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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックコンサート、最大の魅力は“臨場感”だ!独特な緊張や恐怖が感動を生む!

文=篠崎靖男/指揮者

オーケストラ、コンサートでしか得られない特別な感動

 それは、同じく集団プレイであるオーケストラにもいえることなのです。オーケストラが、数日間にわたるリハーサルをしっかりと行い、十分に準備を終えて本番を迎えたとします。しかし、実際に本番でどういった演奏になるのか、指揮者の僕にもわからないのです。ラグビーの試合前と同じように、「結果」が出ていないのがライブコンサートの臨場感なのです。そして本番ともなると、すべての奏者が全身全霊を込めて演奏をするだけでなく、独特な緊張感が集中力を高めるので、リハーサルでは出なかった魔法がかったようなサウンドが連続したり、管楽器奏者が素晴らしいソロを演奏したりすると、オーケストラは集団心理が働くのか、本番ならではのとてつもなく素晴らしい演奏をすることがあります。

 ラグビーでも、今まで練習でもできなかったようなナイスプレーが出ると、チーム全体が盛り上がります。そのような時、解説者は「今、チームに流れが来ている」と言いますが、オーケストラも同じです。長年、同じオーケストラと演奏を重ねていても、「今晩のコンサートは特別だった」と、楽員と感動を分かち合うようなことがあるのです。聴衆にとっても同じでしょう。毎回聴きに通っている地元オーケストラのコンサートが、今まで聴いたことのない素敵なサウンドを出した時の新鮮な驚きは、ライブで得られる共感も加わって特別な感動に結びついていきます。

 しかし、人間が演奏するのですから、時には失敗をしてしまうこともあります。これもスポーツと同じく、一度起こしてしまった失敗はやり直しができず、観客や同僚の耳にしっかりと記憶されてしまいます。そんな緊張感や恐怖感のようなものが強く支配している時間がコンサートなのです。リハーサルでは一度も間違えなかった奏者が、本番になって間違えてしまうこともよく起こります。

 特に、曲が始まってすぐにミスが起こった場合は厄介です。学生オーケストラのように経験が少ないオーケストラの場合、最初のひとりのミスが全体に恐怖感を広げ、「僕も失敗したらどうしよう」と、次に大事なソロを演奏する楽員も恐ろしくなってしまい、変に力が入ってさらに次のミスを誘発してしまうこともあります。ミスが連鎖しなくても、オーケストラ全体が委縮して、実力を発揮できなくなってしまうことも珍しくありません。

 そのため僕は指揮者として、最初の5分間が無事に進んでくれたら一安心します。楽員のミスばかりは指揮に関係なく“起こる時は起こる”ものですが、ある程度曲が進んでからのミスは集団心理に強く影響を与えないのか、その後のミスを誘発しないためです。

 野球で、ピッチャーが1回の先頭バッター相手にフォアボールを出すのと、3回の先頭バッターにフォアボールを出すのでは、チームメイトの雰囲気が全然違うということと同じかもしれません。

 さて、今晩はぜひご自宅で、お好きな音楽や若い時代にはまった音楽を聴いてみてください。小曽根さんのライブ配信はもちろんですが、クラシック音楽はお薦めです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

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●篠﨑靖男
 桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
 2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
 国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
 現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/

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