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「雑草系臨床心理士・杉山崇はこう考えます」

コロナ感染者9割が健康被害なしとの調査…「高齢者の感染」防止で事態は大幅に改善する

文=杉山崇/神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授、臨床心理士
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中国で新型ウイルス肺炎拡大 武漢市の病院(写真:AFP/アフロ)

 新型コロナウイルスの猛威が一向に収まりません。世界の死者は執筆現在で14万人といわれ、世界経済も大打撃を受けています。どこまで、私たちの命と暮らしが脅かされるのか、先行きが見通しにくい状況が続いています。

新型コロナウィルスに対して、なぜ楽観的だったのか?

 ところで、新型コロナウイルスのリスクが言われ始めたのは2019年末から2020年の年始にかけてからでした。しかし、今となっては信じられませんが、当初は世界的に楽観的な空気が支配的でした。 

 感染症医学の専門家のなかにも楽観的な見通しを語る声もありました。その背景には、「感染症の毒性と感染力はトレードオフ(反比例)である」というシンプルかつ説得力のある公式(e.g.,高倉,2009)があるからです。

 この公式を説明すると、次のようになります。

・毒性が強い感染症は感染者が弱ってしまうので行動範囲が狭くなる。

・その結果、感染させる人も少なくなり、感染力が下がる。

・一方、毒性が弱いと感染者が活動し、感染させる人が増える(感染力が上がる)。

・ただし、毒性が低いので仮に感染しても大事になるリスクは低い。

 私はこの公式を「感染症の公式」と呼んでいます。仮に新型コロナウィルスがこの公式に当てはまるのであれば、そんなに恐れる必要はありませんでした。

楽観的な見通しは絶望的な見通しへと変わる

 しかし、大量の死亡者を出したイタリア、フランス、英国、アメリカ、ドイツ、カナダ(執筆時点での人口あたりの死亡者数順)での惨状が伝えられるなかで、この認識は徐々に書き換えられてきました。感染前は健康と思われていた若い方の死亡事例もニュースとして大きく扱われました。そして、「みんな、もっと怖がって!」というプロパガンダが世界中に溢れました。日本でも全国に「緊急事態宣言」が出されるに至っています。筆者は安全第一という観点からは、この流れは極めて正しいことと考えています。

 世界の政治リーダーは、絶望を超えれば希望が来る、という見通しを語って、人民を勇気づけようとしています。しかし、感染の不安だけでなく、経済的な打撃の余波がどこまで及ぶか見えないなかで、将来に不安を抱える人が多いのが実情です。かく言う筆者も、感染と経済の両方に不安を抱えながら日々を過ごしている一人です。

感染症の公式は崩壊したのか?

 さて、話を感染症の公式に戻しましょう。現在は公式通りの事態になっていません。新型コロナウイルスにはこの公式は当てはまらないのでしょうか?

 ここに興味深いデータがあります。メガクラスターとなった米原子力空母セオドア・ルーズベルトのデータです。約4800人が搭乗するこの空母は4月14日の報道では、585人が感染していると考えられ、157人が重軽症含め何らかの症状を呈し、1名が死亡したそうです。お亡くなりになった1名のご冥福を祈らずにいられません。

 ただ、この貴重なデータから私たちは学ばなければなりません。

感染者の88%が健康被害なし 感染症の公式は崩壊してはいない?

 このデータでは感染しても症状がない、すなわち自覚できる健康被害がない人は約73%、そして死亡者は0.001%となります。このデータは「丈夫な男性中心の軍人における特殊なデータ」と見えるかもしれません。ただ、次のデータも合わせてみてください。

 4月16日に「ForbesJAPAN」が米ニューヨークのコロンビア大学メディカルセンターとニューヨーク・プレスビテリアン病院が行った調査を報じました。それによると、同センターで出産した215人のうち2%相当の4人に症状があり、全員が陽性でした。一方で、無症状の方のうち29名が陽性で、感染していると考えられる人のなかで88%は明らかな健康被害がないのです。

