断と予後のためのAIのスコアが他国より1~2点高いが、この程度の点差に意味があるかどうかは不明だ(誤差ではないか?)。

緊急治療の準備(Emergency Treatment Readiness)

 緊急治療の準備における6項目の評価の3カ国比較を図4に示す。一目瞭然なのは、6項目すべてにおいて、イスラエルのスコアが低いことである。要するに、イスラエルの緊急治療体制は、日本やドイツに比べて脆弱であるということだ。

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 では、日本とドイツを比較するとどうなるだろう? 日本が優位にあるのは、医療スタッフの数と先進的ヘルスケアのレベルの2項目である。一方、人工呼吸器の備蓄量、病院用ベッドの数量、迅速な機器製造のためのインフラ、新たなヘルスケアリソースの動員の4項目では、ドイツに分がある。感染者が多いにもかかわらず、近隣のイタリアやスペインに比べてドイツの死亡者が少ない理由が、このあたりにありそうだ。

 ドイツの連邦議会は2013年1月に、もし新たな感染症が発生した場合、「感染スピードを鈍らせるには学校閉鎖や大規模集会の禁止しかない。電気やガスは供給できるが、航空・鉄道は滞り、医療はパンク。消毒液やマスクの調達も難しくなる。感染終息には3年かかるだろう」と警鐘を鳴らし、政府の行動指針をA4×30枚ページにまとめていたという(4月15日付日経新聞より)。

 今回のコロナにおいても、メルケル首相が「国民の60~70%が感染する恐れがある」と語り、不都合なことでも事実は率直に伝え、危機回避を行おうとしている。日本政府がぜひとも学ばなければならないことのように思う。

 そして、現実に日本政府の動きが鈍いために、小池百合子・東京都知事や吉村洋文・大阪府知事らのほうが、俊敏に危機対応を行っている。

政府のマネジメント効率(Government Management Efficiency)

 政府のマネジメント効率における6項目の評価の3カ国比較を図5に示す。GovTech開発のレベルを除く5項目すべてで、イスラエルが高いスコアとなっている。ここで、GovTechとは、「ガバメント(政府)」と「テクノロジー(技術)」を組み合わせた造語であり、テクノロジーを活用して行政サービスを改善することや技術力のあるスタートアップ企業が(行政が本来担うと見られていた分野で)新たなサービスを生み出すことなどを指す。

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 前掲4月12日付日経新聞の記事によれば、「人口900万人のイスラエルは『スタートアップ企業の国』としても注目されている。米調査会社CBインサイツによると、企業価値の評価が10億ドル(約1100億円)を上回るユニコーン企業の最近のリストにイスラエル企業7社が名を連ねる』とある。にもかかわらず、GovTech開発のレベルがドイツや日本より低いというのは解せない。

 それは横に置いておくとして、問題は日本である。図1で示したように、政府のマネジメント効率全体で、日本は3カ国中、最もスコアが低かった。小分類の6項目を見てみると、GovTech開発のレベルでイスラエルよりわずかにスコアが高いが、ドイツより低い。そして、監視システムと災害管理、セキュリティのレベルと防衛の進歩、迅速な緊急動員、独自のパラメータ#2の4項目で、最もスコアが低い。また、独自のパラメータ#1でわずかにドイツを上回るが、イスラエルに大きく差を付けられている。

 独自のパラメータ#1および#2が、具体的にどのような内容なのかわからない(ぜひ、DKVはその内容を公開してほしいと思う)。しかし、日本政府のマネジメント効率は、イスラエルに大きく劣っており、ドイツにも及ばない項目が多いというのが現実である。

日本政府の問題は“遅い”こと

 DKVによるコロナの安全な国ランキングは、当てにならない。しかし、4つの大分類と、それぞれの6項目の小分類の評価項目の3カ国比較から、日本の長所と短所が浮き彫りになる。

 日本の長所は、緊急治療の準備について、医療スタッフの数と先進的ヘルスケアのレベルが高いことにある。しかし、3カ国比較で日本が優位性を示しているのは、この2点だけである。

 一方、日本政府のマネジメント効率には大きな問題がある。さらに評価項目全体を通して、迅速性に欠陥があるといわざるを得ない。スコアの低い項目を列挙すると、検疫効率のなかの渡航制限、モニタリングと検査における政府の監視技術、緊急治療の準備における迅速な機器製造のためのインフラおよび新たなヘルスケアリソースの動員、そして政府マネジメント効率のなかの迅速な緊急動員などだ。

 要するに、政府が関与する施策が、とにかく“遅い”ということだ。常に、後手後手に回っている印象がある。それは、ここ2カ月ほど、毎日毎日、コロナ関係のニュースを見ていて、イライラするほどである(読者の皆さんも、そう思いませんか?)。

 日本政府関係者は、コロナに対して安全な国ランキング9位とか、コロナ対策に関して最も支援が手厚い政府ランキング3位などという数字だけ見て、うぬぼれないでいただきたい。その評価項目の詳細をみれば、自慢できることはほとんどない。イスラエルのように迅速に、ドイツの様に最悪を想定し、とにかく迅速に手を打っていただきたい。

 今、懸案の1人10万円の現金給付、さっさと決めて全国民に可及的速やかに配布してください。マスク2枚では、ほとんどの人が救われません。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

湯之上隆/微細加工研究所所長

湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。


・公式HPは 微細加工研究所

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