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江川紹子の「事件ウオッチ」第150回

江川紹子の考察【新型コロナ対策「店名公表」】をめぐる懸念…強権主義の誘惑には抗いたい

文=江川紹子/ジャーナリスト

権限のない取り締まりへの期待に困惑する警察

 他の自治体でも、営業を続けているパチンコ店に対する視線は厳しい。警察には「開いているパチンコ屋を取り締まってくれ」という市民からの電話が相次いでいる、という。

 休業に応じないパチンコ店は警察が取り締まるべきだ、という主張は、メディアからも出ている。

 テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』のレギュラーコメンテーター玉川徹氏は、早くから番組の中でパチンコの問題に言及。警察による強い行政指導を求めて、こう発言していた。

「パチンコ業界だって、(管轄する)警察庁が『(店を)閉めてくれ』と言ったら閉めるでしょう」
「そこは『(店を)閉めてください』と(警察庁が言うべき)」

 この発言を、ネットで肯定的に広めている論者もいる。水島宏明・上智大教授は、ネットメディアで繰り返しこの番組を取り上げ、「警察庁を動かすことを考えるべき」と太字で強調している。

 しかし、警察にはパチンコ店を含む遊技場営業開設の際の許認可権はあっても、すでに営業している店を休業するように求める権限があるわけではない。警察のような公権力に、法的な裏付けのない権力行使が許されないことはいうまでもない。許認可権をちらつかせて、法的根拠のないことをやらせようとするのは、相当にまずいのではなかろうか。

 安倍晋三首相も記者会見で、警察権力を私権の制限に使うことに、抑制的な姿勢を示している。「緊急事態宣言に伴い、警察の職務質問を活発化させたり風俗営業への取り締まりを要請したりすることはあるのか」という質問に、こう答えた。

「(特措法には)罰則がありませんから、警察が取り締まるということはありません。ただ、ご協力は要請させていただくことはあるかもしれません」

 実際、愛知県では県職員がパチンコ店の休業要請をして回ったが、その際、県知事の要請で警察官が同行した。ただし、それは万が一トラブルが起きた時に制止するため。警察官は県職員の後方に控えていて、要請に関する発言はしないという。

「我々には(パチンコ店)取り締まりの権限はなく、権限がないことをやれと言われても困ります」と、現場は警察に対する“期待”に困惑している。

 権限を逸脱した警察の行為を批判すべきメディアが、許認可権をちらつかせて圧力をかけさせようというのは論外というべきだろう。ウイルスの拡散防止という大義名分のもとでは、そういう自制すら働かなくなってしまうのだろうか。

 憲法を改正して緊急事態条項を入れるべしと主張する安倍首相が、現実の危機的状況に対しては強権発動に慎重になり、リベラルと見られていた論者が強権発動を期待するという、予想外の逆転現象になっている。

 このほかにも、政府の緊急事態宣言、その後の個別事業所への休業要請、緊急事態の全国への拡大などでも、東京都などの自治体が政府を突き上げる構図が繰り返されてきた。それに対して、西村康稔経済再生担当大臣が「私権の制限には慎重で」と応じる場面を私たちは見てきた。

 これについて、世間は圧倒的に小池百合子都知事らを支持している。世論調査を見ても、緊急事態宣言を「遅すぎた」と見る人が多く、政府のコロナウイルス対策を「評価しない」とする人が7割前後にのぼる。たとえば、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が4月11、12両日に行った合同世論調査では、幅広い業種に休業自粛などを求める都の方針を「支持する」と答えたのは74%にのぼり、2週間程度の外出自粛効果を見極めようとした政府への支持は12.5%にとどまった。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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