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片田珠美「精神科女医のたわごと」

有名人のコロナ感染報道、国民の「汚染恐怖・洗浄強迫」に拍車…釣銭手渡しの店員に暴行も

文=片田珠美/精神科医
有名人のコロナ感染報道、国民の「汚染恐怖・洗浄強迫」に拍車…釣銭手渡しの店員に暴行もの画像1
妻の東尾理子さんの公式ブログより

 福岡市のドラッグストアで、69歳で無職の長沼法良容疑者が、レジで釣り銭を手渡ししようとした女性店員に激高し、仲裁に入った男性店長の顔を殴ったとして、暴行容疑で現行犯逮捕された。

 長沼容疑者は「殴ったことは間違いありません」と容疑を認めており、「コロナがはやっているなか、釣り銭を手渡しで渡そうとしたからふざけているのかと思い、苦情を言った」などと話しているという。

 おそらく新型コロナウイルス感染への恐怖が強く、女性店員の手にウイルスが付着しているのではないかという不安にさいなまれ、過剰反応したのだろう。この手の恐怖と不安を抱えているのは、長沼容疑者に限らない。日本中に恐怖と不安が蔓延しており、「一億総不安社会」ともいえる様相を呈しているように見える。

「強迫性障害」の患者の症状が悪化

 このような恐怖と不安のせいでとくに症状が悪化しているのが、かつては「強迫神経症」と呼ばれていた「強迫性障害」の患者である。「強迫性障害」の症状は、絶えず心を占め、意識して除去しようとしても取り除けない「強迫観念」と、それに関連した不安を打ち消そうとして確認や洗浄を繰り返す「強迫行為」に分けられる。

 現在増えているのは、「強迫観念」としては新型コロナウイルスに触れてしまったのではないかという「汚染恐怖」、「強迫行為」としては手洗いを何度も繰り返す「洗浄強迫」である。

 感染を防ぐために手洗いが推奨されている現在、手を何度も洗って何が悪いのかという意見もあるかもしれない。だが、1回の手洗いに1時間以上も費やし、それを何度も繰り返していたら、日常生活に支障をきたしかねない。また、そのせいで手が赤くなったり、皮がむけたりするのも、深刻な問題だ。

 そのうえ、もともと電車の吊り革や階段の手すり、ドアノブやスイッチなど他人が触れたものを不潔と感じて、できるだけ触れないようにする「不潔恐怖」が強かった患者が多く、それに新型コロナウイルスの感染拡大が拍車をかけている。なかには、感染への「疾病恐怖」から外出できなくなり、診察を受けるために外出する必要があるときは消毒用アルコール スプレーを持ち歩いている患者もいる。

 もっとも、消毒用アルコールはなかなか手に入らない。そのせいか、診療所や病院の玄関に置いてある消毒用アルコールを大量に使用する患者がいる。なかには、ボトルの半分近くを使った患者もいて、職員から頼まれて注意したのだが、「これだけコロナがはやっているのだから、どこで感染するかわかりません。院内感染が起きている病院もあるのだから、消毒するのは当たり前でしょう」と言われて、返す言葉がなかった。

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