 軍人と妊婦。一見すると、共通点がない人たちに見えます。ですが、実は共に「ある程度若くて、それなりに健康な層」といえるかと思われます。ニューヨークのデータは母数が少なく、またどのような社会階層の方なのか不明なので一般化には慎重になる必要があります。ただ、感染しても健康被害がない方が多いことは強く示唆されているといえます。つまり、少なくとも感染症の公式は「ある程度若くて健康な層」においては崩壊してはいないといえるでしょう。

不安の方程式

 さて、ここで別の公式をご紹介したいと思います。実は心理療法の文脈では「不安の方程式(P.Salkovskis他)」が考察されています。

 この方程式は心理教育(心の仕組みを簡単に説明する心理支援)のために考察されたものです。なので、不安をすべて解き明かせるという方程式ではありませんが、この方程式による説明で多くの方が不安を軽減することができています。したがって、不安の性質の一端を表しているといえます。

 この方程式は、

「不安=最強最悪の事態における危険性×最強最悪が本当になる可能性/最強最悪な事態を防ぐ手立ての有効性」

で表されます。分母に当たる手立ての有効性が下がると、不安はどんどん膨らみます。仮に有効な手立てが「0」なら、最強最悪の事態が本当になる可能性が「0」でない限り、不安は無限大(∞)になります。要は、有効な手立てがないと、不安は限りなく大きくなるのです。

無限大(∞)の不安

 仮に不安の方程式における「最強最悪な事態」を「死亡」に設定してみましょう。新型コロナウイルスに感染した際の実際の致死率はまだわかりません。しかし、厚生労働省が4月13日に公表したデータでは、日本では感染しても30代以下で死亡した人はいません。このデータに基づけば、可能性「0」なので不安も「0」です。

 ただ、一方で現状ではこのウイルスに感染した際の治療法はありません。有効な手立てが「0」の状態です。したがって、「死亡リスクがある」となると、不安は一気に無限大(∞)まで上昇します。

 2020年3月には、当初は新型コロナウイルスに楽観的だった欧米から、「若い人でも死者が」というニュースが次々に報じられました。実際のところ、可能性はかなり低いと見られています。しかし、どんなに可能性が低くても、可能性「0」ではなくなりました。

 特に高齢者は重症化リスク、死亡リスクが極めて高いとされています。現代のような高齢社会では、「感染させるリスク=死なせるリスク」になります。「死なせる可能性」も合わせると、最強最悪が本当になる可能性はかなり高い状況です。こうして、今の私たちは無限大(∞)に膨らんだ不安に包まれています。

高齢者を守れば「感染症の公式」が機能する

 では、どうすれば私たちはこの事態を抜け出せるのでしょうか?

 不安は安全を確保するための感情です。不安の方程式に基づいて、不安を下げる手立てを打てば必然的に安全を確保できます。要は「最強最悪が起こる可能性」を小さくすればいいのです。

“最強最悪”として最も可能性が高いのは、高齢者の死亡です。私は高齢者医療や高齢者政策の専門家ではありません。ただ、これまでのデータに基づいて不安の方程式を紐解くと、何をすれば良いのかが見えてきます。高齢者を守れば良いのです。

 たとえば「高齢者がほぼ絶対に感染しない社会的な環境整備」「高齢者が仮に感染しても重症化させない医療の開発」などができれば、事態が大きく改善するといえます。これだけで、感染症の公式が機能して、私たちは再び前向きに日々を生きることができるからです。

 仮にこのような施策をとった場合、高齢者の方々のプライドを傷つけないかが心配です。ただ、この有効性は感染症の公式も不安の方程式といった、人類の叡智たる科学が示唆するところです。

 今は高齢者をターゲットにした施策ではなく、「全国民への○○」がトレンドのようです。今後は本当に注力するべきポイントに本当に有効な施策が取られることを願っています。はやく、みんなが笑って交われる日々が来ますように!

(文=杉山崇/神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授、臨床心理士)

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