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不動産仲介&引っ越し業者は新型コロナの影響なし?稼げる人と稼げない人の二極化進む

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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中小のビルも目立つ、東京都台東区(写真はイメージです)

 3月下旬。東京都内の賃貸物件専門の仲介業者に「中小の賃貸マンションやアパートの動き」について聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

「ファミリー世帯の住み替え需要は、例年とあまり変わりません。単身世帯では、社会人の需要も活発です。学生さんは入学式が中止となり、在校生の新学期開始も遅れていますが、地方からの上京者には『いずれ住むのだから』と、物件を決める人もいます」

 その後、4月中旬に聞いた際も同じような答えだった。都内の人気路線の駅前で事業を営む業者――という優位性はあるだろう。だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で外出自粛が強化され、どんどん消費経済が冷え込むなか、意外に感じた。

 本来なら春は、特に都市在住者にとって引っ越しシーズンだ。コロナの影響はどう出ているのか。一般人の暮らしを反映する、中小賃貸物件の現状から探ってみた。

 なお、コロナの展開次第で、状況や事情が一変する事態も考えられる。「制度」の案内も後述するが、本稿は執筆段階での内容と認識いただきたい。

大手引っ越し業者は「例年の混み具合」と語る

 冒頭の仲介業者のように「例年と変わらない」という声は、一部なのだろうか。

「当社でも、一般のお客様からの『引っ越し料金の見積もり』依頼は例年と変わりません。スケジュール的に対応できない時もあります。社内では『世間はコロナで大変なのに、なぜウチはこんなに忙しいのだ』という声もあるほどです」

 こう話すのは、賃貸物件の動きに直結する、大手引っ越し会社の営業担当者だ。主に都内・近距離での移動に対する答えだったが、業界内では「例年のような『3~4月上旬に集中』が分散し、5月以降の引っ越し事例も増えてきた」という話も聞く。

 また、「コロナの影響で、引っ越しを伴う春の人事異動を一時見送る」企業もある。中期的には、こうした影響も出てきそうだ。

 4月17日、コロナ感染拡大防止策としての「緊急事態宣言」が全国に拡大され、当面は5月6日まで不要不急の外出自粛などが要請された。特に、ゴールデンウィーク時期の都道府県をまたいだ旅行や帰省を抑える意味合いが大きいが、しばらくは「人の移動」に制限がかかるだろう。

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愛知県名古屋市にある雑居ビル(写真はイメージです)

家主の業界団体は「良い話は聞かない」

 もう少し視野を広げて、「全国賃貸住宅経営者協会連合会」(以下、ちんたい協会)に話を聞いた。同協会は設立して半世紀を超える業界団体で、会員には大手業者もいるが、多くは限られた戸数を貸す「アパート(マンション)の大家さんの団体」だという。同協会理事・事務局長の稲本昭二氏は、こう話す。

「あまり、良い話は聞きませんね。コロナの影響で、貸し手も借り手も厳しい状況が続いています。貸し手の立場では、三菱地所や東急不動産といった大手は、ビルなどに入居するテナントで、売り上げが大きく落ち込んだ相手(借り手)の賃料(注:土地の地代と建物の家賃の総称)を『個別に支払い猶予を検討する』という報道がされました。

 でも当協会の会員には、中小の大家さんが多い。毎月、入金された家賃を別の支払いに充てるという資金繰りをする人も目立ちます。大家さん自身の生活費はもちろん、リフォーム資金や税負担、借入金の返済などもあるからです」

 借り手の立場も同様だ。会社員であれば、勤務先の“資金体力”により当面の給与は維持される人が多いだろうが、中長期的には不安定だ。外出自粛の影響をまともに受けた、外食業界や旅行業界はもちろん、イベント業界も、たとえばコンサートやテーマパークを休演・休業している。現時点では再開の見通しが立たない。人気業界だった航空会社も搭乗者は大幅減だ。各業界の社員は落ち着かない日々を送っている。

フリーランスや自営業者も、今後は、稼げる人と稼げなくなる人に、さらに分かれていくだろう。コロナ猛威は、ほぼすべての業界を直撃した。

人気個人店・経営者の悲痛な声

 飲食店の苦境は、ほかのメディアも報じているが、普段カフェを取材する機会も多い筆者として、過去に取材した人気カフェ(個人店)の悲痛な声も紹介しよう。

「東京都のより踏み込んだ外出自粛要請を踏まえて、休業することを決めました。『儲かっているから大丈夫』と思う人がいれば、まったくの誤解です。これまで多くの方に来店いただきましたが、3月末に出された自粛要請以降、売り上げは8割減です。でも、もしも従業員やお客様、業者さんなど、当店に関わってくれる誰かに万が一のことが起きたら、私は一生後悔する。そう考えて休業を選択することにしたのです」(A店)

「営業すれば、働くスタッフの人件費はもちろん、ローン、リース、家賃、光熱費もかかります。休業しても必要経費はかかります。店内飲食で商売をしてきた店は、テイクアウトだけでは従業員も雇えないし、食べていけません。当店も感染拡大防止の視点で、休業することにしました」(B店)

 いずれも、コロナの影響を受けるまでは繁盛店だった。このコメントにあるように、「店内飲食」を柱に据えて運営してきた店は、外出自粛が長引けば長引くほど厳しくなる。多くの店は賃貸物件で営業しているので、「家賃支払い」が重くのしかかる。

各種の「救済制度」を利用できるか

 個人でも同じだ。家賃支払いに困る人向けに、行政も支援の手を伸ばしている。

 厚生労働省は4月20日、生活困窮者自立支援制度にある「住居確保給付金の支給」の対象拡大を実施した。従来は失業者(離職者)を対象にした制度だったが、同日からは働いている人(現職者)も対象となった。会社の正社員だけでなく、派遣社員や受注が減ったフリーランスも、制度の要件を満たせば受給できる。

(参考:厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」の概要

(参考:4月7日に厚生労働省から自治体担当部局に出された事務連絡

 前述のちんたい協会も、主に家主向けに、各種のガイドブックを制作・発行している。

 これ以外に、都道府県や市町村が独自に行う支援制度もある。複数の制度を併用できないケースもあるので、興味のある人はお調べいただきたい。

「許認可権」として、強気な姿勢は厳しくなる

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地方都市では事情が異なるが(写真はイメージです)

 都心部と地方では事情が異なるが、都内の人気エリア賃貸物件は、まだ旧来型意識の関係者も目立つ。採否を持つ「許認可権」を盾にした姿勢だ。

 たとえば、需要が活発な物件を所有する家主のなかには、「収入が安定した会社員が希望。収入が不安定なフリーランスには貸さない」と、現時点でも強気な姿勢の人もいる。

だが、コロナによって「会社員も昨年までの収入が保証されない時代」となってきた。

 さらに、賃貸条件に「事務所の利用不可」を掲げる物件もある。多くの人が出入りする事務所なら理解できるが、コロナで一般化したリモートワーク(在宅勤務)は、今後も一定部分が残るだろう。そうなると「事務所」の定義も変わってくる。

 また、賃貸住宅の運営会社のなかには、住宅の借り手が申請する書類に「そこまで個人情報が必要なのか」という内容も見受けられる。たとえば「緊急連絡先は保証人以外」として、「携帯番号」のほか「緊急連絡先の相手の生年月日」を記入させる例もある。同社なりの言い分はあるだろうが、ここまで情報収集する意味合いを感じない。

 最近、コロナ収束後を示す「アフターコロナ」という言葉が出てきたが、当面は、コロナと向き合い続ける「ウィズコロナ」になりそうだ。

 これまでの「花形業種」や「安定収入」が揺らぐ現状では、賃貸物件業界も様変わりしないと、人口減少の「コロナ大不況時代」に生き残れない。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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